第3話 みなとみらいデート

「はい、これ観覧車のチケット」

彼がチケットを買って来てくれた。チケット受け取ると900円と書かれている。


「ありがとう。私の分、払うね」

私はバックから財布を取り出しながらそう言った。


「いいよ。これは俺の驕り。バイト代入ったんだ。今日のデートの費用は俺に奢らせてくれよ」


「でも……」

「いいから! さあ乗ろうよ」

彼は強引に私の手を引くと、観覧車の乗車口に向かって行く。


私は財布を仕舞う暇もなくて彼に連れられて赤色のゴンドラに乗った。彼の向かいに腰を降ろして、財布をバックに仕舞っていると、係員が外からドアを閉めてくれた。


私は彼の強引さに少し口を尖らせて見せたが、彼は柔らかい笑顔で私を見つめている。

私はその視線から逃れる様に、ゴンドラの内部を見渡した。ドアの反対側にタブレットが設置されていて、タップすると『周辺施設情報』「横浜歴史散策」のメニューが見える。


「これで、ここから見える横浜の街を説明してくれるのね」


私の言葉に彼は大きく頷いてくれる。

「そうだね。一番高い場所での景色は絶景だよな。楽しみだ!」


私も徐々に上がって行くゴンドラから見える周辺の景色を見渡していた。


「あっ、五月メイ、富士山が見えるよ!」

彼が私の左手後方を指さして声を上げた。


私が振り返ると、遠くにくっきりと富士山の姿が見える。

「わぁ! キレイ!」


富士山の白い雪景色は真夏の今でも九合目から上あたりまで覆っていて、快晴の真っ青な空と相まって、空気も澄んでいるのだろう。その姿は正に絶景だった。


「俺、富士山に登った事あるけど、山頂は岩ばっかりでゴツゴツなんだ。でもここから見るとそんなデコボコ見えなくて、凄く滑らかな稜線に見えるな。本当にとてもキレイだ……」

彼のその言葉を聞きながら私も大きく頷いていた。


「なあ、五月メイ


私は振り返って、彼の顔を見つめた。

「うん? 何? 拓海くん」

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