家族

目が覚めると私は布団の中にいた。日はすっかり高くて、それだけ今が遅いとわかる。起き上がって辺りを見回しても誰もいない。マネがいるのは突き当たりの部屋だ、様子を見に行こう。

部屋を出てマネの元へ向かう。すると、よく知った二人の話し声が聞こえてきた。


「凛様が……私を?」


「ええ、多分雷麗様が頼んだからよ」


「そう……ああどうしたらいいの」


「大丈夫、私が何とかするわ」


少し様子がおかしいマネとリョウの声は部屋に近づく私の足音で止んだ。


「入っていいかしら」


断りを入れて中に入れば、マネは居住まいを正して私を迎え入れる。けれども、病み上がりの彼女に無理はさせたくない。崩すように告げれば彼女は丁寧に頭を下げると楽な姿勢を取った。


「もう、体は大丈夫なの?」


「はい、全て雷麗様のおかげです」


「私は何も……凛様が背中の傷を治してくださったからよ」


あの傷がそのままだったら今以上に処置は遅れる上に、あの傷が元で命を落としていたかもしれない。しかし、私の言葉にマネの顔は陰る。


「いえ、雷麗様のおかげです……」


「……少しでも力になれたなら良かったわ」


マネが凛を嫌っている理由はわからないが、命を救われても拒むと言うことはそれだけの思いをさせられたのだろう。これ以上自分が踏み込むことが得策とは思えず、私は話題を変えることにした。


「今日は一日様子を見て問題がなさそうなら明日には家に帰ってもらうわ」


「いえ、私はもう大丈夫です。これ以上迷惑をかけるわけには」


「いけません。少し前まで生死の境を彷徨っていたのよ?今日はゆっくり休まなきゃ」


少し強く言い過ぎてしまったか、マネはひと回り小さくなって落ち込んでいる。だからと言って自分の考えを曲げるつもりはないけれど。

リョウはマネの肩に手を回して私の足りない言葉を補うように諭す。


「迷惑だなんて思わないで。あの日、私を受け入れてくれた時から私はこの村のみんなを家族だと思ってるの。家族なんだから、助け合うのは当然でしょう?」


「はい……そうですね。では、雷麗様ももっと私達を頼って下さい」


「え?」


思わぬ返しに間抜けな声が漏れる。思わずリョウの方に視線を向けると、彼女もにっこり笑ってマネに同調した。


「そうですよ、気後れしてしまうのは分かりますが、なんでも聞いて下さい」


“家族ですから”


その言葉が胸に溶ける。じんわりと暖かくなって、涙が滲んだ。

心が満たされることの心地よさを私は生まれて初めて知る事ができた。

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