第118話、事件の詳細

 グレイルさんの報告に陛下と宰相、それにルファウスまで表情を険しくする。


「まず、我が商会に潜り込んでいた鼠ですが、リンドネル帝国の商会の者でした」


 鼠……裏切り者か。繋がっていたとはどういうことだろう?

 俺のその疑問に答えるように語られた内容は予想外の一言に尽きた。


 その鼠とやらはリンドネル帝国で商会を営んでいた。いる、ではなく、いた。過去形だ。

 過去形となった原因は、同じくリンドネル帝国に属しているクレッセル商会が立地の良い場所に店を構えるために理不尽にその商会を潰したから。

 正統な理由もなく先祖代々続く店を潰され、その者は復讐に走った。


 しかし程なくしてクレッセル商会は他国に進出。商会長が行方を眩ませ手掛かりはゼロに。

 他国といってもあちこちの国の敷居を跨いでいるため自らの商会を潰した張本人の商会長がどこに姿を隠しているかは分からず、各国を旅しながら情報を集め、やがてエルヴィン王国に身を潜めている情報を掴んだ。

 クレッセル商会の人間には顔が割れているため近付くのは下策。そこで力のあるリーバー商会に潜伏して復讐の機会を窺っていた。


 ちょうどそんなとき、妙な魔道具が飛ぶように売れ始めた。俺が製作した、複数の魔石を使った魔道具だ。

 クレッセル商会が独占している魔道具の製作者に興味を持ち、グレイルさんが王宮宛に出した俺に関する報告書を中抜きしたそうな。

 俺に関する報告という点は特段何も思わない。国王との間柄を知ってるからこそ逆に納得した。

 それより驚いたのがグレイルさんの話の続きだ。


 なんと、その者は中抜きした報告書を復讐仲間と共有したという。

 その復讐仲間というのが今回の石化事件の首謀者で、店を潰された者以上にクレッセル商会に恨みを持つ者なのだとか。

 繋がっていたってのはそういうことかと納得しつつ耳を傾ける。

 なんでも、その復讐仲間はリンドネル帝国で秘密裏に行われた人体実験の被害者だそうで、実験の後押しに莫大な投資をしたのがクレッセル商会なのだそう。なんとも胸糞悪い話である。


 復讐仲間はクレッセル商会に直接仕掛けるのではなく最初は俺に目をつけていた。俺を焚き付けてクレッセル商会にぶつける算段だったらしい。

 しかしその必要はなくなった。

 それは何故か?


「石化眼?」


「左様です。私の魔力眼や眼力使いギルドマスターの癒し眼、副ギルドマスターの鑑定眼とは違う眼力使いです」


 今回の事件の発端となる能力が開花してしまったから。


 名称は石化眼。バジリスク同様、目が合った者を石化させる能力だ。

 生まれつき能力を保持しているグレイルさんとは違い、後天的に手に入れた能力。生まれつき能力をその身に宿しているのが基本だが、たまに偶発的に開花するらしい。

 偶然手に入れた能力のおかげで賢者を焚き付ける必要がなくなり、店を潰された者が従業員を誘き寄せたりして連続石化事件が幕を開けたというのが経緯。


 石化眼とか、グレイルさん以外の眼力使いの能力をもっと詳しく聞きたいところだが、それよりも。


「……つまり、あれか。我が国は復讐劇の舞台に選ばれ巻き込まれただけ、と」


 どっと疲れが押し寄せた顔で呟く陛下に誰もが沈黙した。


 はぁぁぁ。なんだよそれ。最悪国がどうこうなるかもって警戒してたのに。

 力が抜けてコロンと転がったまんまるヒヨコボディをひょいっと抱き上げていい子いい子と撫でるグレイルさんに癒されつつ内心ぐったりな俺。

 復讐するなとは言わないが、場所と方法は選んでほしかったな。


「2人の所在は?」


「鼠は捕らえてあります。引き出した情報では石化眼の者は街の中心地にある宿屋に身を寄せているとのことです」


「復讐するのが目的だからか隠れる気はなさそうだな。しかし我が国で問題を起こしたのだ。相応の対処は必要だろう」


「兵を仕向けますか?」


「ああ。危険な能力を持っているから石化解呪ポーションを忘れずにな」


 意外なところから情報を得て、今までの停滞が嘘のように驚きの早さで事件が収束していく。

 これで元の平和な日々に戻れる。ポーション作製地獄から解放される……っ!


 内心ガッツポーズするこのときの俺は、事件が更に混沌と化していくことになるなど思いもしていなかった。



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最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~ 深園 彩月 @LOVE69

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