第17話 集合

 明美と早苗が馬酔木に着くと、南がカウンターで泣いていた。その姿に驚いたが、妙子が「いらっしゃい」という前に、アラビアンナイト姿のマリリンが、

「あなた、グットライフ―近所のホームセンター―に」

 で言葉を止めた。

 明美と南で聞き返したが、マリリンは何も言わなかった。


「あー、いらっしゃい。珍しいね。二人で」

「まぁ……あ、いいですよ」

 明美が制止する前に、伊野と春乃、峰 美鈴はカウンターを離れた。マリリンだけはタロットカードを広げたままカウンターの中央に座り続けた。

 明美と早苗は、マリリンを挟んで、今まで峰 美鈴と春乃が座っていた席に座る。

「早苗がふらふら歩いてたんで、ここに連れてきたのよ。妙子にも話聞いてもらって、どうにかなればいいかなぁと思ってさ。でも……、南も気になるところだけど、」

 明美がそう言ったが、南は明美の顔を見て、

「あんたも、ずいぶん疲れてるみたいよ」

 と言った。

 明美は苦笑し、ため息をついてから、

「じゃぁ、たぶんね、症状が軽いあたしから話すわ。その後で、どっちかが話してよ。ね? 南だって、さっき泣いたばかりで、話すの大変そうだし」

 明美の提案に南は頷き、

「そうね、少し整理するわ」と言った。


「あたしの話は簡単よ。

 母がね、脳梗塞をして今施設に居るんだけど、まぁ、少し時間遅れて行けば、まったく来ない。薄情者だとか、捨てられただとか、暴言の連発。そのくせ少しでも長く居れば、用もないのに居なくていいとか。これを介護疲れというわけじゃないけど、もうね、行くのがしんどくなっててね。山ほどの暴言聞くのもうんざりで。

 ……まぁ、それはさぁ、親だし、母子家庭の一人っ子だから、いくら言われたって、そりゃ、仕方ないよ。と思う。思う……」

「悩み事はそのほかにあるの?」

 早苗が聞く。

 明美は天井を見上げ、少し頬を赤め、

「そこの介護士、母の担当をしてくれる清水さんて人がね、」

「意地悪なの?」

「……逆……好きだって、」

「誰を?」

「あたし」

 三人は黙って顔を見合わせる。

「介護士イコール女だと思うな。私よりも6歳も年下の男性よ」

 明美に言われ三人は首をすくめた。


 だって……、明美はその性格から、中学の頃後輩の女子からわんさかとラブレターをもらっていたのだ。宝塚じゃねぇと叫んでいたし、女が見てもほれぼれするような性格で、かっこよかった。


「だから、ちょっと、思ったが……。男性ならねぇ」

 と早苗が同意を求める。南も頷く。

「担当の介護士よ? 解る? 母親の担当者。みんな一律に世話を焼てくれているけれど、その娘と出来た日にゃぁ、えこひいきしているなどと言われてごらんよ。あたしは一日に数時間だけど、母は? 清水さんだって、他の利用者の家族になんて言われるか。

 べつに、そういう態度はとってなかったのよ。こっちだって、6歳も年下だし、そもそも男の介護士ってすごいですねぇ。ってぐらいの尊敬だっただけよ。

 それなのに、いきなり……。もう、ねぇ。どうしていいか」

 明美のらしくないテンパり方に三人は顔を合わせる。


「事は静かに流れるわよ。多少の荒れはあっても、悪いようにはいかないわ」

 マリリンはそういって左隣に座った明美に微笑んだ。

「え?」

「でもしばらくは行動は起こさないほうがいいわ。できればそうね、避けてみたりするする方がいいかもしれないわね」

「……避けてますよ。必要以上に会話もしないし、話しかけられそうになったら、誰かいるところへ行って聞くようにしてますよ」

「それでいいと思うわ。でも、事が動いたら、受け入れるべきね」

「う、受け入れるって、」

 マリリンは微笑み、タロットカードを切った。


「次は、あなたのほうがいいわね」

 とマリリンが南のほうを見た。南は驚きながら、先ほどの話を、今度は泣かずに、南なりに整理して話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る