第40話、貴族の知り合いばかり増える

 雨が本降りになってきたのもあり場所を移動することに。


「お前さん、どこの宿に泊まってんだ?どこの宿行っても見つからなかったんだが」


 早歩きで道行く人々の合間をすり抜けながら問いかけられる。


 ちなみに俺は今ギルマスに抱えられている。ヒヨコの足では追い付けるかも怪しいし、人混みに紛れてしまいそうだからな。


「グレイルさんの家にお世話になってます」


「何!?グレイル様!?どういうことだ」


 驚きを露にするギルマスに事のあらましを説明。

 すると得心がいったと頷いた。


「そうか。オークの群れに襲われてたのはグレイル様だったか。そりゃ手厚く歓迎されるはずだ。宿だと、まぁ、ぼったくられるだろうしな」


 やはりそうか。ぼったくられそうになったら実力行使するつもりだが。


「お世話になりっぱなしなのも申し訳ないので魔道具を作ってプレゼントしようかと検討してます」


「あー、最近やたらあちこち出かけてんの、素材のためか。お前さん魔道具作れるんだな。宿に出入りしてる情報は皆無なのに門の出入りは確認されてるから不思議に思ってたんだ……」


「俺に用があるなら門で待ち伏せすれば良かったのでは?もしくは誰かを使いに寄越すとか」


「俺はこれでもそこそこ忙しい身だし、うちの職員はお前さんを侮るか怯えるかのどっちかで使いもんにならねぇんだよ」


 差別する者と俺に怯える者の二択か。

 俺が暴れたときにギルドにいなかったやつとその場に居合わせたやつの反応の違いだな。


「ところで俺になんの用で?」


「それをこれから話す」


 話してる間に着いたのは久しぶりの冒険者ギルド。


 雨宿りも兼ねてるのだろう。思ってたより人が多い。

 ギルマスが扉を開ければ視線が集まり、そしてそれは抱えられている俺にも注がれた。

 ノンバード族のヒヨコかと嘲笑う者、俺と目が合って恐怖に顔を歪め目を逸らす者、何故ギルマスに抱えられてるのかと疑問符を浮かべる者と様々だ。


 それらをスルーして案内されたのはギルドの奥の応接室だった。

 来客用のソファにちょこんと座り、ギルマスと向かい合う。


「伝えるのが遅くなったが、レッドドラゴンの討伐に尽力してくれたこと、感謝する。その件も含めて話すことがあったのでお前さんを探していたのだ」


 その件も含めて、ということは話はそれだけじゃないんだな。

 レッドドラゴンの件は掘り返すような話題じゃないと思うんだが、それ以外の話もなんだろうな?検討がつかない。

 もしやまたドラゴン並みの魔物が現れたか?いやでもこんな短期間に同じ場所に立て続けに現れるなんて滅多にないし……


 考えを巡らせているとノックする音が耳に届き、ギルマスが部屋へ入るよう促すよりも先にドアが勢いよく開いた。それはもう勢いよく。蝶番が外れないか心配になるほどに。


「待ちくたびれたぞティファン!賢者様との対談の場を整えるのにどれだけ時間を費やしているのだ!」


 そうして姿を表したのは美中年な人間だった。

 清潔さを保ち、気品がある服装から高貴な身分だと一目で分かる。


「しょうがねぇだろ、肝心の本人が捕まらなかったんだから」


 ……なんかすいません。


 どうやらギルマスは無遠慮に入ってきた貴族らしき男と俺を引き合わせるつもりだったらしい。

 貴族らしき男は俺と目が合うなり太陽のようにニカッと笑った。


「お初にお目にかかります、賢者様!私はこのアネスタの領主を務めているレイデルフォード・フォン・アネスタ辺境伯です。賢者様と対談させて頂く栄誉を賜り、恐悦至極にございます」


 大仰に深々とお辞儀して元気な自己紹介をしてくれた。

 普通はもっと優雅な動作で一礼するもんだがそれがない。かといって乱雑な仕草をしてる訳でもない。

 親しみやすさを演出してるのか、わざと格好を崩してるように見える。

 良い意味で貴族らしくない辺境伯様だな。


「初めまして。フィード・メルティアスです」


 ところでその賢者様っての止めてくれないかな?


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