第35話、ご褒美の間違いでは?
「ギルドが……」
「嘘だろ……」
呆然。
その言葉しか浮かばない表情で立ち尽くす冒険者が外に多数。
辺りを見回せば、壁が崩れ、巨大な穴が開き、焼け跡から煙が上がり、床一面が氷に覆われ……俺と黒猫少女が戦った爪痕が見受けられる。
ギルマスが必死に止めたのも頷ける惨状だ。
もう少し遊びたかったのだが……仕方ない。
両手を掲げて破壊した箇所を修復していく。
ヒヨコが元気よく万歳してるだけに見えるって?うるせぇ。
氷は溶け、壁も床も天井も何もかも元通りに。
「や、やっと解放された……凄まじい威力の魔法だな……」
氷に足を取られていたギルマスがふらつく足を押さえつつ近付いてきた。
そして直ぐ様黒猫少女の脳天に拳骨を落とした。
「くぉらぁセレーナ!ギルド内で暴れんなって散っ々言っただろうが!」
「いったぁ!ならもっと早く止めろにゃー!」
「ある程度発散させねぇと止まらないのはどこのどいつだ!全く、またギルドをぶっ壊しやがって……見ろ、うちの職員が生まれたての小鹿みたいに震えてるじゃねぇか。お前があそこまで暴れたの久々だからな……」
「いっぱい遊ぶ前に相手がダウンしちゃうのにゃ。にゅふふ~、すごぉく楽しかったにゃ。また遊びたいにゃ~……あがっ!」
「ちったぁ反省しろ!」
こいつやっぱり戦闘狂だった。
ギルドで暴れるのが日常らしい。
にしても、職員のあの怯えよう……なんだか罪悪感が湧いてきた。
俺はこいつと同じ戦闘狂な訳ではない。
そりゃちょっとは楽しかったが、周りが見えていなかったからそう思えただけだ。周囲の人なんぞ一切気にせず戦闘だけを楽しむ戦闘狂とは訳が違う。
「なんか、すみません……」
喧嘩売ってきたのはそのセレーナとかいう黒猫少女だが、倍額できっちり買ったのは事実。
気がつけばギルマスに謝罪していた。
セレーナとぎゃんぎゃん言い合ってたギルマスがようやくこちらに顔を向けた。
「お前が噂のヒヨコだな?職員の反応ですぐわかったよ」
「……噂?」
「オークの群れを単騎で殲滅した挙げ句昨日ギルドで暴れたヒヨコ」
そんな噂が立っていたのか。
まだほんの昨日の出来事なのに、話が広がるのが早い。
「オークの群れを殲滅……」
セレーナの目が再びギラついているがスルー。
「暴れたっつっても、絡んできた輩を返り討ちにしただけだろ?」
「今日も絡まれましたけどね」
「なら正当防衛だな。その点については問題ない。ちとやり過ぎ感は半端ないが……」
「ノンバード族を差別する輩が撲滅されない限り絡まれたりしたら倍返しするつもりですので悪しからず」
いずれこの地に弟妹達が来るのはほぼ確実なんだし、それまでにはこの町だけでもノンバード族の差別をなくそう。
もしそれでもうちの可愛い弟妹を虐めるやつがいたら、そうだな、死ぬより辛い苦痛を与えて拷問し、そいつの情報を集めて精神攻撃、廃人になるまで延々続けるコースだな。
にやりと黒い笑みを浮かべたら、何かを感じ取ったギルマスが一歩下がった。心なしか表情がひきつっている。
「あー、お前に一切非がないのは分かった。だがギルドから何もお咎めなしって訳にはいかねぇな」
「え?ちゃんと修復したのに?」
「修復すればギルド半壊させてもいいなんて言ってみろ、毎日が戦場だ。そんなの許可できるか!」
確かにそうだ。何らかの処罰を与えないと同じことが起きるし、冒険者の誰もが俺みたいに魔法で修復できる訳じゃない。
「えー?修繕費は毎回ちゃんと払ってるにゃ~」
同じことを起こすやつがここにいるけどな。
「分かりました。ですが修繕費の請求ではないですよね?もう直しましたし」
普通なら修繕費を請求されるところだがもう直したのでその必要はない。
問いかけてみると、やけに真剣な顔で俺を見返した。
「駄目元で頼む、バードランス火山にいるレッドドラゴンを討伐してほしい」
何かの決意を秘めたギルマスの言葉に目を瞬かせる。
「……何故俺に?噂が立ってるとはいえ、ノンバード族ですよ?」
「ノンバード族だからって理由で冷遇したらお前さんが黙ってないって自分で言ったじゃねぇか。さっきの戦いぶりも本気出してるようには見えなかったし、Aランクの魔物でもひょっとしたらイケるんじゃねぇかって」
ドラゴンが何体出てこようと討伐できる自信はある。ギルマスの申し出は渡りに船だ。
聞いたところ、ドラゴン討伐できそうな高ランク冒険者がこの町にいないため困っていたらしい。
なんでも、普段はバードランス火山にはファイヤーバードしかいないのに2ヶ月前からレッドドラゴンが居着いてしまい、いつ動くかと戦々恐々して冒険者の活動範囲が狭まっているとのこと。
国の上層部は動かないのかと問うと曖昧に言葉を濁された。
お偉いさんにはお偉いさんの事情があるんだろう。
何はともあれ、早いとこ討伐しないとな。貴重なドラゴンの素材を横取りされたら堪ったもんじゃない。ついでにファイヤーバードも討伐してしまおう。クッションと布団作りたい。
お偉いさんの考えが変わらないうちにサクッと行ってこよう。
「無理そうならこの話はなかったことに……」
「行きます」
ギルマスの言葉に被せて食い気味に言った。
「……本気か?ドラゴンだぞ?」
「大丈夫です。行かせて下さい。是非!」
「めっちゃ食いついてくるな!?」
「素材がほしいので」
「素材!?ドラゴンだぞ!?まずは倒す方法から考えるだろ普通!?」
最早素材のことしか考えられなくなった俺は喚いてるギルマスのことなんぞ眼中になく、ファイヤーバードとレッドドラゴンの素材に心踊らせてるんるん気分で冒険者ギルドを後にしたのだった。
「ドラゴンかにゃ~。腕試しに狩ってみたいにゃ~」
セレーナのその言葉で加速したのは言うまでもない。
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