再開

 桜の舞い散る通学路。

 君と出会ってから一年が経った。


「ねえ、明日は晴れるかな?」


 風に靡く金色の髪を片手で押さえる君の笑顔は桜のように色鮮やかで、綺麗だった。


「晴れるよ!」


『ブチッ』


 テレビの電源を切り、カップラーメンにお湯を注ぐ。


「このアニメで雨降ったことあったか?」


 スマトフォンでアニメ情報を見ながら麺をすする。


 誰だって理想を描いている。

 俺だって理想はある。

 だが、理想通りにならないのが現実というやつだ。

 だから、俺はオタクというやつになってしまったのだろう。


「明日から学校か……」


 静かな部屋に寂しさを感じ、独り言が増える。

 明日から新しい物語が始まるといった期待はなく、ただただ憂鬱であった。


 翌朝目が覚めると部屋は暗く、雨が降っているのが分かった。


「おいおい、晴れてないぞ」


 昨日のアニメを思い出すが、それを共有できる友達もいない。


『ガチャ』


 アパートの扉を開く。だが、なかなか歩くスピードが遅い。それは学校初日のうえに、雨という最悪が重なっているからだ。


「憂鬱だ」


 昨日のアニメに出てきた桜満開の通学路に似た道を傘から漏れる雨に塗られながら歩く。


 俺の前方には同じ制服を着た女子が、木の下で傘をさし、誰かを待っていた。

 すると、その少女がこちらに視線を向ける。

 あ、っと口を開けた女子がこちらに手を振ってくる。

 だが、見覚えはない。


「どこかでお会いしま……」


「久しぶり!」


 女子がそう言って近づいたのは俺の後ろを歩く背の高い男だった。


 俺は何事もなかったかのように早足でその場を後にする。


「最悪だ……また黒歴史が増えた」


「大丈夫でしょ。君にはもう数え切れないぐらい黒歴史があるし」


 俯いた俺の視界に入った綺麗な足。視線を少しずつ上げていくと、雨に濡れ、少し制服が透けている女子がいた。

 銀髪の髪に青い瞳。何故だかその女子に懐かしさを感じた。

 だが、黒歴史を増やすわけにはいかない。

 俺はその場を素通りした。


「ねえ、ちょっと待ってよ」


 俺の手を握り、俺の動きを止める女子。

 その手はとても冷たかった。一体いつからここに居たのだろう。


「あなたは……」


 俺は青い綺麗な瞳を見てそう言った。


「ねえ、明日は晴れるかな?」


 どこかで聞いたセリフだった。

 桜が舞い散る通学路。風に靡く銀色の髪を片手で押さえる君の笑顔は桜のように色鮮やかで、綺麗だった。


「このタイミングじゃなかったかな……」


 女子はメモ帳を取り出し、何かを確認している。


「それで、あなたは?」


「そっか、覚えてないよね。それなら、だいぶ前に君の隣に引っ越してきた幼馴染ってことで」


 色々な情報が俺の頭を駆け巡る。

 だいぶ前、隣、引っ越し、幼馴染。

 俺の隣の部屋には、いや、俺のアパートには俺以外住んでいないはず……。

 いや、正確には住んでいる様子はなかった。

 そして、幼馴染……。

 俺には確かに幼馴染がいた。だが、思い出せない。

 まるでモザイクのかかった写真のように、思い出せない。



「私の名前は、千味和(せんみかず)楓(かえで)。もしかして約束も覚えてない?」


 千味和……変わった苗字に楓というよく聞く名前。

 思い出した。


「思い出した」


 あの頃の夏、五人である謎を解こうとした。

 約束は覚えている。

 解けなかった謎を高校生になったらみんなで解こうと決めたこと。

 なんで高校生なんだっけ……。


「よかった。改めて久ぶり、光風(みつかぜ)義人(よしと)君。そしてこれからよろしくね」


 優しい笑顔で手を差し出してくる楓。

 俺はその優しく、冷たい手を握った。

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