薬草採集
朝、
嬉しい誤算はこの山の環境が場所によって大きく変わる事。そのため、一つの時期に同時に入手することのできない薬草をいくつか見つけることができた。
「
少しの呆れを孕んだ口調に反省する。考えてみれば今日は薬草ばかりで凛を気遣うことなく山奥まで来てしまった。ここへきた時はまだ低かった太陽も、もう真上まで来ている。少しでも目を離せばすぐに見失ってしまうと、幼い頃から叔母に叱られていた私に、律義についてきてくれた彼。私は彼の方を向いて、謝罪する。
「ごめんなさい、次からは気をつけますね」
「いや、そんなに楽しそうな君を見たのは初めてだったから……もっと早くこうすればよかったね」
心なしかツンととがった
「そんなことありません!今だからきっとよかったのです」
足元に生えた一凛の花を手に取り差し出す。それは
「この花と同じ、何事もその時が来たから起こるんです」
全ては決まっている、と昔どこかの誰かが話していた。
「ですから、そんな悲しそうな顔はやめましょう。私は今とっても幸せなんですから」
微笑みかけるとぎこちない動きで翡翠草を受け取る
……けれども私も反省しなくては。思うだけでは伝わらないなんてわかっていたはずなのに、黙って、抱えきれずに迷惑をかけてしまうなんて、最悪だ。
「ありがとう、雷麗」
「どういたしまして。と言っても、その花は元々凛の物ですが」
「いや——」
——そうじゃないよ。
弱々しい声に凛を見れば、彼は儚げな笑み浮かべていた。
「僕についてきてくれた事が、ただ嬉しいんだ」
それを言うなら私の方だ。彼が連れ出してくれなかったら、今もあの屋敷で一人死ぬのを待つだけ。もしかしたら、今はもうこの世にいなかったかもしれない。たとえ生きていたとしても、心も体も壊れ切っていてはこんな穏やかな気持ちでいられることもなかっただろう。
ここへ来てからは、必ずしも良いものだけではなくとも、感情が動いた。すっかり忘れていた生きている感覚を取り戻せた。あの頃の私には想像もつかなかった今なのだ。
「それなら、私こそ感謝すべきです。貴方のおかげで生を実感できる」
「……雷麗は、今の暮らしと都での暮らし、どちらが幸せ?」
「そうですね、都は確かに便利でしたが、心を許せる相手もいませんでしたし、李族の皆さんとの生活の方が私は楽しいです」
まだ多少の距離を感じるが、自分に向けられた感情が根本的に違う。
それに、マネと言う友人もできた。
「そっか、分かった。じゃあそろそろ村に戻ろうか」
そう言うと私の身体がふわりと軽くなり、凛の顔が近づく。それはつまり、彼が私を抱き上げたと言う事だ。暴れ、叫ぶ私を意に介さず、彼は私が持っていた籠も背負うと走り出す。
「待って下さい!自分で歩けますから‼︎」
「でも、この方が早いから」
凛はそのまま私の言葉も聞かずに本当に村まで私を抱いたまま連れ帰った。広場にいた子供たちは私と凛を見て冷やかしてくる。それを見て周りの大人も
——こんな屈辱生まれて初めてだわ!
これを屈辱と呼ぶのかはさて置き、満更でもない様子の凛を置いて、俯いたまま足早で家に戻った。
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