第2話 拓海くん

私は化粧室を出て、横浜みなとみらい駅の改札口で彼を待っていた。


付き合い始めて一カ月。まだデートも初々しくて新鮮だ。未だ手を握る関係までのは最近の高校生のカップルとしては少し遅れているのかもしれないけど……。

でも特別な事情を抱えた私にとって、それはとても大事なことだった。


階下で電車がホームに滑り込む音がする。ドアが開いた音の後、エスカレーターを駆け上がってくる男の子が見えた。


長身のスマートな体躯にボーダーTシャツとCPOシャツをコーデし、黒のスキニーパンツが細くて長い脚にフィットした美男子イケメン。私の彼、安藤拓海くんだ。


改札の先で私を見つけると、彼は大きく手を振って満面の笑顔を見せてくれる。その笑顔に心臓を撃ち抜かれ恋に落ちた……。


五月メイ! ごめん、待った?」

改札を抜けて彼はそう声を上げると、肩で息をしながら私の前で立ち止まる。


「ううん。前の電車だったから、待ったのは五分だけ」


「良かった。じゃあ、行こうか」


「うん」


私が頷くと、彼は躊躇いも無く私の右手を掴んだ。そして私達は並んで改札から左手に向かっていく。


地上に上がる長いエスカレーターも前後に並んだけれど、彼はその間も繋いだ手を握り締めたままだった。


地上に上がり、建物の外に出ると、快晴で真っ青な夏の空が広がっている。

正面には遊園地『よこはまスペースワールド』に在る大観覧車『スペースクロック21』が見える。その中央のデジタル時計は『13:38』と表示されていた。


今日、私達はこの遊園地で遊んだ後、近くにあるワールドセンターで映画を見て、シーマークプラザで夕食を食べるというデートコースを予定していた。


「なあ、五月メイ。最初に観覧車に乗ろうよ」


大観覧車を見上げながら彼がそう言うのを聞いて、私は大きく頷いた。

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