リーチェ
リーチェがくると、ランスは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、捨て台詞を吐いて帰って行った。驚いたのはその場にいた半分が彼の家の人間だったこと。だから彼らは動かなかったのだ。
「
「ありがとう、助かったわ」
凛の側に座り、その手を包むように自分の手を重ねる。吹き出す汗を時折拭いて。それが功を奏したのか、凛はやがて静かな寝息を立てて眠った。
今のうちにと手拭いを洗いに水場へ行けば、そこにリーチェがいた。
「本当に貴方のおかげで助かったわ。……でも、どうして貴方がここに?」
「マネに聞いたんです。それで、きっとここだろうって」
「貴方達仲が良いのね」
私の言葉に、リーチェは目を見開いて頬を染めた。「そう見えますか?」と尋ねる彼女は先ほどまでの凛とした雰囲気は消え、年頃の少女の顔をしている。
「ええ、とっても。羨ましいわ」
「私は雷麗様が羨ましいです」
悲哀が混ざった笑みを浮かべるリーチェに言葉を飲み込む。
「あ、凛様の事では無いです。私はもとより
彼女の言葉に私は疑問符が浮かぶ。凛は確かにマネやその母親のリョウから嫌われている。けれど一方でランスや他の人々には好かれている。そして、四人は彼の事を愛してはいない。どこかちぐはぐな印象を受ける彼に、胸の内でもやがかかった。
「ご安心ください。凛様は雷麗様の事を心の底から愛しておられます。その証拠に、彼の方がマネを治療しました」
「それ、どう言う意味なんですか?……マネは元々あの人の婚約者だったのでしょう?それなのになぜ……」
「それは……っ!」
言いかけたリーチェは私の背後に現れた人物を見て口を噤む。一体誰かと振り向けば、いつもと同じ穏やかな笑みを浮かべる凛がいた。
「楽しそうだね、いつのまに仲良くなったのかな?僕も混ぜて欲しいくらいだ」
「もうお身体の方は大丈夫ですか?」
黄色い瞳で冷たくリーチェを見下ろす凛が怖かった。先ほどまでの少女らしさは消え、面のような熱を持たない表情を作る彼女と彼の間に入る。
凛はそんな私を視界に捉えると、まるで人形のようにぱっと表情を変えた。変わる刹那、人とは思えないような作り物めいた彼の無表情が、頭から離れない。けれど、今はリーチェと凛を離す方が先だろう。
「リーチェ、お願いがあるの。私の代わりにマネの様子を見ていてあげて。何かあればすぐ行くから」
顔だけ振り返って伝えれば、リーチェは深々と頭を下げて私たちを見送った。
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