第37話、ヒヨコVSレッドドラゴン

 俺達を視界に入れたレッドドラゴンが空気を揺るがすほどの咆哮を上げる。


「ふにゃ~、鼓膜破れそうだにゃ~」


 ドラゴンと対峙してるとはとても思えないのんびり口調で猫耳をぺたんと畳む。

 だが次の瞬間、先手必勝!とばかりに突撃した。


 出遅れた俺をよそに拳を叩き付けるセレーナ。レッドドラゴンの鱗が数枚飛び散る。

 ああっ!貴重な素材が……!


「むぅー……全然効いてないのにゃ」


 鱗が少々犠牲になっただけでセレーナの猫パンチはレッドドラゴンには全く通用していなかった。

 しかし攻撃されたのは理解したのだろう。前足を振りかぶってセレーナを排除しようとする。

 セレーナは猫特有のしなやかな動きで避けた。


 邪魔者がウロチョロしてるのが気にくわないと早くもセレーナをロックオンして口を大きく開く。

 爆発的に魔力が高まるのを肌でビリビリ感じながら攻撃を受け止める姿勢のセレーナの元へすっ飛んだ。


 レッドドラゴンの口からブレスが放たれる。

 セレーナを連れて退くのとほぼ同時だった。


 ブレスが俺達のいた場所を吹き飛ばす。直線上にブレスによって拓けた景色が見えた。


「なんで邪魔するのにゃ~!面白そうにゃから今の一撃受けてみたかったのに!」


「ドラゴンのブレスを受け止めようとするんじゃない。生身の人間なら確実に死ぬぞ」


「え、そうなのにゃ?」


「死んだらもう誰とも遊べなくなるぞ」


「それは嫌にゃ!次から避けるにゃ!」


「あと、出来るだけ素材を傷付けない戦い方で頼む」


「すっごい無茶振りだにゃ!?」


 セレーナに説教しつつ風の刃をレッドドラゴンの首に放つが掠り傷しかつけられなかった。やっぱり竜種は頑丈だな。


 身体に傷をつけずに頭だけを潰すのが理想だ。不意打ちで間合いを詰めて剣で首を切り落とすのが一番手っ取り早い。

 手元には先日手に入れたオークキングの剣がある。よかった、グレイルさんに売り払う前で。

 そう思いながらオークキングの剣を収納魔法から取り出そうとして、自分の手を見て我に返る。


 そうだ。俺、今、ヒヨコだった。

 剣も使えなければ握れもしない、ヒヨコだった。


 僅かにでも首を傷付けられたことに怒りを覚えたレッドドラゴンが咆哮を上げ、地上から飛び上がった。

 まずい。剣が使えないとなると少し面倒だ。


 魔法だけで倒すのもできないことはないが、地上から離れてしまった今手段は限られる。


 飛べないのが不便だと思ったのは初めてだ。種族としてもそうだが、空を飛ぶ魔法の開発は着手してなかったからな。

 前世では魔法と剣を効率良く使ってた。でも今世ではそれができない。


 当たり前にやっていたことが出来なくなるのがどういうことか、改めて思い知らされた。


「飛んだらアタシ何もできないにゃ!フィード、あれなんとかならないのにゃ?」


 拳で戦うスタイルのセレーナは飛ばれると手も足も出ない。

 ないものねだりしても仕方ないと剣で首を落とすのは諦め、別の手段を使うことにした。


 再び大量の魔力がレッドドラゴンの口に集束し始める。


「また火吹く気にゃ!」


 今度は受け止めようとはせず、しっかり避けようと体勢を整えるセレーナ。

 俺も避ける準備をしつついくつかの魔法を発動できるようにしてるうちに再びブレスがきた。


 俺もセレーナもどうにか回避。

 またもやブレスによって出来上がった不自然な道が背後に続く。

 そして前方では、


「グアァッ!?」


 レッドドラゴンが大岩に頭を潰されていた。


 頭上から落ちてきた大岩にもろに直撃して目を回し、急速に地面に落下したレッドドラゴンの足に魔力で急成長を促した植物を絡ませて拘束する。


 動きを封じられたレッドドラゴンは怒りを露にした。

 竜翼で自身を拘束する植物を引き千切ろうとするが魔力で強化された植物はギリギリ音を立てるだけ。

 怒りに任せて三度目のブレスを放とうとしたとき、青白い超高温の炎をレッドドラゴンの口の中に投入。風を利用して加速させ、そのせいで何倍も威力が跳ね上がったそれがレッドドラゴンの体内を蝕んだ。


 レッドドラゴンが苦しみ悶える。

 見た目は攻撃されたように見えないが、奴の体内では俺が放った炎が大暴れしてることだろう。


 内側からじわじわ焼き尽くされ、やがてドラゴンは絶命した。

 どぉっ!とその巨体が倒れる。

 起き上がってこないことを確認し、もう大丈夫だなと息を吐いた。


 成功してよかった。何せ魔法だけでドラゴンを倒すなんて初めてだったからな。


 まず始めに魔法で大岩を造り出して奴の頭に直撃させることで地上に引きずり落とした。

 飛んだままだと攻撃が届かない可能性もあったから、まずは拘束する必要があったのだ。ただ拘束するだけなら大岩を造らなくてもよかったが、ドラゴンと地上までの距離が開いてたのでその距離を縮めるために大岩をぶつけたという訳だ。


 周りの植物に魔力を流して急成長を促し、再び飛翔しないように拘束。

 火山の頂上ということもあってあまり植物は見受けられなかった上に奴のブレスでいくらか駄目になったので気休め程度にしかならないと思っていたが、予想に反してきちんと植物が仕事してくれたおかげで事がスムーズに運んだ。


 内側だけ丸焼きにするのに普通の炎じゃ火力が足りないからと通常とは比べ物にならないほど超高温の炎にした。

 超高温にすると炎は青白くなる。おまけに高速回転させながら加速して叩き込んだので抜群の効果を発揮した。


 ブレスを放とうと大口を開けたのはいいタイミングだったな。

 奴の口に火を放り込んだのは、ただ単に外から攻撃しまくって素材が駄目になるのを防ぎたい一心だった。

 ドラゴン1体だけでも鱗が大量に手に入るのに素材が駄目になるのを気にしてしまうのは昔からの癖だ。貧乏性とも言う。

 裕福とはとても言えない前世の幼少期と今の人生がですね……


「あんなおっきいドラゴンをあっさり倒しちゃうにゃんて……!」


 なんかセレーナがすごいキラキラした目で見つめてくる。

 おい。「また遊びたくなったにゃ……」じゃねぇよ。さすがに疲れたわ。


「遊ぶのはまた今度な。さて、これだけ大量の貴重素材が手に入るんだ。前世で作ってたものを再現してもよし、新しいものに挑戦するもよし、何にでも使えるな」


「作る?フィードは職人なのにゃ?」


「前世では研究者だった。職人じゃないけど、よく新しいもの作ってたからそれに近いかな」


「ふにゃ~、転生者だったのにゃ。だからそんなに強いのかにゃ」


 レッドドラゴンを収納し、セレーナと話しながら下山するも俺の思考は完全に別方向に向いていた。


 ああ、夢が広がる。早く研究に没頭したい。


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