第38話、態度の急変
空が僅かにオレンジに染まり始めた頃。
アネスタに戻り、冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ちなみにバードランス火山に向かう際門番にステータスカードを提示したら驚かれた。何に驚いたんだろう。
年齢か、魔力量か、称号か、どれだ。
ただひとつ気になったのは、行きも帰りも同じ門番だったのだが出ていくときに比べて妙に丁寧に対応されたことだ。
行きと違って隣にセレーナがいるからかな?セレーナを見た瞬間顔色を変えて「破壊神……」と呟いていたし。
猫なのに破壊神……
セレーナ、お前どんだけ物をバリバリぶち壊してるんだ……
道中差別意識の波に揉まれつつ冒険者ギルドに入ると、沢山の冒険者で溢れかえっていた。
「人多いな」
「このくらいの時間なら皆帰ってくるにゃ」
様々な視線を浴びながら素材買取カウンターへ。
「すみません。討伐した魔物売りたいんですけど」
カウンターの男に声をかける。
「は?なんでヒヨコが……ああ、破壊神の方か。付き添いか何かか?坊や」
セレーナの付き添いと勘違いされた。
売りにきたのは俺なんだが、まぁいいか。
「魔物の買い取りって言っても、何も持ってねぇじゃねぇか」
怪訝そうにするカウンターの男。
手っ取り早くファイヤーバードを異空間収納から出せるだけ出す。カウンターからはみ出しそうなところでストップ。20匹くらいかな?
大量の魔物が何もないところから出現したことで周りがざわついた。
「収納魔法に入れてあるので」
さらっと言ったら周りのざわつきが増した。
カウンターの男が驚きの声を上げる。
「収納魔法だと!?魔力を持たない種族のはずだが……ああ、どっかに優秀な魔法使いがいんだな。駄目だろ坊や、人の魔法をさも自分が使いましたってふうに言うなんて。しっかしまぁよくもこれだけ狩ったなぁセレーナ」
「にゃ?アタシここまで狩ってないのにゃ」
「ははっ、謙遜すんなよ」
魔力がない、戦闘もからっきしな種族という先入観から明後日の方向に勘違いするカウンターの男。
それほとんど俺が倒したやつ。あとまだ収納にいっぱい入ってる。
今のやりとりを見ていた一部の冒険者とギルド職員が顔を青ざめているが、どうしたのか。
「まだ沢山収納に入ってるんですけど」
「まだあるのか?すげぇな……おい!誰か手伝ってくれ!」
カウンターの奥で暇そうにしてた職員数人を巻き込んでカウンターから魔物の山を退かし、再び異空間収納からファイヤーバード20匹取り出す。
それを5回ほど繰り返し、最後にレッドドラゴンを出そうとしたところでセレーナから待ったをかけられる。
「ここだと狭すぎるにゃ。カウンターが潰れちゃうにゃ~」
それもそうか。
カウンターどころかギルドが半壊しそうだ。どこかに広い場所ないかな?
「なんだ、他にもあるのか?」
「でっかいトカゲ君が一匹いるのにゃ~」
「トカゲ?そんな魔物この辺にいたっけな……」
トカゲじゃなくてドラゴンな。
「カウンター潰れちゃうから広い場所行くにゃ~」
「じゃあ先にファイヤーバードの買取済ませるか」
ギルドの奥に引っ込み、しばらくしてから金貨がそれなりに入った布袋を持ってきた。
ファイヤーバードの買取は銀貨のはずだが、数が数なだけに金貨に換算されたようだ。
ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚となる。前世では金貨の上に白金貨があったが今のところ見かけない。
あれは王族や高位貴族しか持つことが許されなかったからこっちでもそうなのか、またはこちらの世界には白金貨という貨幣が存在しないのか。どちらにせよ自分が持つことはないから知っても知らなくてもいいか。
ステータスカードを見せるように言われ、セレーナと一緒に出そうとしたら「坊やは出さなくていいぞ」と言われてしまった。
セレーナだけステータスカードを出しても討伐数がどう考えても合わないから俺も出さないといけないんだが、完璧スルーされている。
差別されてる訳ではなく、世間の常識に縛られてる故の勘違いが加速しただけだろう。実際、街の人々のような嫌な視線は向けられないし。
一部の冒険者とギルド職員の顔色が青を通り越して白になってるんだが、大丈夫か?
「数が合わないな……ああ、収納魔法使ってるやつも一緒なんだったな。そいつのステータスカードも見せてくれ」
もう一度見せようとしたらまたやんわり断られた。
俺がステータスカード見せないことには終わらないのに提示させてくれない。
どうしようかと困っていたら奥からギルマスが姿を現した。
「もう戻ったのか。調査だけしてきたのか?」
「いえ、討伐しましたよ」
「早くないか!?」
「素材取り放題でウハウハでした」
「認識がおかしい!!」
おかしくない。魔物討伐、それ即ち素材採集。
俺とギルマスの会話を怪訝そうに聞いていたカウンターの男が恐る恐る水を差した。
「あの、ギルマス。幻聴でしょうか、そのヒヨコが魔物を討伐したと聞こえたのですが……」
即座にギルマスが答える。
「幻聴じゃないぞ。事実、このヒヨコには討伐依頼を出した。討伐したかはステータスカード見りゃわかるだろ。なんでセレーナだけステータスカード出してるんだ?」
カウンターの男、狼狽える。
「何度も出そうとしたんですが、俺が魔物討伐したって思わなかったようで断られました」
「ああ……確かに、掌サイズのヒヨコがドラゴンを討伐したっつっても誰も信じないか」
それもそうか。すんなり信じたら、それはそれで心配になる。
「ドラゴンっっ!!?」
カウンターの男、驚愕する。
男が叫んだことで周りもざわついた。
「ドラゴンってぇと、火山のやつか?」
「それしかいないだろ……え、あのヒヨコが倒した?」
「笑えない冗談はよせよ。ノンバード族が倒せる相手じゃねぇって」
「ノンバード族が倒せるやつがこの世にいんのかよ!ははっ」
奴らはあとでシメるとして、未だに信じられない表情のカウンターの男にステータスカードを提示する。
魔物の種類や討伐数が記されるのは裏面。なので俺の見える側にはプロフィールが書かれている。それを見たギルマスが固まってるが、また魔力量や年齢に驚かれでもしたか。
みるみるうちに目を見開くカウンターの男。
「ほ、本当に討伐したのか……しかもファイヤーバードの討伐数が有り得ないんだが……」
呆然と呟くカウンターの男。冒険者のざわつきが増した。
ステータスカードは嘘をつかない。だから信じざるをえない。
「収納魔法も俺です。他の誰かが使ってると勘違いしてるようですけど」
「いや、しかし、ノンバード族は魔力が……」
ステータスカードを裏返して見せる。
「なっ……!?なんだこの魔力量……化け物か……」
途端に化け物呼ばわりされた。酷い。
ずっと驚愕していたカウンターの男だが、ついっと目線が下にいき、称号のところでぴたりと止まる。
ギルマスもカウンターの男も固まっている。どうした?
「た、大変失礼致しました!!」
いきなり土下座する勢いで謝罪した男。
びっくりした……なんなんだいったい。
「俺からも謝罪致します。うちの職員がとんだ無礼を働き、誠に申し訳ない」
ギルマスまで態度が急変したんだが。
「どうしたのにゃ二人とも?なんか気持ち悪ーい」
セレーナだけは変わらない。そして辛辣。
本当になんなんだいきなり。
称号に何かあったか?と思い、自分で確認してみる。
……もしかして、賢者に反応した?
それしか考えられないな。前世の記憶を持つ者はさして珍しいものではないし、永遠のヒヨコや鬼教官という称号で畏まる必要もない。
前世でも賢者だのなんだの言われていたが、それが称号として残ったんだろう。
そのせいで畏まられるとは思わなかった。
「あの、普段通りでいいですよ。変に意識されても困りますし」
俺まで気を張らないといけない気分になるから止めてほしい。
「ですが……」
「……わかった。貴方様がそう言うならば、有り難くそうさせてもらおう」
「ちょ、ギルマス!?」
まだ少し硬いが、ギルマスは普段通りに近い態度に戻った。
カウンターの男はまだ畏まってるが、まぁいいか。
金貨が入った袋を渡され、そこからセレーナの分を抜く。
本人は金に執着してないがそこはきっちりせねば。
レッドドラゴンを出すためにギルドの裏手にある解体場へ行く。解体場は大型の魔物を解体することもあるためかかなりの広さだ。
「ここなら問題ないだろう」
ギルマスから許可が出たので収納からレッドドラゴンを出す。
「うわぁぁぁ!?」
「ど、ドラゴンだ!」
解体場にいた作業員が騒ぐ。いきなりドラゴン出したのはまずかったか?泡吹いたり、失神してるやつまでいる。
「うぅむ……この目で見ても信じがたいな。ヒヨコがドラゴンを倒すなど……」
なんかギルマスが呻いてる。
「しかもほとんど傷がありませんよ……いったいどうやったらこんな綺麗な状態で討伐できるのか……」
中をこんがり焼きました。
騒ぐ周囲をまるっと無視してレッドドラゴンの討伐報酬を受け取り、グレイルさんの家に戻った。
何故かセレーナもついてくる気満々だったけどギルマスに捕まった。ギルド破壊の罰則をまだ受けてないそうで……
「嫌にゃ~!フィードと遊ぶにゃ~!」
「暴れるな!作業台を壊すな!解体ナイフをへし折るなぁ!!」
俺と戦いたかっただけのようだ。
なんかまた破壊音が聞こえたが、俺は知りません。
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