第113話、ギルドから呼び出し
魔法という名の力業で建物を建設したり弟妹達と魔物狩りに行ったりブルーとまったりしたりとそれなりに忙しくしていたある日の昼下がりのこと。
冒険者ギルドから呼び出しをくらった。
「用件はなんだろうな?見当もつかないんだが……」
隣をぽよよんっと跳ねるブルーも首を傾げるように身体を傾けた。
甘えん坊モードのブルーが俺に引っ付いてきたために一緒に冒険者ギルドに移動中。
すでに王都の中にいるのでルファウスの姿は見当たらない。気配も掴めないが近くにいるだろうと放置。
最近ずっとカンカンしたり、ドンドンしたり、バシュバシュしたりな日々を送っていたので王都の方に来るのは何気に久しぶりな気がする。
雑多な街中を歩む手乗りサイズのヒヨコとスライム。
人間や人型の獣人なら気付かずに踏み潰してしまいそうなほど小さい俺達だが、踏み潰される心配はない。
何故かって?皆が俺を避けて遠巻きに見てるからだよ。
情報の力ってすごい。ノンバード族の賢者の話が広まった影響でほとんどの人が足元を注視して俺達を害さないように最大限努力してるんだもの。
無駄に絡まれなくて平和だと喜ぶべきか、どうにも目指していたのと方向性が違うと嘆くべきか……
悩みつつも歩く足は止まらない訳で、冒険者ギルドに到着した。
「お待ちしておりました、フィード様」
入ってすぐに声をかけられる。待ち構えてたらしい。
出迎えてくれたのはヨシュアさんと、何故かアネスタ支部ギルドマスター・ティファンさんだった。
本来ここにいないはずの人物に出会して瞠目していると、ヨシュアさんが説明をしてくれた。
「この時季は国内冒険者ギルドの定例会議などがありましてね。各街に配属されたギルドマスターもしくは副ギルドマスターが出席する決まりなんですよ」
国内冒険者ギルドの定例会議……国内ってついてる時点で色々察した。
冒険者ギルドは世界中どこの国にも存在する組織だ。そして事実上どこの国にも所属していない組織だ。
有事の際は国に助力するが、それ以外は不干渉。国の庇護を得られない代わりに自由に動ける組織。
討伐が難しい魔物の出現やスタンピードなど対処が困難な事態になれば協力関係を結ぶし、場合によっては例外なこともあるが、冒険者ギルドとは基本的にそんな感じだ。
国に所属しないが故に、国境を越えて繋がりがある。だから他国のギルドの情報も容易く入手できるのだ……本来は。
ご存じの通りここは獣人王国。人間に毛嫌いされている種族が住まう国だ。当然この国の冒険者もギルド職員も獣人、またはその血を引く者が多い。
一方的に嫌っている種族とまともに情報のやりとりができるか?否。できない。
冒険者ギルドの定例会議といったら周辺国との緻密な情報交換も兼ねているのだ。そこに国内とつけば、自ずと答えは出る。
全くもっていい気はしないが、なんだかんだで上手く運営できてるっぽいし、俺が口を挟むことじゃない。
「ギルマス……ティファンさんがここにいる理由は分かりましたが、何故俺が呼ばれたんでしょうか?」
「ここではなんですから、詳しくは奥で話しましょう」
人目のある場所では話せない内容か。ますます分からない。
奇妙なメンツだからか、俺がいるからか、注目を浴びつつギルドの奥の応接室に行き、2人の対面に座る俺とブルー。
テーブルの上には客人用のお菓子とお茶、それになにやら見覚えのあるものが鎮座していた。
「お主を呼び出したのは他でもない、これについて話をするためだ」
ティファンさんがこれ、と指差すのは以前改良した従魔契約用魔道具だった。
「珍しいことに、王都で戦闘に役立つ従魔がほしいっていう奴がいてな。だが困ったことに王都の従魔契約用魔道具では契約を結べなかった」
「ですが少し前にアネスタで貴方様が従魔契約用魔道具を改造したとの報告があったのを思い出して、ティファン君に持ってきてもらったんです。そしたら、まぁ、ちょっとした騒ぎになりまして……」
「こいつ相手にオブラートに包まなくていいんですよ、総括。ちょっとした騒ぎどころじゃなかったでしょう」
俺の知らぬ間に事件は起きていたらしい。
弟妹達は冒険者ギルドにはちょいちょい出入りしているから情報を掴んでいる可能性はあるが、なにせ擬音語満載なもんだから、説明されても理解できないことが多い。
……これはちょっとまずいかも。
この国の上層部は信用しているが、他国がちょっかいかけて国を乱すことは度々ある。むしろこの国の問題の大半が他国が原因と言ってもいい。
表向きは平和に見えても不穏の種があちこちに散らばってる今、情勢には常に気を配っておかないといざってときに動けない。
中雛組はそろそろ報連相がきちんとできるように教育しよう。下の子達は……まだ無理か。もう少し成長してからだな。
可愛い弟妹達の教育方針を定めつつ2人の説明に耳を傾ける。
ティファンさんに定例会議出席ついでに従魔契約用魔道具も持ってきてもらった結果、契約した従魔の声が聞こえる!と声高に叫んで大変な騒ぎになったのだとか。
そういえばそんな性能つけたなぁ。だって改良しなかったら従魔と意志疎通できなくて不便だったし。
……あれ?母も従魔契約したって言ってたよな?そのときは騒ぎにならなかったのだろうか?
会話ができないほど知能が低い魔物と契約したのかな?と不思議に思うものの、まぁいいかと軽く流す。不具合が起きて母に何かあった訳でもないしな。
従魔契約は万が一魔物が暴れたときに備えて結界が張られた個室にて行う。しかし防音効果はないため大声を出せば筒抜けだ。
そこから職員に伝わり、冒険者に伝わり、えらいことになった。
「つまり、俺に文句を言うために呼び出したと」
「違う違う違う違う違う!!そんなおっそろしいことしねぇから!!」
激しく手を振って全力で否定するティファンさん。
違うの回数が多いぞ。
「実は、魔物と意志疎通できる従魔契約に興味を持つ者が多くいまして。フィード様をお呼び立てしたのは、従魔契約用魔道具に関する情報の擦り合わせと製作の依頼をするためなのです」
そこまで聞いてふと疑問が浮かぶ。
情報の擦り合わせなら手紙のやりとりで充分だし、製作の依頼なら使者を送ればよかったのでは?と。
ギルドに足を運ぶのが面倒だからとかではなく、ちょうど今着手しているノンバード工房の建築が中途半端だからキリのいいとこまで終わらせたかったなって意味で。
工房含む一部の建物は特殊な素材を加工して空間魔法でかなり拡張するのだが、素材の加工ができるのが今のとこ俺だけなんだよな。
手紙でのやりとりならそこまで時間取られなかったのにと若干恨みがましい目で見てしまったのは許してほしい。
「本当は職員を向かわせるはずだったんですが、メルティアス特区には行きたくないと全員に断られまして……中にはティファン君みたいにヒヨコを見た途端顔色が悪くなったり、ひどいと恐慌状態に陥る者もいて……」
だからか。ヨシュアさん直々に風魔法に声を乗せて俺の元に届けたのは。
あれだ、王都に到着する前にルファウスが使ってたやつ。ギルド本部のお偉いさんが直々に接触を図ってくるから何事かと思えば……
「俺、ティファンさんにも怯えられてたんですね……」
「今は大丈夫だ!気合いを入れてるからな!」
「俺は気合いを入れないと対面できない存在ですか、そうですか」
そんな事実は知りたくなかったなぁ。
友達とまではいかなくとも、そこそこ親しい顔見知り程度には認識してた人からのまさかの返答にほんのちょっぴりメンタルダメージをくらいつつ、いくつか情報交換して、従魔契約用魔道具の製作依頼を請け負った。
俺の研究施設はまだ造ってないが幸いにも弟妹用に造った作業場があるし、そこを使わせてもらおうか。
最近は専ら土木作業ばっかりだったからな。魔道具、それも前世では馴染みのない従魔契約用魔道具の製作だ。ワクワクするなという方が無理だろう。
久々の魔道具製作に心踊りながら冒険者ギルドを後にした。
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