第5話 代理デートの真実

丁度、ゴンドラが地上に戻り、係員がドアを開けてくれる。


「ごめんなさい、貴方を騙して……。さようなら!」

私はそう言うと、呆然としている拓海くんを残し、ゴンドラから飛び降りた。


残念ながら計画が失敗した今、このままデートを続ける訳にはいかない。

私は足早に、その場から離れようとした。


しかし、突然後ろから左手を掴まれた。振り返ると、追い掛けて来た拓海くんが怒りの表情で私の左手を握り締めている。

「ちょっと待てよ!」


「お願い! 離して!」


「嫌だ! なんで五月メイの代わりに姉のあんたがデートに来たんだ? 五月メイはどこに居るんだ?」


その質問は彼には説明出来ない。それが彼女メイとの約束だった。

「ごめんなさい。それは言えないの……」


「……もしかして……、五月メイに……何かが遭ったのか……? 事故とか病気とか……?」

私を見つめる彼の顔にみるみる悲しみの表情が広がっていく。


私はその表情を見て決心した。もう彼には真実を打ち明けるしかない……。


私は大きく溜息を吐くと、振りほどこうとしていた左手の力を緩めて、彼に向き直った。


「……拓海くん……。手を離して。説明……するから……」

そう私が小さな声で彼に応えると、彼は頷いて左手を離してくれた。


そして私達は遊園地のベンチに並んで腰かけた。


「……拓海くんが気付いた様に、五月メイの頬には沢山の発疹が出てたの。最初はニキビのたぐいだと思ってたけど、それが段々酷くなって……。発熱や全身倦怠感、関節の痛みとかが併発して来るのは直ぐだった……」


「えっ? あれはただのニキビじゃなかったってこと?」


五月メイは二週間前に病院に行って精密検査を受けたの。結果は『全身性エリテマトーデス』という免疫疾患の難病だった。それで治療の為に一カ月の入院治療が必要だということが分かったの……丁度、夏休みが終わる八月一杯入院することになっている……」


彼は私を見つめ、目を見開いている。


「でも……、それなら……、俺に説明すれば良いじゃないか? そしたらお見舞いに行ったのに……」


私は再び溜息を吐くと、彼を上目遣いで見つめた。

「病院に行った時には、もう発疹がケロイド化してて……。それで五月メイ、とても貴方に逢えないって塞ぎこんでいたの……。それに美男子イケメンの貴方には五月メイから一カ月前に告白して、やっと付き合う様になったんでしょう? だから沢山のライバルが居るから、貴方と暫く逢えなくなったら、他のに取られちゃうって、五月メイは落ち込んでた……。だから彼女は双子の私に代理を頼んだの……。彼女の入院期間中……、貴方を捉まえておく為に……」


拓海くんは私のその言葉を聞くと、左右に首を振って大きな溜息を吐いた。

「……五月メイは、完全に誤解しているよ。俺は以前から五月メイの事が気になっていて、告白された時、本当に嬉しかったんだ……。だから、少しの期間逢えなくたって、心変わりする訳ないのに……」


今度は私が拓海くんを見つめる番だった。この美男子イケメンは、五月メイが考えている程、軽いじゃなくて、五月メイのことを本当に大事にしてくれているんだ。


私はある決心をしていた。


「ねぇ、五月メイの病院にお見舞いに行く? 彼女からは怒られるかもしれないけど、騙された貴方には、その権利があると思うの……」


彼の顔がパッと明るくなる。

「ありがとう……、えっと『さつき』さん。もしかして『さつき』って五月って書くの?」


私は大きく頷く。

「そうよ。五月さつき。だから私達姉妹は漢字で書くと同姓同名に見えるの……。父のアィデアなんだって。中学校までは同じ学校だったからよく間違えられたの。高校からは、私は女子高で、五月メイは貴方と同じ高校だから、問題無かったけどね……」


今度は彼が大きく頷く。

「でも、本当に似てるよね。ニキビに気付かなかったら、分かんなかったよ」


「私、いつもは髪型も違うし、眼鏡だから、雰囲気は大分違うけど……。五月メイに合わせるの苦労したわ。それに、貴方と話を合わせなくちゃいけないから、貴方のこと五月メイから聞いて一生懸命勉強したの……。お兄さんのくだりは失敗しちゃったけど……」

私はそう言いながら軽く舌を出した。


「あーっ、そう言う仕草も似てるから……、分かんなかったんだ……。納得……」

彼は満面の笑顔を私に向けてくれた。

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