第74話、森の調査と大移動

 故郷のトラブルの原因が自分だったと知り落ち込んだものの、気を取り直して森の調査へ。


 行商を終えて手持ち無沙汰なグレイルさんはアネスタに送った。

 ウルティア領とレアポーク領の中間地点で商売してたので、レアポーク領の村人にも必要な物資を販売できた。

 森から来るのではなくいきなりウルティア領に表れたことに皆混乱していたけど、どうにか宥めるのに成功。


 レルム達は実家に置いてきた。

 今はレインに全員引っ越さないといけなくなった経緯を説明してもらっているところ。

 ルファウスに田舎だと強力な魔物が出ても対処できないからいずれは王都に拠点を移してほしいとお願いされた。王都周辺なら強力な魔物がいっぱいいるので対処しやすいからと。

 それぐらいならと了承した。毎回彼に尻拭いしてもらうのも申し訳ないし。


「さて、ここら辺かな?」


 転移でレアポーク領とアネスタ領の間に広がる森に来た。


「魔力は大丈夫なのか?転移を連発しているだろう」


「まだまだ余裕だ」


「……空間系の魔法は最低でも一万ほど魔力を使うはずだが?」


「平気だ。魔力量は10桁いってるから」


 周辺に人がいないとき限定で姿を表すルファウスが嘘偽りのないその発言に呆れ顔で「ドラゴンより多いとか化け物か」と……え、ちょっと待って。俺ドラゴンより魔力多いの?初耳。


 まぁ、魔力は多いに越したことはないよな。うん。自分でもちょっと人外レベルな気がしないでもないけど……


 衝撃の事実から全力で目を逸らして、森全体に魔力を浸透させる。

 魔物ではなく隠された魔道具に意識を集中したらすぐに範囲を絞れた。襲いかかってくる魔物をナイフで仕留めながら先を進む。


「魔法を使わないのは魔力の温存のためか」


「それもあるし、魔法が効かない魔物に出くわしても対応できるようにしとこうかなって」


 またクイーンアントみたいなやつと遭遇したら、今の俺じゃ太刀打ちできないしな。

 剣は重さと長さのせいで長時間持てないが、小振りなナイフでならまともに戦えるようになった。

 ヒヨコの身体だと動きが鈍い。そして体格の問題で前世の戦い方ができないのが難点。


 剣も短時間なら一応使える。しかし、使えるのと使いこなせるのは全くの別物だ。

 巧みに剣を操るのではなく剣に振り回されてる感が否めないが……こればっかりはどうしようもない。

 だってヒヨコだもの。手の平サイズのヒヨコだもの。

 自分の何倍も大きい武器を持ったら振り回されて当然だ。


 一度無理に前世と同じ戦い方をしようと躍起になったことがあるが、身体がついてこれなかった。

 後日、筋肉痛に苛まれた。

 ムキになってもろくなことがないと分かった瞬間だった。


 小振りなナイフならば小回りが効くし、何よりヒヨコボディにマッチする。無理に身の丈に合わない武器を扱おうとせず、できることからやっていくのも大事だ。


「ここら辺のはず……」


 例の魔道具の反応があるところまで来たはいいものの、こちらも隠蔽魔法で隠されているようだ。具体的にどこにあるか、とても曖昧な感じで分かりづらい。

 なのでアントのときと同じやり方で隠蔽を破った。

 高密度の魔力をぶつけたのと同時にガラスが割れるような音が広がる。そして音の聞こえた場所を中心に土を掘り返してみると2つの魔道具を発見。


 アントのときと同じもの……同一犯かもしれないな。

 まったく、ファラダス王国側は何を考えているのやら……嫌がらせにしては悪質すぎる。他国の魔物を増やすなんて、喧嘩売ってるのと同義だろ。

 それとも、喧嘩を吹っ掛けてもいいと思えるような何かがあったのか?


 どれだけ考えても埒が明かないので、とりあえず一旦実家に帰る。


「ししょーーー!!お久しぶりへぶぅ!」


 豚が突進してきたのでヒヨコパンチをお見舞いした。

 豚、ダウン。


 すまんボール。色白なオークが突っ込んできたかと思って、つい。

 レルム達の話を聞いて駆けつけたのに!と怒るボールをどうにか宥め、その後沢山のヒヨコ達とご対面。わちゃわちゃしてるけど可愛い光景にほっこり。


「いつ頃引っ越せそう?」


「今日中にでもここを出れるわよ。あの子達よく家を消し飛ばすから荷物は全部収納に入れてあるし、収穫の時期は過ぎてるから畑も問題ないわ。ただ、全員移動するのは難しいかしらね……」


 一度に全員連れていくのは無理だし、何グループかに分けると本格的な冬が来ちゃうし、食糧も心許ないし……と眉を下げる母。

 確かに数百もの子供を全員一気に連れていくのは無理があるだろう。はぐれて迷子になる可能性もあるし、生まれてから日が浅いヒヨコ達に長時間歩かせるのも酷だ。


 だが、移動だけならそう難しいことはない。


「じゃあ俺が連れていくよ」


「フィードが……?」


 えっ?という顔をする両親だが、まぁフィードだしなぁとよく分からない納得をされた。どんな納得の仕方だ。


 増えすぎた家族の点呼を取ってもらい、全員いるのを確認してから一斉に転移。

 アネスタ南門、普段ウィルが門番をしているところのすぐ手前にヒヨコ軍団がパッと現れる。


 突然目の前の景色が様変わりして一瞬放心した皆。だがすぐにワッと沸き立つ。


「わぁ!景色が変わったー!」


「フィードお兄ちゃんの魔法!?すごーい!」


「俺もフィード兄貴みたいなすごい魔法使いたいなぁ!」


 騒ぐ弟妹達。


「一瞬で違う場所に……まさか、あの伝説の魔法を……!?」


「お前はまたこんなとんでもない爆弾を……っ!!」


 頭を抱える両親。


「な、なんだぁ?ヒヨコがいっぱい……!?」


「………?……………!?」


 パニックに陥る門番。

 すまん、驚かせてしまった。


 レルム達とブルーが下の子達を宥める中、今日も元気に仕事をしている友人に声をかけた。


「ウィル。一人銅貨2枚だったよな?」


「え、あ、はい」


 全部銅貨だと面倒なので、金貨10枚支払った。

 若干動きが固いがきちんと対応してくれたウィルの隣にいた門番が「通行料で金貨が必要なの初めて見ました……」と呆然と呟いた。でしょうね。

 ウィルが「これでは多いです」と数枚返そうとするが、首を横に振った。これからしばらくうちの家族が迷惑かけるんだ、少しくらい寄付させてくれ。

 なんとか立ち直った両親が「金貨なんて初めて見た」と目をキラキラさせて田舎者丸出し発言している。まぁ、故郷では金貨どころか銀貨ですら見かけないからな。そんな反応にもなるだろ。


 山と森の調査だけの予定だったのが大幅に狂って家族全員お引っ越しするはめになったが、これはこれで良いかもしれない。

 新しく生まれた子達を鍛える良い機会だろう。

 幸いにも家は街から離れてるのでご近所迷惑にもならないしな。


 実家の家族のことはレルム達に任せ、俺はひとり調査報告に向かった。


 ――――――――すわ、ノンバード族の侵略か!?と街に緊張と混乱が渦巻くまで、あと5分。



     ◇   ◇   ◇



 アネスタ辺境伯の屋敷に行ったらこっちでも驚かれた。


 予想より早く調査を終わらせたことにびっくりしたようだが「転移を使ったので」の一言でだいたい察してくれた。話が早くて助かる。


「これがくだんの魔道具ですか……」


 テーブルに並べた隠蔽の魔道具と魔素を狂わせる魔道具に難しい顔で唸るアネスタ辺境伯。


「同じですな」


「同じですね」


 街外れの家の近くで見つけたやつと同じだ。


「この国はどう動きます?」


「陛下へ急ぎ連絡を入れている最中ですので、まだなんとも……しかし、今回は明らかに嫌がらせの範疇を越えています。このままやられっぱなしでは我が国の名折れ。必ず報いを受けさせることでしょう」


 そりゃそうだろう。自国を勝手に荒らされて、何もしない訳がない。


「ひとつ、提案があるんですが」


 にーっこり。

 俺にしては珍しく、胡散臭い笑みを浮かべた。


 国同士のあれこれに首突っ込むつもりはないけれど、うちの家族が危険に晒されたことに何も思わないでもないのでね。


 少しお灸を据えてやろうじゃないか。


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