荷造り
私が見た夢は何だったのだろう。
まるで雪が降り積もるように覆い隠されていく夢の記憶は、今ではぼんやりとしか思い出せない。思い出そうとすればするほど遠のいていくのは、きっと彼が私に知られないようにと、何かしているのだろう。
不意に思い出す姉の首に、私は吐き気を覚えた。そう、あの夢には姉が出てきた。姉が見せた夢だろうか?
考えても埒があかない。
「……けど、凛に聞くのは気がひけるわ」
認めたくなくてずっと否定してきた考え。それは、凛が人では無いと言うこと。時が経つにつれて突きつけられるその現実がたまらなく怖い。
彼が人間では無いだなんて、きっと初めから分かっていた。
そして、そんな彼に本能的に私は惹かれている。
「私も人では無いのかしら」
口から溢れた言葉。凛が化け物だと認める時、それを同時に認める気がした。
——だから怖かったんだわ。
胸の内にふつふつと湧くこのどうしようもない恐怖が、涙となって流れていく。
「
ガタリと音を立てて戸が開き、マネとリーチェが現れた。二人は心配そうにこちらを窺っている。二人の顔を見ると、それまで凍えていた心臓が安堵感に満たされた。
「マネ、リーチェ……」
二人に泣き顔なんて見せたく無い。そっと目尻に残る露をすくい、笑顔を作った。
「無理しないでください……それより、大丈夫でしたか?」
大丈夫、とは姉のことだろうか。それとも、凛の事だろうか。
「ええ……」
私の言葉に二人は安堵のため息を漏らした。二人の様子から察するに多分両方だろう。
「凛様が、明日にでも都へ発つと仰っています。……私たちは雷麗様の出発の手伝いをするようにと言われてきました」
「……ありがとう。でも、私は大丈夫よ。二人だって準備があるでしょう?」
「私達は、昨日雷麗様が気を失われてからすぐに支度をしたので問題ありません」
「そう……あの、あなた達はこれでいいの?」
生まれてからずっと暮らしてきた土地を離れると言うのに、彼女達に戸惑いはなかったのだろうか。私は、都を追い出される時も、追い出された後も思い出してはあらゆるものを吐き出していた。
「私達は、何れそうなることがわかっていたので……」
「わかっていた?」
「はい。……凛様はいつも仰っていました。雷麗様にとってふさわしい場所は都であると」
やっぱり、凛は私が都にいた時から知ってるんだ。彼はいつから私を見つけたんだろう?
みんなの話をまとめると、私が生まれるのがこの
自分が追い出した手前気は進まないけれど、彼ときちんと話した方がいい気がする。夢のことも含めて。
「それじゃあ、私はこの薬草を詰めますね」
「では、私は道具を」
「ありがとう」
そうだ、今はとにかく支度を終わらせよう。時間なんて、永くて余りあるんだから。
————え?
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