第114話、従魔契約用魔導具
そんな訳でやって参りましたリーバー商会。
魔道具製作に必要な物を買いに来たのだが、やっぱり一番信頼できる商会がいいし、何よりグレイルさんが王都に戻って来たとの手紙も受け取っている。
買い出しついでにブルーと一緒に顔を見せに行こうと思い立ったのだ。
「いらっしゃいませー!」
アネスタ支店とは比べ物にならないほどデカイ建物を呆然と見上げ、我に返ってから扉を開くと、従業員が元気よく接客していた。
しかしそれも俺が入店するまでのこと。新たな客、つまり俺を視界に入れた直後、みるみるうちに顔色を悪くする従業員一同。
彼らの心の安寧のためにも一刻も早くグレイルさんに取り次いでもらおうとしたがそれは叶わなかった。
何故なら、従業員の一人が突然壁に頭を打ち付けて深呼吸したのち俺の前にスッと出てきてお手本のような営業スマイルを顔に張り付けたから。
「貫禄のあるヒヨコに奇妙なブルースライム……貴方様が噂の賢者様ですね」
「え、あ、はい」
いやあの、それよりも額から流れる血を止めた方が……
あまりに突然のことにブルーがびっくりして固まっちゃったじゃないか。
「賢者様がご来店された際は私室へお通しするようにとグレイル様に仰せつかっております。どうぞこちらへ」
どこぞの貴族ですか?と聞きたくなるほど綺麗な所作で案内してくれる従業員。
服装からして商会の偉い人だろう。多忙な商会長に代わって本店を取り締まっているとかそんな感じの。
……そんな偉い人が平静を保つためだけに頭打ち付けて流血しないでほしい。
グレイルさんに何事かと思われるだろうから治癒魔法でさくっと治す。痛みも流血も止まって若干驚いたように眉をぴくりと動かすも、表面上は冷静にお礼を言う従業員。
賢者が魔法を使ったことにではなく、治癒魔法を気軽に使ったことに驚かれたんだろうな。
この世界では治癒魔法を使える人が限られていて、軽傷なら傷薬かポーションで治すのが一般的だし。
応接室や倉庫を通り過ぎてプライベート空間に突入し、とある部屋の前で止まった。
従業員がノックの後に開けると、そこにはずっと会いたかった人がいた。
「やぁフィード君、ブルー。元気にしてたかい?」
「グレイルさん!」
ぽよんっ
朗らかな笑顔で両手を広げるグレイルさんに飛び付く俺とブルー。
嬉しそうに笑い声を上げて「聞くまでもなさそうだねぇ」と頭を撫でられた。
久しぶりにグレイルさんと戯れていた俺はグレイルさんを見て「あのグレイル様が優しく笑っている……!?」と驚愕している従業員に気付かなかった。
「それじゃあ、レジータさん達も王都に?」
「元々は支店に所属せず、私の行商に付き合ってくれていたんだよ。けどアネスタ支店の従業員が揃って流行り病で倒れて半数以上はそのまま……」
「代わりにグレイルさんが行商ついでに支店も回してたってことですね」
「そういうことだ。でもフィード君と出会った頃にはすでに人員不足は解消してたけどね。王都に戻る前に最後のつもりでウルティア領に行商に行って、あとは君も知っての通りさ」
久しぶりの再会で上がったテンションも落ち着き、ソファに座ってのんびりお茶を飲みながら近況報告会。その後改めて訪問の理由を述べた。
真っ先に頼ってくれて嬉しい限りだと言って尻尾で喜びを表しながらも商人としての顔になって必要なものを即時揃えてくれたグレイルさん。
俺とブルーをとことん甘やかす人だから知り合い価格にされるか?と思ったが、そこは商人。きっちり正規の値段で売ってくれた。
グレイルさんに会いにいくと必ずといっていいほど完璧に隠れるルファウスの話題もチラリと出たが、彼に苦手意識を持たれているのに気付いていたグレイルさんは全く動じていない。
困った子を見るような目で「ルファウス殿下をよろしくねフィード君」と頼まれた。
「解せない」
リーバー商会で買い物を済ませた帰り道。王都を出て新生メルティアス家に向かってる途中でレストと共に姿を表したルファウスが不満そうに何か言った。
「毎回毎回性懲りもなく隠れるからだろ。たまにはちゃんと顔見せておけよ」
「そうっすよルファウス様ー。こういうときこそ年寄りの貫禄出していかないと」
「出したところで子供が背伸びしちゃってまぁ!みたいな微笑みを向けられるだけだ」
否定材料が見つからない。困ったちゃんな面があるのは事実だし、それが子供っぽく見えるんだろうな。
珍しく不機嫌なルファウスを宥めつつ帰宅し、さっそくとばかりに魔道具製作に取り掛かる。
従魔契約用魔道具の基本的な性能は大きく分けて2つ。
まず主従の間で意志疎通が可能になること。これは良好な関係を築くには必要不可欠だな。
次に契約主を襲わないこと。契約主だけではなく他の人にも襲わないようにしようか迷ったけど、盗賊などの悪人に襲われたときの自衛手段にもなり得るから契約主だけにしておく。
契約の種類はいくつかに分けよう。
一度契約したら契約主か従魔のどちらかが死ぬまで契約が切れない強固なもの、いつでも解除できる簡易的なもの、一定の条件を満たした状態を維持することで一時的な契約をするもの……
「魔物にも
ルファウスの意見ももっともなので万が一に備えて強制的に従わせるものも。
次にどういう形の魔道具にするかで今度はブルーが反応した。
ぐにゃりと身体を曲げて輪っか状になり、ルファウスの腕や指に巻き付く。
腕輪型と指輪型か。持ち歩きできる魔道具にすれば、いちいち魔物を捕まえて街に連れてくる必要もないし、そっちの方が信頼関係を築きやすいよな。
そうして着々と製作しだす。人間側と魔物側で微妙にラインナップを変えて。
人間と魔物は当たり前だが身体のつくりが全然違う。それも考慮してのラインナップにしておいた。
そして数日後、完成した魔導具を持って冒険者ギルドへ。
「まさかこれほど沢山作って頂けるとは……報酬は色をつけさせてもらいますね」
腕輪や首輪、指輪や手袋にベルト等々いろんな種類の従魔契約用魔導具を目の当たりにしたヨシュアさんが驚きに目を見張る。
魔導具の形も性能も様々だから使い方を書いた紙も一緒に渡した。ちょっと沢山作りすぎて紙が束になってるけど、まぁいっか。
トラブルになるといけないから事前に商業ギルドにも話を通してこれらの魔導具を登録しておいたし、抜かりはない。
「本当にありがとうございます。従魔使いが増えれば冒険者の生存率も上がるでしょうし、魔物の生態調査も捗ります」
朗らかな笑顔でめっちゃ上機嫌なヨシュアさん。
「どこぞのクソギルドマスターを八割殺しにして両手両足鎖で縛り付けて厳重な結界を施した執務室に監禁するならどんな魔物と契約するのがベストなんでしょうねぇ……」
「さーて用も済んだしさっさと帰るか!」
今のは聞かなかったことにしよう。
最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~ 深園 彩月 @LOVE69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます