第80話、王都に到着
「さて……こいつら、どうやって運ぼう?」
物言わぬ輩を一瞥し、ぽつりと呟く。
ノンバード族の雛鳥が魔法なんか使える訳ねぇだろ!とかなんとか煩かったので、きっちり証拠をお見せした。のだが……
ドラゴンを模した炎を出してみたり、水の刃で奴らの腕を切断してみたり、石の礫を奴らの脳天に命中させたりと色々やった結果、気絶してしまった。やりすぎたようだ。
「そこそこの規模だな。王都近辺に出るなんて珍しい……ああ、そうか。スタンピードを警戒して増員していた巡回の騎士がいなくなったからか」
「スタンピードだと!?」
窓から顔を出したルファウスが息を吸うように爆弾を投下した。
スタンピード。それは多くの魔物が街に押し寄せる現象。
オークの群れやアントの大群のようにひとつの種類ではなく、沢山の種類の魔物が牙を剥く現象。
狙われた街は壊滅しかねない恐ろしい現象。
しかし、俺にとっては色んな素材がいっぱい取れる最高の狩り場だ!
「どこだ?スタンピードが起こりそうなとこは!」
「近い近い。顔が近い。なんでそんな嬉しそうなんだ」
「素材取り放題だぞ?それも色んな魔物の素材を!わざわざこっちから出向かなくても、希少な素材が寄ってくるんだぞ!嬉しいに決まってる!」
「素材取り放題!?私も行きたい!」
「阿呆にゃ。阿呆がいるにゃ」
テンションがおかしくなった俺にノヴァが同調する。
セレーナがなんか言ってるけど気にしない。ブルーに呆れたような感情を向けられても気にしないのだ。
興奮気味に問い質す俺とノヴァの期待はルファウスの次の言葉で粉々に砕け散った。
「その可能性は潰えた。先程増員した巡回の兵士がいなくなったと言ったろう?つまりは警戒する必要がなくなったわけだ」
「そんな……」
「うう、素材……」
「……君達にとってはスタンピードさえも素材なのか……」
ルファウスにまで呆れた目で見られてしまった。
スタンピードが起こらないのは非常に残念だが、仕方あるまい。
話が逸れてしまったが、この大人数どうやって運ぼう?
「馬車に括りつけて引きずっていくとか?」
「いっそ埋める?」
レルムとレインが容赦ねぇ。
「土魔法で檻を作って、そこに放り込んで運べばいい。王都までは目と鼻の先だしな……メモリーウィンド」
提案しつつルファウスが落ち葉を拾って魔法名を唱えると、くるりくるりと舞い踊り、一足先に王都へと向かっていった。おそらく伝令だろう。
重さ的に馬が引けないだろと即座に却下したが、ルファウスが問題ないと言うので渋々土魔法で四角い檻を作る。
ルファウスがひとつ頷くと、懐から羽根ペンを取り出して檻の中央に何かを書き込んだ。あれは……術式?
術式を書き起こすには魔力が必要不可欠。極端に少ないルファウスの魔力では基礎の術式すら書けないはずだが……あの羽根ペンが関係してるっぽい。また魔素を利用するタイプの特殊な魔道具だろうか。
「その身は霧の如く、その柵は真綿の如く。噴き上げる風に身を任せよ」
ルファウスが詠唱すると羽根ペンで書いた術式が淡く光る。
術式を書いてからも檻の外に出ずにそのまま詠唱したため、術式の効果は術者本人にもたらされた。
下から噴き上げる風でルファウスの身体がふわりと浮き、文字通り地に足がつかない状態となったのだ。
「魔素を使ってるから、残り短い王都までの道のりも楽々運べる。これなら馬への負担も減らせるだろう。セレーナ、入れるの手伝ってくれ」
「りょーかいだにゃ~」
たんっと跳んで檻の外に着地し、セレーナと共に盗賊をぽいぽい檻の中に放り込むルファウス。
放り込まれた盗賊は噴き上げる風の影響で先程のルファウス同様ふわりと浮き上がった。
魔素という無限のエネルギーを最大限利用できるルファウスだからこそできる裏技だな。
仮に魔力で同じことをやってのけようとしたら軽く見積もっても数十万の魔力を消費したに違いない。
そんな莫大な魔力を費やしてまで運ぼうとは思わなかっただろう。多分、レインの提案に近いことを実行していたはずだ。
手間が省けてよかった、よかった。
道中、貴族の馬車に繋がれた巨大な檻を見てすれ違う馬車や人に二度見されたりしたが、大した問題もなく王都へ到着。
やっぱり王都というだけあって人が多いな。季節的にそこまで混んでないだろうと予測していたが、どうやら見当外れだったようだ。人の流れが激しい。
これまで泊まったどの街よりも綺麗な白亜の外壁に同色の巨大な門。両脇に馬車二台すれ違えるくらいの門も併設されており、馬車も人も長蛇の列をつくっている。
あの列に並ぶのか。予定通り昼過ぎに着いたが、門を通るまでどれほど時間がかかるやら。レルム達がお腹空かせてるからできるだけ早く中に入りたいんだが……
しかし俺の予想を裏切って馬車が向かったのは門のど真ん中。
あれ?確かそっちは王族が通る方……ああ、いるな。ここに。第5王子が。納得。
「それもそうだが……仮にも賢者を一般の列に並ばせる訳ないだろ」
「ここでも特別扱いかよ……」
「そのうち慣れるさ」
一般の列も貴族や商人の馬車の列も素通りして門の前へ。
そこには金髪タレ目がトレードマークの、いかにもチャラそうな垂れ耳犬獣人がいた。
「やっほールファウス殿下ー。お久ー!あ、そっちのヒヨコが賢者だね?よろしくー!」
うぇーい☆とか言いそうな雰囲気でばちこーんっとウインクされた。兵士の格好をしているのに何故か街中で突如劇団員にでも遭遇したかのような境地に立たされる。
思わずルファウスをガン見した俺の顔には、今の心情がありありと表れているだろう。
こんなのが門番でいいのかよ、と。
「久しいなレスト。息災で何よりだ」
「いやー伝令来たとき焦りましたよー。可愛い子をデートに誘ってたのが上司にバレそうになっちゃってー。まぁ上手く誤魔化しときましたけどね」
「相変わらずだな。楽しみを邪魔して悪いが、君以外には頼めない」
「へいへい分かってますって。王子サマってのも楽じゃないねー。皆もっと気楽に話せばいいのにさー」
「君が緩すぎるんだ。まぁ、そういうところが気に入ってるんだが」
「光栄なこって。んじゃ、ちゃちゃっと手続き済ませちゃいまっせー」
見た目を裏切らない軽薄さだな。だがルファウスは随分と気を許しているようだ。なら少なくとも根は悪いやつじゃないんだろう。軽薄だけど。
「そっちが例の盗賊ねー。わーおすげぇ!こいつら今をときめく『血染めの牙』っつー規模がそこそこデケェ盗賊だよ!?こんなのを瞬殺しちゃうって強いんだねー賢者さん」
「賢者さん……」
「あ、もしかして賢者様って呼ばれたい?おお賢者様、我が国に繁栄をー!」
「やめろ!俺はフィードだ!」
わざとらしく拝み倒すような仕草をされ、半ば叫ぶように言う俺に、垂れ耳ワンコは悪戯っ子みたくにやりと笑った。
その憎らしい笑みを見たら嫌でも分かる。あ、遊ばれた……!
「おーけーおーけー、フィードねー。俺レスト。改めてよろしくー!」
「よろしく……もう入っていいか……?」
「あ、ちょい待ち。盗賊捕縛の報酬出すからー。あとステータスカード提示な。お偉いさんでもちゃあんと提示してもらいますぜー」
「ああ、勿論だとも」
全員ステータスカードを提示し、盗賊捕縛の報酬も受け取って、ようやく王都の中に入れた。
疲れた……盗賊を相手にしたときより遥かに疲れた……
ルファウス曰く、彼は相手に合わせて態度を変えているとのこと。相手が好ましいと思える態度にコロッと変えるのが上手いらしい。相手の懐に入りこむ達人とも言っていた。
ただの女好きではない気配。
なんかまたアクの強いやつと知り合ったなぁ……
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