第6話 本当の五月(メイ)は?

私と拓海くんは、五月メイが入院している横浜けいゆう病院を訪れていた。


「ねえ、五月さつきさん。五月メイはもう二週間入院しているんだよね。もう病状は落ち着いているのかな?」

病院のロビーを入って、五階の病室に向かうエレベーターを待ちながら拓海くんが私に聞いて来た。


「えっと、最初の三日で副腎皮質ステロイドを点滴で投与して、その後は経口投与に切り替えているの。それでケロイド的な発疹はほぼ沈静化したけど、まだその痕が残っているから……。多分、五月メイは拓海くんに顔を見られたくないと思う……」

エレベーターのドアが開き、二人でエレベーターに乗り込んだ。


五階に向かうエレベーターの中で拓海くんが呟いた。

「……そんなこと関係ないのに……。あいつ、俺がどんなに五月メイのこと大好きなのか分かってないよな……」


その彼の言葉を聴きながら、私もドキドキしてしまった。


ふと気付くと拓海くんが私を見つめている。

「どうしたの? 五月さつきさん? 顔が赤いよ……」


その優しい表情に私の心臓の鼓動が更に高まっている。


私は大きく首を振ると、丁度開いたエレベーターのドアを抜けて、足早に五月メイの病室に向かった。


北見五月と書かれた病室の前でドアを叩く。


「はい、どうぞ」五月メイの声が聴こえる。


私はドアを開けると彼女の病室に入った。


「あっ、五月さつき。どうだった? デートは……? えっ?」

私に続いて部屋に入って来た拓海くんを見て五月メイが目を見開いている。そして両手で顔を覆って下を向いてしまった。


五月さつき! なんで拓海くんを連れて来たの? 酷いよ!」


「……五月メイ……。あのね……」


五月さつきさん。俺が話すから……」

そう言うと拓海くんは、五月メイのベッドの横の椅子に座った。まだ五月メイは両手で顔を覆っている。


「……五月メイ。俺が五月さつきさんに言って、連れて来て貰った。俺を騙すなんて酷いじゃないか」


五月メイが下を向いたまま、首を大きく振っている。

「……だって、こんな顔、拓海くんに……見せられないよ」


拓海くんは大きな溜息を吐くとゆっくり首を振った。

そして五月メイの両手を掴んで顔から外させた。


「……五月メイ……、こっち向いて」


五月メイは大きく首を振っている。


「……五月メイ……、俺はお前の彼氏だぞ。病気の彼女を心配するのは当たり前だろう。それに病気で顔が荒れたくらいで嫌いになる訳ないだろう。お前のこと大好きなんだから!」


その声に、五月メイの身体がビクンと反応した。そしてゆっくり顔を上げ、拓海くんを見つめた。その瞳には涙が溜まっている。


「……良かった。もう大分治ったんだね。その泣き顔もキレイだよ。きっと直ぐに残りの発疹の痕も治るよ。大丈夫……」


「うん」五月メイがゆっくり頷いた。


「そしたらみなとみらいにデートに行こう。五月さつきさんの代理デートじゃない、本当のデートにね」


五月メイは大粒の涙を流している。そんな五月メイを拓海くんは抱きしめた。

「愛している、五月メイ。早く治るんだぞ」


拓海くんの背中に両手を廻して、五月メイは大きく何度も頷いていた。


私もその二人の姿を見ながら自分の頬を涙が流れるのを感じていた。

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