007「エルフの薬屋さんというテンプレ-1」

「では院長、今日もいってきます」


社畜の朝は早い。クソガキ達による戦争のような朝食を終えたらさっさと準備をして仕事に行く。


何故か、院長に呼び止められたので話を聞く。


「あー、はい。ちゃんと覚えてます。来月の創造の日は仕事を休みにしてありますから大丈夫です。予定ももちろん入れてありません」


そんな不安な顔しなくても、やんちゃなクソガキだったのはもう昔の話なんだから少しは信用して欲しいんだけどなぁ。


多少大人しくなろうとまだ信用出来ないって顔をしてる院長に再度挨拶をして孤児院を出る。


雲がほとんどなくて天気が良い。つい先日まで寒さが残っていたけど、今日は暖かくなりそうだ。


今日は3の月・3の週・土の日。日本の暦だと3月の下旬くらいで、やっと寒さが落ち着いて春らしくなってきた。


異世界でもこの辺りの地域は四季があって、日本にいた時と変わらないから俺個人としては慣れ親しんだ四季があるってのは大変嬉しい。


孤児院のある街の西側の地区から商業街である東側の地区へ、大通りには八百屋や肉屋など色々な店舗が並んでいてその多くは既に営業している。


俺の職場は大通りの端の方へ行き、さらに一本脇道に入りすこし歩いた場所にあるのでちょっと遠い。


「おはようございますー。あ、新商品入ったんですか?また帰りに寄りますわー」


ここ数年ですっかり顔馴染みになった大通りの店員達に挨拶を返しながら歩く、干し肉が安いらしいので帰りに買おう。


「……店長、まだ寝てるのか。本当に朝弱いよなぁ」


職場へと到着する、いつも通りのだったので仕方ないから、裏に回る。


二階建ての店舗兼住居、それが俺の職場。一階は販売をする店舗、二階は店長の私室。小さな庭まであるので店長が一人で住むには十分な大きさである。


裏口を預かっていた鍵で開け中へ、すっかり嗅ぎ慣れた薬の独特な匂いが迎えてくれる。


店舗はどうせ起きて来ないので後回し、さっさと開店準備を始める。


店内の掃除や商品の在庫確認をして足りなければ補充、入り口の鍵を開け看板を出す。


「『レーラの薬屋』今日も無事に開店と」


さて、今日も労働しますかね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おはようヴィルー。今日も早いわね」


ふわぁと欠伸をしながら店長であるレーラさんが店に顔を出す。


「店長、もう昼過ぎです。前から何度も言ってますがもう少し早く起きて下さい。あと、格好がだらしないのでさっさと着替えて下さい」


ひらひら手を振りながら奥に引っ込んで行く残念美人を見送る。


見た目は最強に美人なんだがなぁ…。


誰が見ても美人だと判断する整った顔立ち、日焼けなんかした事ないと言わんばかりの白い肌、腰ぐらいまで伸ばしたさらっさらの金色の髪、新緑のように綺麗な碧色の瞳に、先がとんがった長い耳。


背は女性にしては高い、そして胸は少し薄い、スレンダーな美人さんという感じ。


異世界テンプレそのままの美人なエルフ、俺の雇い主で店長のレーラさん。


ただし、実際は相当な残念美人。


性格は大雑把でほぼ全てが適当。今日はこの時間に起きて来たけど、俺が店にいる間に起きて来ないことすらある。


エルフなんてだいたいこんなだからーと自分の容姿にも服装にも無頓着なので、だらしないというかエロさを感じるような格好でも平気で人前に出て来る。


服装に無頓着なのはエルフだからじゃなくてレーラさんだからでは?と何回か突っ込んだけどスルーされている。


ちなみに、さっきはタンクトップにホットパンツみたいな格好で店に顔を出して来た。


襲われるぞと思わなくもないんだが、レーラさんは一人で薬の材料になる薬草やらを探しに行ったり、魔物を討伐して素材を取って来たり出来る腕を持った冒険者でもあるので襲って来た奴を普通に叩きのめして返り討ちにする。


「あ、いらっしゃいませー。どのような薬をお求めで?二日酔いの薬??はい、ありますよーこちらになります。用法や用量についての説明は?前にも買ったことあるから大丈夫。はい、ありがとうございましたー」


「いらっしゃいませー、傷薬?ありますが、どんな怪我ですか??切り傷ならこの塗り薬ですね。傷を綺麗にしてから薬を塗って包帯を巻いて下さい。はい、ありがとうございましたー」


「いらっしゃいませー。……媚薬?流石に売ってないですねー、法律でもグレーゾーンなので。似たような効果のある薬ですか?んー、元気に夜の運動が出来るようになるやつならありますけど…それでいい?お買い上げありがとうございますー」


レーラさんは薬を調合する腕も優秀なので、こんな感じで店の売り上げも悪くなかったりする。


「ヴィルーご飯あるー?」


残念美人の声が奥から聞こえてくる…。


ご飯なら冷蔵庫に入ってる物を適当に食べてください…温かい物が食べたいから作って欲しいって、なら店番代わってくれれば作りますよ。


あぁ、そういう格好で店に出てこないで言ってますよね?せめてもう一枚上着を着て下さい。


何処にあるのかわかんないって…こないだ片付けたとこ教えましたよね?


はぁ、相手にするのが面倒になって来たので店番代わって下さい。上着持って来たらご飯作りますので。





なんというか、手の掛かる姉を持った弟ってこんな感じなのだろうか?

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