第29話、ステータスカード

 冒険者ギルドに着くまでの周りの反応は以下の通りだ。


 堂々と指差して嘲笑う。

 ひそひそ話しながらクスクス笑う。

 あからさまに馬鹿にした目で見る。


 予想の範囲内だな。

 影で嘲笑われることはあれど絡まれることはなく、無事に冒険者ギルドまでたどり着いた。


 中に入ると扉の開く音に合わせて一斉にこちらに視線が向けられた。やはりここでも見下すような目。

 いちいち気にするのも面倒なのでそれらをスルーして、周りを見回し、冒険者登録用窓口と書かれた場所に向かう。


「ノンバード族がなんでここにいんだよ」


「身分証作るためだろ」


「つーことは田舎から出てきたやつか」


「ハッ、わざわざ田舎から出てくんなよ。お荷物種族が」


「どうせなら死ぬまで田舎に引きこもってりゃいいものを」


 散々言われてるなぁ。


「あの、身分証作りに来たんですが」


 受付のうさ耳獣人に声をかける。


「はいはーいステータスカード作成ねー!じゃあここに必要事項記入してねー!」


 カウンターに飛び乗って言われた通り用意された紙に記入していく。


 名前、性別、年齢……このナリで5歳といっても信じてもらえないだろう。1歳で通すか。種族はノンバード族っと。

 前世の記憶はありますか……直球で聞いてくるんだな。イエスっと。


「書けました」


「はーい見してねー……ん?おお?んんん??」


 渡した途端に首を傾げるうさ耳獣人。

 どうしたのだろう。記入漏れがあったか?


「…………キミ、嘘ついちゃあ駄目だよー。ちゃんと実年齢書こうねー」


 苦笑と共に紙を突っ返された。


 あれ?なんで嘘だと分かったんだ?

 そう顔に書いてあるのがバレバレだったんだろう。そう間を置かずに説明してくれた。


「いるんだよねぇ、年齢や名前を偽って登録しようとする子ー。でも無理だからねー。ステータスカード作る際に使うものは特殊仕様で、嘘ついたら分かるようになってるのよー」


 嘘を見破る魔道具か?

 言われてみれば、ほんのりと魔力が循環してる。年齢のところだけ魔力が集中していて不自然だ。


「冒険者だけが使うものではなく身分証も兼ねているから管理が厳重なんですね。偽名を使った犯罪などを防ぐためなのでしょう」


 年齢を書き直した紙を渡す。


「ははっ!キミ賢いねー!よし、今度は嘘はな…………え?5歳?」


 うさ耳獣人、今度は硬直した。

 記した年齢と俺とを交互に見る。


 言いたいことは分かる。分かるから、そんな怪しいものを見る目をするな。


「……まぁいっかー。転生者の中には何かしらヘンテコな者も混じってるしー……」


 ヘンテコ認定された。

 ヘンテコなのは転生ガチャの内容であって俺自身じゃないぞ。


「じゃあ今度はこの水晶に手を翳してねー。ノンバード族だから魔力はないと思うけど一応ねー」


 必要事項を書いた紙の上にどこからか取り出した水晶を置く。魔力を計測する魔道具か。魔力がないんじゃなくて魔力に蓋がされているだけだって何度も説明してるのに……ここでも誤解されてるのか。はぁ。

 言われた通りに手を翳すと、水晶と紙が同時にカッ!と光りだした。眩しい。

 この2つ、連動してるのか。これはこの世界の魔道具も期待できるかな?


 光が収まり、もういいよーと言われて手を引っ込める。


「びっくりしたぁ。こんなに光ったの久々だよー。必要な情報が揃ったから、今からステータスカード作るんだけど、ちょっと時間かかるから待っててねー」


 さてどうするか。

 ステータスカード作る行程を眺めるのも悪くないが、それだけだとつまらない。魔道具は見るものじゃなく自分で作るものだからな。

 何か時間を潰せるものはないか?


 ふと周りを見渡し、反対側の壁一面にびっしり貼られた依頼書が視界に入った。

 ここらに出る魔物で素材として使えそうなやついないかな……ちょっと確かめてみよう。

 カウンターから飛び降りてびっしり依頼書が貼られた方に向かうと途中で阻まれた。


「おいおい、最弱種族が依頼受けるのか?」


「雑用ですら役に立たねぇくせになぁ」


「ぎゃはははっ!!」


 見るからにガラの悪い連中に絡まれた。

 装備を見るに、中堅クラスか。確か中堅クラスまでいくのに通常何年かかるんだったか……というより、それなりに長く冒険者やってんのにこんな礼儀知らずで大丈夫なのかこいつら。


 魔力量を測ることもできず、相手の実力を見極めることもできない三流に用はない。よって無視。


「無視してんじゃねぇ最弱がぁ!」


 絡んできた輩を素通りして依頼書を眺めていると背後から怒号が飛んできた。しかしそんなものは耳からすり抜けて依頼書に釘付けになる俺。


 ほぉ。なかなか悪くない。先ほど通った森の中にはフォレストラウルフとポイズンスネークがいるのか。フォレストラウルフは毛皮が有用だ。近々採集しよう。

 ポイズンスネークは森の端っこの沼地の近くに生息していると。鱗と毒袋が欲しい。あと魔石も。


「こっの野郎……!」


 背後から足が迫ってきてひょいと避ける。


 おお!アネスタとレグナムの中間地点に火山があるのか!朗報だ。ファイヤーバードとレッドドラゴンがいる。なんて魅力的なんだろう。

 ファイヤーバードの羽とレッドドラゴンの鱗はとても欲しい。両方とも一ヶ所に集合してるとかそれなんて天国?


「最弱のくせにナメてんじゃねぇぞ!」


 踏み潰そうとした足をヒヨコの手で受け止める。

 そしてあらぬ方向にねじ曲げた。


「いだだだだっっ!?」


「さっきからうるさい。人が楽しんでるときに横槍入れるな」


「ノンバード族ごときが……!」


 骨がミシミシ音を立てたところで手を離すと尻餅をつき、お仲間が仇を討とうと一斉に襲ってくる。一人は弓を、一人は剣を、一人は魔法を。


 飛んでくる矢を叩き折り、振り下ろされた剣を結界で防ぎ、詠唱途中の魔法に魔力を介入させて発動を阻止。

 驚き、ぽかんと呆けている彼らに今度は俺が反撃する。


 ヒヨコの手から魔法で水を出し、鞭のようにしならせ、彼らにお見舞いしてやる。スパパンッと頭を打てば全員が体勢を崩した。

 次に炎で形作られた長い鎖で彼らを一纏めにし、空中に高く飛び、床に叩き付けた。

 彼らの身体がめり込み、床板が粉々に割れる。しまった。あとで直さないと。


 絡んできた輩を物理的に黙らせて一息ついていると、辺りが静まり返っていることに気付く。


 周りをちらっと見てみると様々な反応があった。

 目が合うなり怯える者、信じられないものを見る目で固まる者、こちらを窺いながらひそひそと話すギルド員数名。小声のつもりなのか?全部丸聞こえだぞ。

 どうやらギルドマスター不在なためトラブルの対処をどうするかで話し合っているっぽい。面倒なことになる前に出よう。


「ステータスカードはできましたか」


「ひぇっ!?」


 うさ耳獣人に話しかけたら怯えられた。うさ耳がビクーッと跳ね上がる。派手な魔法を使った訳でもあるまいし、何故そこまで怯えるのやら。


「す、すみませぇん!もうすぐ出来上がりますのでー!」


 さっきはフレンドリーに話してくれてたのに……


 宣言通りすぐに出来上がったステータスカード。渡されたそれはどうしてか何も書かれていない。


「あの、何も書かれてないんですが」


「そ、それはですねー、本人の魔力を登録して初めてステータスカードとして機能するんですよー。盗難防止として本人以外の人が触れると拒否反応が出る仕組みですー。確認のため魔力を流してもらってもいいですかー?」


 個々の魔力で判別してるのか。便利だな。


 言われた通りステータスカードに魔力を流してみる。ほんの1滴垂らしただけでカード全体に広がり、ふわりと文字が浮かび上がった。



―――――――――――


フィート・メルティアス


年齢/5歳  性別/男

種族/ノンバード族


体力/400/420

魔力/9,099,997,100/9,100,000,000


冒険者ランク/-


称号/賢者、前世の記憶を持つ者、永遠のヒヨコ、ブラコン、鬼教官



―――――――――――



 魔力の数値は前世とそう変わらないな。前世から引き継いだんだから当然か。

 左側の減ってる数値が現在値か。今しがた魔力使ったし、ついさっきまで森の中移動してたし、減ってるのも当然か。

 おや?訳の分からない称号が混じってる。なんだ、永遠のヒヨコって。せめて不老のヒヨコとかにしてほしい。その方がなんかかっこいい。


「これで終わりですよね?」


 顔を上げると、驚きのあまり硬直しているうさ耳獣人が。

 どうしたのだろう。何か不具合でもあったのかと首を傾げていると、正気に戻ったうさ耳獣人が見た目を裏切るほどの声量で腹の底から叫んだ。


「な、なななな何この魔力量ーーーーーー!!?」


 あ、そこにびっくりしてたのね。

 確かに他人より多少は多いが……そこまで驚くか?


 うさ耳獣人の叫びに少々ざわめくギルド内。

 俺の魔力量の多さに度肝を抜かれただけのようで特に不具合があった訳でもなさそうなのでさっさとギルドを後にした。


 もちろん床は修復した。これで後から咎められることもあるまい。


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