言語変化Ⅱ -ピジンとクレオール


〈ピジン〉

 聞きなれない言葉ですし、正直ピジンやクレオールを体験したことのある方はかなり少ないでしょう。簡潔に言いますと、ピジンは濃厚な言語接触によって生まれた複数言語間の「補助言語」です。現実では地中海沿岸の交易に用いられたピジン「リングア・フランカ」が有名です。

 その昔の地中海では様々な国の商人がこれまた様々な言語(イタリア語・フランス語・ギリシャ語・アラビア語)を使って取引するのですが、いちいち通訳を雇う金も暇もありません。そこで互いが徐々に他言語の単語を覚えていき、その断片的な知識が多少体系化していきました。これこそがピジンなのです。

 さらに言えば、ハーフキャラの口調で一人称が「ミー」、二人称が「ユー」というものがありますが、これもピジンの一種、小笠原ピジンの名残です。ちなみに小笠原ピジンはこんな調子です:「ミーらはイングリッシュとジャパニーズをミクスしているだけだじゃ(1)

 ただしピジンはあくまで補助言語で純粋な言語ではありません。それは例えば一般的な言語に比べ、語彙や規則が少ないことや、母語としてこれを話す人がいないことなどからわかります。では、ピジンは一代かぎりで途絶えてしまうのでしょうか? いえいえ。実はピジンを母語とする世代が現れると、名前(概念)が変わっていくのです。



〈クレオール〉

 ピジンをたくさんはなす環境や家庭に生まれた子供はもはや母国語よりもピジンを母語として学習します。そうして「言語化した」ピジンをクレオールというのです。とはいっても、クレオールはすでに単一の言語ですから、ピジンとかクレオールとかは枠組みに過ぎません。作品内でも「○○語はクレオールだ」みたいなことを示しても白けるかテンポが悪くなるだけでしょうから、そういう時は二つ以上の言語が基になって生まれた言語とでも言っておきましょう。



〈応用例〉

 さて、とあるファンタジー世界の同一大陸内に、A,B,C,Dの四国が横並びに地続きで位置しています。Aはエルフ、BとCは人間、Dはドワーフが治めており、それぞれがそれぞれの民族の言語を用いています。隣同士のAとB、CとDは互いに友好的で、往々にして住民が行き来します。すると当然盛んに商売なども行われるため、住民の間ではABピジンとCDピジンが生まれ、さらに時が経つとヒトエルフ語ABクレオールヒトドワーフ語CDクレオールの、二言語が誕生することになります。

 ちなみにCとB国も同盟などで仲良しなのであれば、さらにヒトエルフドワーフABCクレオール言語が誕生する場合もありますね。あるいはもしCとB、またAとDの仲が大変悪いとしても、言語同盟によって言語そのものが似通っていくことが考えられます。


 またもう一つの応用例として、例えば現実の地中海沿岸のようにより広い地域でのピジン・クレオールが誕生した場合、小さな世界共通語が誕生する可能性もあります。人間界と魔界の交易ルートにこれまた様々な民族が入り乱れて形成されたクレオールが、いつしか多くの国での「商売言語」となる――もしこれを会得していれば大抵どの国でも意図が伝わるような、夢の共通語の誕生です!





(1)ニューズウィーク日本語版https://www.newsweekjapan.jp/column/tokyoeye/2011/08/post-369.php

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