李一族

 この国には禁忌がいくつかある。その中の一つに一族がいる。

 彼らは山奥に暮らすとても穏やかな一族だが、彼らに近づくことは許されていない。

 李一族の起源は遠い海の向こうと言われており、当時まだこの国には無い技術で巨大な船を造りやってきた。彼らはたくさんの宝を時の王に献上し、引き換えに土地と李の名をを譲り受けたらしい。しかし王都に近いその土地は多くの貴族の不興を買った。貴族たちは李一族を民を使って追い出し、荒野へと追いやった。けれども李一族はそれに負けず、時間をかけて豊かな生活をするようになった。


 ――ここまでなら単なるおとぎ話で終わる事。けれどこの話が禁忌とされるようになったのはその後に起きた事件のせい。

 彼らが迫害されても幸せそうにしていることを面白くないと考える貴族は一定数いた。そして、再び民を利用したのだがその方法は酷いものだった。

 当時この国では原因不明の疫病が流行りだした。そして、それの治療に必要な薬を貴族は買い占めて行った。薬が無くて途方に暮れる人々に貴族の男が言ったのは、

 彼らは外海人。つまり、あらゆる面で私たちとは異なった。一番分かりやすいものでいうとその色だ。肌も、瞳も、髪も。色とりどりな彼らはそのせいで民からも敬遠されていた。つまり、妙薬とは彼らの身体の一部のこと。髪だけならいい。しかし、眼球や皮膚でさえその対象になってしまった彼らは、乱獲され、その数を減らし人の寄り付かない猛獣が住む山の中へと消えていった。

 この事態を重く見た時の王は、件の貴族を公開処刑し、関わった家族も使用人も残らず見せしめとばかりに処刑した。

 王は自ら李一族のもとへ足を運び謝罪をした。族長は終始穏やかな笑みを浮かべていたらしいが、王が頭を下げた刹那、付き人の頭を残らず切り落としたらしい。

 ――これでです。

 王は這うようにして下山し、命からがら逃げ延びたという。

 この一連の事件から李一族には触れてはならないと言われるようになった。それは乱獲を戒める意味と共に、得体のしれない彼らにこれ以上関わらぬためだ。

 しかしこの話の全容を知るのはこの国でもほんの一握りだろう。王家には代々語り継がれると聞くが、私の婚約者は迷信だと鼻で笑った。もともと勤勉な性格でもない彼には書物など枕の変わりだったのだろう。基本的に持ち出し厳禁の書が誰でも読めるわけでは無い。

 つまり何が言いたいのかというと、私を連れだしてくれた外海人と思われる彼は李一族である可能性が高いということだ。そして、その逆鱗に触れてしまえば私も付き人のように殺されてしまうかもしれないということ。


 ――もともと死ぬつもりではあったんだから、その時はその時よね。


 ふと、彼の顔を見上げればパチリと目が合う。そして、ふにゃりと笑った。そうだ、この人がそんな残酷なことするはずない。妙に納得した私は、温かい腕の中で意識を失った。


「もう二度と目を離したりなんかしないからね」

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