008「エルフの薬屋さんというテンプレ-2」

「相変わらずヴィルの作るご飯は美味しいわねー」


そう言ってくれるのは嬉しいんですが、なんで店に持って来て食べてるのです?奥で食べて来て下さいよ。


「私の店だもの。何しようと私の自由じゃないかなー?」


もう何も言わないので好きにして下さい。


この残念美人には何を言っても無駄だと今日も悟ったので、諦めて俺は読みかけだった本を開く。


客がいない時間は基本的に暇なので、趣味と実益を兼ねて本を読むことが多い。


薬の調合の練習もしたいのだが、いつ客が来るかわからないので店番中は出来ない。


残念美人なレーラさんは意外にも結構な読書家で、この家にも相当な数の本があるのだが、読み終わった本はその辺に積まれている事が多いのでその度に片付けは俺がやってたりする。


レーラさんから借りて読むこともあるのだが、今日はこの街から北の方へ何日も行った地域に生息している動物や魔物の解体方法について書いてある本を店に来た客が安く売ってくれたのでそれを読んでいる。


本の筆者は冒険者らしく、解説や注意点なども図解付きで細かく書いてあるので勉強になる。


「ヴィールーひーまー」


角が三本ある鹿のような魔物について書かれているページを読んでいたら残念美人が騒ぎ出した。


「店長、暇と言われましても特にしなきゃいけない事がないなら本でも読んだらいいんじゃないですか?」


本から目を離さずに答える。この鹿みたいなの角から出汁が出て美味しいのか、角出汁とか気になる。


「本を読む気分じゃないからひーまーなーのー」


暇なら食べ終わった食器を片付けて欲しいんだけどなぁ…。


俺がいないときは自分でやっているはずなのに、どうして俺がいるとやってくれないのだろうか。


「暇つぶしに話でもしましょー客も来ないし」


これは相手するまで騒ぐパターンだな。


レーラさんに聞こえるように小さくため息をついて本を閉じる。


「とりあえず、食器を片付けて来るのでそれぐらいは待ってて下さいね」


食器を持って台所に向かう。流し台に食器を置き、備え付けてある魔道具に魔力を通す。


この魔道具には水の魔石が組み込んであって、魔力を通すと水が出て来る。日本の流し台や洗面台と同じような感じで使えて便利である。


こういう魔道具を考案したり発明したりしたのも転生者や転移者なのだろうか?


固定電話や携帯電話みたいな通信機器はないのにこういう日常生活を便利にするような物は結構普通にあるよなこの世界は。


「ヴィールーはーやーくー」


考え事をしながら食器を洗っているとお呼びがかかったので手早く済ませる。


「店長、少しは待ってくれてもいいと思うのですが?」


「食器なんて後でもいいじゃない。私の相手が最優先でしょー」


ほっぺたを膨らませながら言わないで下さいよ。


美人なのにそういう子供みたいな表情をすると可愛く見えるのはずるいと思う。


きっと、残念の中身を知らなかったら一目惚れしてる。


「それで、店長は何か話したい事でもあるんですか?」


「んー、特にないよ?」


……本当にただ暇を潰したかっただけなのか。


まぁ、客が来るまではレーラさんの暇潰しに付き合えばいいか。


そう思ってしばらくレーラとつらつらと会話をしてたんだけど、おかしい。


客が来ない。


客なんて来るときは来るし、来ないときは来ない。それが当たり前なんだけど、ここまで来ないのは珍しい。


街にはこの店以外にも薬屋はあるけど、この店は薬の種類も多ければ効き目もいい。


一般市民が使う軽い傷薬から風邪などの病に使う薬から、冒険者が使うような解毒薬や虫除け。少し変わった薬だと貴族みたいな金持ちが買ってく媚薬みたいな怪しい薬まで取り扱っている。


何より、中身は残念だけど見た目は美人なレーラさん目的で店に来る客だっている。


だからここまで客が来ないのは相当珍しいんだけど、あぁもしかしてこれって。


「店長、まさか何かしました?」


この残念美人、まさかとは思うけど客が来ないように魔法使ったりしてないよな…。


「あらー、人払いの結界に気付いたのヴィル?」


なんか言い出したよ。


追加で、ヴィルにはわからないように薄くしたんだけどなーとか聞こえてきた。


なんか軽く頭痛がして来たけど、無駄だとは思うけど一応聞くだけ聞いてみよう。


「魔法には気付きませんでしたけど。珍しく客が一切来ないから念の為に確認しただけなんですけど…店長、何故にそんなことを?」


「えー?そんなの何となくだよ?」





人払いの結界って結構難しい魔法だって前に本で読んだんだけど、それを何となくで使われても困るんだけど。

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