第73話、山の調査と里帰り

 里帰りすると聞いて黙っていなかったのがレルム達。せっかくだからとブルーも含めて全員実家に帰ることに。


 同行者はグレイルさん。

 ちょうどいいタイミングでウルティア領まで行商に行く準備が整った彼も一緒に連れていった。魔法で。


 一瞬で景色が変わり、あっという間にウルティア領に到着したら、グレイルさんが固まった。初めて転移を経験してびっくりしたのかな?この世界では伝説扱いされてる魔法だし。

 同じく初転移を経験した弟妹もびっくりしていたが、すぐに見たこともない魔法にテンションが爆上がり。宥めるのに大変だった。


 転移を使った理由。アネスタ辺境伯の様子からなるべく早く調査した方がいいと思ったのもあるし、グレイルさんご老人だからなるべく身体に負担がかからないよう配慮したのもある。

 何故か「心臓に悪いことをしないようにね」と注意されてしまったが。


 それはそうと問題はウルティア領だ。


 俺が旅立つ日に60匹、レルム達がアネスタに来るときに120匹とどんどん増えているメルティアス兄弟だが、さすがに目の前の光景には絶句した。


 ……多い。明らかに。ヒヨコの数が。

 ヒヨコがひしめき合っている。100や200どころの騒ぎじゃない。


 レインが「また一段と増えたねぇ」と感心する横で遠い目をする俺。グレイルさんが俺を抱き抱えて慰めるように頭を撫でてくれた。


 セルザが商売してるとこを見てみたいと言ったのでグレイルさんの仕事を見学する。

 品揃えは塩とかの必要不可欠なものが大半、本格的な冬に備えたものがそれなりに、あとはほんの少しの娯楽品。

 グレイルさんに気付いた村人がわっと押し寄せたので列をつくるようレルム達と誘導。グレイルさんは目線で俺達に感謝を伝え、効率よく客を捌いていく。

 動きに無駄がなく、品揃えもよく考えられている。売れ残りが出ないように調節するのが上手い。見事に完売した。


「ありがとう。フィード君達のおかげで効率よく回せたよ」


「邪魔にならなくて良かったです」


「邪魔だなんて思う訳ないだろう?むしろ、可愛い雛鳥が一生懸命村人に指示を出しているのが微笑ましかったよ。セルザちゃんも楽しそうだったしね」


「うん!お金のやりとりしてるの、見てて楽しかった!商売するのも面白そうだなぁ」


 ひょいっと抱き上げられてそのまま実家へ。

 レルム達はグレイルさんの両肩と頭の上。


 グレイルさん、よく俺を抱き抱えるんだよな。レルム達も可愛がってくれてるけど……兄弟の中で一番長く一緒にいるからか、俺を抱き抱える回数が異様に多い。

 甘やかされているのがわかる。ちょっと恥ずかしい。


「帰って来たか、お前達~!」


 実家に着き、感動の再会とばかりに突進してきた父を蹴飛ばして足蹴にする。


「あらあら、この子ったらもう……」


「素直じゃないねぇ」


 母とグレイルさんが困った子を見る目。くっ……照れ隠しなのが完全にバレている……


 その後は互いに近況報告。

 母からは喧嘩という名のデスバトルで家が大破される日常を送っていることや長男の話をしたら会いたいとせがまれたこと、父が子供達のオモチャにされていることなどの話を聞いた。


 こちらは出稼ぎ組に名前を付けたことやレルム達の生活、友人ができたことや家を買ったことなどを話してまったりと。

 アントの大群に襲われた話をしたら初耳のグレイルさんに心配されたが、両親は揃って「でっかい蟻かー」「ちゃんと巣穴潰した?じゃないとまた沸いてくるわよ」と平然としていた。しばらく見ないうちに随分逞しくなって……


 ちなみに子供は総勢340匹。

 母よ、何故にそこまでポコポコ産んだ?そう問うたら「ノンバード族流の復讐よ~」と黒い笑顔。触れてはいけない部分に触れそうだったのでそこで話は終了した。



 実家でのんびりするのもそこそこに、目的のひとつである山の調査に乗り出した。


 ウルティア領に連なる山々を見上げて、ここに来るのも久しぶりだなと独り言を溢す。

 ここは以前弟妹の魔法演習場に使っていた場所だ。見た感じ何の変哲もないが……


「なんか違和感があるな……ルファウス、どう思う?」


「魔素の量がデタラメだな。普通、辺境の村でこんなに魔素は多くない」


「魔素が増えれば強力な魔物も出やすくなる……しかし、どうしてそんな事態に?」


 しきりに首を傾げる俺に、呼ばれて姿を表したルファウスが目を細めた。


「元凶が何を言うか」


「え?」


「魔力を使ったらその分魔素が増える。ここは君の家族が魔法の練習に使っていたのだろう?なら魔素の量がおかしくなるのも当然だ」


「ええっ!?」


 魔力と魔素、術式を構築して魔法に変換するのはどちらも同じだが、その性質は異なる。

 魔力は生き物の体内に宿るもの。一方の魔素は空気中に含まれるもの。


 魔力を使った場所では空気中の魔素が刺激されて性質が変化し、そのせいで魔素が増幅してしまうのだそうだ。

 魔力を使えば使うほど魔素は増え、それに比例して魔素が力の源になってる魔物も増加傾向にあるのだとルファウスは語った。


 この状況をつくりだしたの、完っ全に俺じゃないか……!


「トラブルメーカー、ここに極まれりだな」


 項垂れる俺に注がれるルファウスの目線がなんだか冷たい。


「じゃあ、魔素を減らすにはどうすれば……」


「こうすればいい。ウォーターボール」


 懐から取り出した青色の指輪を装着し、魔法を行使するルファウス。

 空気中の魔素を吸収し、頭ひとつ分くらいの水球が出来上がった。


「魔力ではなく魔素を使う。魔素で魔法を使うなら性質は変わらず、ただ消費されるだけだ。……仕方ない。ここらにいる高ランク魔物を一掃するか」


「お手数お掛けしてすみません……」


「構わん。尻拭いも私の仕事の内だ」


 強力な魔物が跋扈する山なんて、うちの家族は平気でも村人は近付けない。ここ数ヶ月でここら辺の生態系が大分変わって狩りに行けない村人が続出しているらしいので、早めに対処せねばならない。

 しかし魔力量が多い者は魔素を扱えないのでルファウス頼りになってしまうのだ。


 申し訳なく思いつつ掃討作業をしているルファウスの横で大人しくする。

 ロックタートル、ブラックタイガー、ミノタウロス、レッドホース……様々な魔物がまぁわんさかと出てくる出てくる……


 徹底的に間引きしたところで切り上げ、ウルティア男爵に報告。身内が世話になってる手前、さすがに何も言わないのもどうかと思ったので。

 再会を喜んだのも束の間、俺からの報告に目眩を起こしたウルティア男爵。気を確かに。


「お前の家族以外に山に行くやつがいなくなって久しいから、そんなヤベェ魔物が近場にごろごろ転がってたなんて全く気付かんかった……」


「うちの家族から報告とかは……」


「言葉足らずで擬音語満載の説明をどうやって解読しろと?今回アネスタ辺境伯に報告できたのも、食い扶持に困って無理に山に入った村人が赤い馬の魔物がいる!って騒いだのが発端だしな」


「すみません、俺のせいで」


「なぁに、きっちり元の状態に戻してくれたんだろ?ならそれ以上は何も言わねぇさ」


 戻したのはうちのペットだが、お咎めなしで良かった。

 しかし問題はうちの家族だ。


 ルファウスの話だと、魔力が多い土地に魔物は集まりやすいらしい。

 魔力が多いのは人が沢山いる証。魔物の本能は人を襲うことだから、魔力が豊富で人が多いところに集まる。


 その理屈でいくと、うちの家族がここにいる限りまた同じことが起こる可能性が高い。弟妹の魔法を鍛えないといけないし、家族全員魔力は豊富。見事に魔物の量産・集束機関が出来上がってしまった。


「これは早急に引っ越さないとな」


 いずれ全員引っ越すのはほぼ確定している。それが少し早まっただけだ。


 しかし、340匹か……屋敷に入るかな?


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