第41話、ワケありの報酬

 対面に座るアネスタ辺境伯と冒険者ギルドマスター。


「ああ……まるで夢のようだ。こうして賢者様と会話できるなんて……!」


 なんか辺境伯が感動に打ち震えている。


「落ち着けレイ。レッドドラゴンの件について話し合うんじゃなかったのか?」


「おっとそうだった!」


 興奮気味の辺境伯を呆れを含んだ顔でギルマスが諌める。

 貴族相手にそんな態度でいいのかな?と思ったが、辺境伯が何も言わないならいいんだろう。


 気持ちを落ち着けた辺境伯が真面目な顔で話を切り出した。


「貴方様をこの場にお呼びしたのは他でもない、レッドドラゴンを討伐して下さったことに対するお礼がしたかったからなのです」


「お礼、ですか?」


「はい。レッドドラゴン討伐の報酬を渡すためです」


 ん?いや、それはおかしくないか?

 俺がレッドドラゴンを討伐したのは元々ギルド破壊による罰則であって、報酬を貰う立場にはないはずだ。

 実際、Aランクのレッドドラゴンを討伐してもギルドから討伐報酬は出なかったし。当然、冒険者ではない俺がランクアップなんて論外だ。


「どこぞの馬鹿が罰則扱いにしてくれたもんだから表立って渡せないのですよ。だからこうしてギルドの一角をひっそり使わせてもらってるという訳です」


「その言い方だとまるで罰則扱いにしなくとも普通に討伐を依頼しても良かったふうに聞こえますが」


「むしろ普通に依頼するつもりでしたよ。貴方様は厳密には冒険者ではないので、どちらにせよ表立って依頼することはできませんけどね」


 冒険者でもない一般人に討伐依頼出すなんて色々と問題がある。

 だからこっそりとではあるがドラゴンを倒せそうなやつ、つまり俺に依頼するつもりだった。

 しかしセレーナと暴れたことでギルドが破壊され、そのくせ罰金を払う間も無く魔法で修繕したのでどうやって罰則を受けさせるか悩みに悩んだところ、ギルマスは思い付いた。

 レッドドラゴン討伐と罰則、まとめて解決しちゃえば良くね?と。


「……随分大雑把ですね」


 俺にとっては願ったり叶ったりなので結果オーライだが、もしこれがドラゴン討伐できない一般人だったら裸足で逃げ出す案件だぞ。


「し、しょうがねぇだろ!それが一番手っ取り早かったんだよ!水路の掃除とか配達とか他にも罰則内容は思い付いてたけど、周りの連中がノンバード族だからって理由でお前さんを虐げて返り討ちに遭う未来予想が頭に浮かんだもんだからよ……」


「返り討ちにはしますけど、それが何か問題でも?」


「ギルドのときみたく街までぶっ壊しやしねぇか心配なの!」


「さすがにそこまでしませんって」


「セレーナに絡まれた現場から店や家がぶち壊されたって苦情が何件も領主館に届いてるそうだが?」


 元凶はセレーナです。俺がやらかしたのはほんの少しです。


 アネスタ辺境伯が咳払いして話を戻した。


「えーそれで、討伐の報酬として金貨1500枚をお支払いします」


「金貨1500枚……」


 じゃらりと金貨の擦れる音と共に大きめの布袋がテーブルに置かれた。


 やけに多くないか?前世ではせいぜいその3分の2程度だったのに。

 頭に疑問符を浮かべる俺にきちんと説明してくれた。


「アネスタは言わば田舎街です。住民もそれほど多くはなく、周辺の魔物は自衛手段を持つ者なら誰だって撃退できる弱いものがほとんど。そのせいもあって集まる冒険者も低ランクの者ばかりです。そんな場所に災厄級の魔物が現れても対処は不可能。ランクの高い冒険者には旨味のない土地なので寄り付きもせず、結果、2ヶ月も放置することとなってしまいました」


 悔しげに表情を歪めるアネスタ辺境伯。


「王都にも緊急要請して騎士団を派遣してもらおうとしたのですが、あちらも何やらキナ臭い様子でして。要請は突っぱねられました」


 ドラゴンともなれば国にとっては一大事だろうに、その要請を突っぱねるとは。そうしなければいけない何かが王都にあるのかもしれない。

 多少気にはなるが、どうせ一般人には関係ないことだ。お偉いさん頑張れよ。


「そんな理由があって誰も受けられない依頼を、貴方様おひとりに委ねてしまった。経緯はどうであれ、貴方様がお強いことはオークとギルドの件で判明してますからね」


「お前さんがぶちのめした冒険者、Bランク間近って言われてる実力者だったからな。オークの群れも全滅させるし、あのセレーナも簡単にいなしてるし、確実にBランク以上の実力を持ってるのはその時点で分かってた。だからお前さんに一縷の望みを賭けて依頼したんだ」


 一縷の望みって大袈裟な、と思ったがそうでもないか。

 戦力が乏しい土地に現れた災厄級の魔物。いつ暴れるかも知れないのにどうにもできずに放置するしかない現状。

 そんな中にドラゴンを屠れるやつが現れたら縋りたくもなるか。

 俺にとってはいい素材だが、国にとってはそうじゃないし。


「ただの素材採取の一環だったんですけどね」


「ドラゴンを素材扱い……ま、まぁ、貴方様がどう感じていようと、危険な仕事を与えたことに変わりはありません。こちらの事情に巻き込んだお詫びと、危険手当てと思って下さい」


 だから金貨1500枚なんてとんでもない金額になったのか。

 断る理由もないし、有り難く頂戴しておこう。


「ありがとうございます。研究資金に役立てますね」


 テーブルに置かれた金貨の山を手繰り寄せて言うと、ギルマスとアネスタ辺境伯は苦笑した。


「………お礼を言うのはこちらなんですけどね……」


「……まぁ、喜んでくれて何よりだ」


 ドラゴンの素材に研究資金、こちらがもらってばかりなのでお礼を言ったのだが、間違っていただろうか。


 金貨を収納に入れるとアネスタ辺境伯がまたもや興奮して「それは伝説の収納魔法!初めて見ました!」と年頃の少年のように目を輝かせている。ギルマスが宥めた。


 とりあえず用件のひとつは片付いたが、レッドドラゴンの件も含めてとギルマスが言ってたのでまだ話は終わっていない。


 再び気を引き締めた二人により、話題は次へと移った。


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