第63話、馬鹿売れしたのは何効果?

 ブルーと従魔契約したあと、ウィルにドラゴン温卓をプレゼントしたら大いに喜ばれた。


 自分のとグレイルさん、部下の人達の分と実家の家族の分と一緒に作ったのだ。


 皆喜んでくれて良かった。

 耳と尻尾をピーンっと伸ばして目を輝かせながら食い気味にお礼を言うウィルに内心笑ってしまったが……

 グレイルさん達も、自分用の温卓が手に入って嬉しそうにしていたし。

 部下の人達はともかく、グレイルさんは「これで冬場に寒さで仕事が滞ることもなくなるね」と笑っていたので過労で倒れぬよう注意しておかないと。


 改良版ドラゴン温卓の虜になった俺達はノヴァとレインとセルザを巻き込んで急ピッチで量産し、ようやく販売にこぎ着けた。


 しかし想定外の問題が発生。


「まさか品切れ続出とは……」


 どこから情報を仕入れてきたのか、魔道具を卸した全ての商会に客が押し寄せ、あっという間に売れてしまったのだ。


「なんでこんなに売れるんだろ?大々的に宣伝した訳でもないのに」


「確かに少し不思議だな……おい、コタツで寝るなと言ってるだろうが」


「寝てない。まだ」


 ドラゴン温卓の中でぬくぬく温まっていると、突然誰かの足が入ってきた。声でルファウスと分かる。

 うとうとしていたのは事実だが寝てないぞ。


 しかし俺が寝そうだと分かるや否やドラゴン温卓から摘まみ出された。

 むぅ……俺が体調崩さないよう気を使ってくれてるのは分かってても、安寧の場所から引きずり出されるのは抵抗が……


「ギルドで実演して見せたこともあるが、それだけで連日売り切れるか……?」


 冷たい美貌に似つかわしくないほっこり顔でドラゴン温卓を堪能するルファウスに恨めしげな眼差しを送りつつぼそっと呟く。

 ルファウスが「確かにそうだ」と頷いた。


「魔道具を卸した商会はひとつじゃない。それぞれ卸した魔道具の数はそれなりに多いが、他の魔道具より安価で手に入りやすいと言っても限度がある」


 魔道具はピンからキリまであるが、安いものでも金貨3枚はいく。

 職種にもよるが、だいたい1人あたり1ヶ月の収入は金貨5~6枚と考えると結構お高い。何せ収入の半分。なかなかに手を出しにくいお値段設定だ。


 ただしそれは使用した素材と魔石の代金も含まれているせい。

 俺みたいに直接素材を取りに行く魔道具師はごく稀で、冒険者に依頼して素材を取ってきてもらうのが基本。

 しかし俺は依頼せず直接採取してるので元手はタダ同然。魔石と素材以外の細々としたものを含めても大して金はかからない。

 なのでその分安く提供できるというわけだ。


 しかしいくら安くて需要があるといっても、大した宣伝もしていないのに初日から飛ぶように売れるのはおかしい。

 商業ギルドで知り合った商人達によると、客のほとんどは始めから俺の魔道具が販売されることを知ってたような態度だったらしいし……


「誰かが裏で糸を引いてる可能性があるな。まぁ、良い結果に繋がってるんだしそこまで考えこまなくてもいいだろう」


 ルファウスの言うとおりだ。

 悪い方に転がってたら対策を取らねばならないが、今のとこ順調に売り上げが伸びてるんだし、あんまり深く考えなくてもいいや。


 気持ち良さそうに目を閉じたルファウスの隙をついてドラゴン温卓の中に転がりこむ。丸くて小さい身体はこういうとき便利だ。


「………」


 毛布の一部を持ち上げるルファウス。


「………」


 しばし無言で睨み合う俺達。


 俺を捕まえるべくサッと手を伸ばされるが、コロコロ移動して回避。


 サッ!

 コロコロッ


 サッ!

 コロコロッ


「ふっ、やるな……」


「そっちこそ……」


 ヒヨコとウサギの仁義なき戦いが静かに幕を開けた……



――――――――――――――――



「はぐれないようにな、ブルー」


 機嫌よく俺の隣で跳ねて移動するブルーに一言注意する。


 従魔契約をしてからというもの、外に出してやれなかったお詫びも兼ねてちょくちょく一緒に散歩しているのだ。

 俺と一緒にいられて幸せだと感情が訴えてくる。


 前はブルーの一挙手一投足でなんとなく判断していたが、契約してからはその必要もなくなった。


「いらっしゃーい!今話題の魔道具が勢揃いしてますよー!」


「はーい押さないでねー!順番に並んでー」


「今日買えなかった人はまた明日ご来店お願いしまーす!」


 商魂逞しい呼び声が聞こえてきたのでそちらを覗いてみると、魔道具を取り扱っている商会が賑わいを見せていた。


「今日もまた繁盛してるな」


 自分が作ったものが売れるのは素直に嬉しい。売り上げもいい線いってるし、収入源を確保できて良かった。


 何割かは手伝ってくれたノヴァ達に渡すとしてもかなり稼げるなぁ。

 グレイルさんに頼まれてやっている魔道具改良やレッドドラゴン討伐の報酬金を含めると結構な額だ。


 よし、家を買おう。


 弟妹共々いつまでもグレイルさんの家に居続けるわけにはいかないからな。

 グレイルさんなら気にしなくていいよと笑って流してくれるだろうけど……いつまでも甘えてたら駄目だ。

 冬を越したらグレイルさん達は本店のある王都に移動するって言ってたし、その頃には俺も別の街に行くつもりだ。


 宿に泊まろうかとも思ったけどレルム達のこともあるし、俺がアネスタを出ていったあとに他の弟妹がここに来ることも考え、どうせなら家を購入してしまおうと思い至った次第である。


 たしか商業ギルドに行けば物件を紹介してくれるはず。


 明日さっそく商業ギルドに行こう。


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