近づく心
家から出る頃にはすっかり日も傾き空は朱に染まっていた。
「それじゃあまた明日よろしくね」
二人に手を振り大通りに戻る。本来であれば明日の朝一番にこの街を発つ予定だったが、
「そう言えば……今は王宮には誰もいないの?」
素朴な疑問。あの日血を全身に浴びていたのは凛だけだった。それ以外の人々はみんな村にいたし、今だって村人全員での大移動。王宮には誰もいないことになってしまう。
けれど、
不安に思う私に、凛はなんてことない調子で「僕がいるからね」と言った。思わず彼の顔を見ると、いつも通り微笑んでいる。
——凛なら十分あり得るわ。
そう考える私ももう立派に彼に毒されているのだろう。それが特に嫌でもなく、むしろ嬉しい、なんて。
「もうなんで?どうして?って聞かないんだね」
「すっかり慣れてしまったもの」
「そっかあ、流石に今回のは冗談なんだけどね」
立ち止まって頬を膨らませれば、凜は頬をつつきながら「ごめんて」と笑う。
「流石に僕もそんな魔法は知らないし……この世界にそんな技術もまだ育っていない」
彼がつぶやく言葉の意味は分からないけれどそんなことはどうだっていい。彼に揶揄われたことがなんとなく気に入らない。
「
言われてみれば、村の男たちと言うと子供のいる年の男か、ランスは別だが杖を突くような老人、そしてまだ幼い子供たちだけだ。
「そうだったのね」
「うん。だから今回は雷麗のためでもあったけど、離れなくても暮らせるようにするって言う目的もほんの少しはあったんだ」
そう言った凛の視線の先には幼い子供と母親が手を繋いで歩いている姿があった。そんな親子を眺める彼の横顔はとても寂しそうで、私は彼の手を握る。はしたなくたって構わない。ただ、彼の心に寄り添っていたかった。彼がここへ来たとき、それはもうずっと昔のことだと思う。その時彼と同じ色をした人はいなかったと記述にも残っている。つまり彼は故郷に家族を残してきたということだ。彼と同じ不老不死なのか、それとももう既に――――。
鼻の奥と胸の奥が痛む。思わず流れそうになる涙を必死でこらえた。泣くのは私の役目じゃない。
「帰ろっか」
いつもの声で発せられた声はいつもより細くて儚い。ぎゅっと握り返された手から伝わる凛の心に、私は息が上手く吸えなかった。
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