第28話、アネスタ到着
馬車に揺られながら俺はグレイルに前世の話を伝えていた。
他の世界の文化に興味を持ったらしく色々と質問が飛び、それに答えていく。
よその世界の文化などを伝えたりするのはタブーなんじゃ、と一瞬頭を過ったが、聞くところによると前世の記憶持ちの者から他世界の文化を取り入れて足りない部分を補い合うことで他世界とのバランスを保っていると言われてるらしい。仮説だが。
そんな訳で、この世界のことを聞く俺と他世界のことを聞くグレイルの図が出来上がった。なかなか有意義な時間だった。
そうして話している間に森から抜け、立派な外壁が見えてくる。
外壁で囲まれていて中の様子は見れないが、開きっぱなしの門からちらりと覗く人の流れは村にいたら絶対に見ることのなかった景色だとしみじみ実感する。
周りが薄暗くなり、オレンジ色の空が広がる現在。
日が傾いてきて門を閉じようとしている。
「待った待った!ちょっと待ったぁ!」
護衛の一人が叫び、閉じようとした門をぴたりと止めた門番。
どうにか滑り込みでセーフだった。
こちらを振り返る門番。黒豹の獣人だ。
そして無表情だ。
「身分証の提示をお願いします」
「オーク200体とオークキングが現れた。早急に後処理を頼みたい」
淡々とした口調で事務的に話す黒豹の獣人の言葉を一先ずスルーして、端的に最優先事項を述べるグレイル。
それに真っ先に反応したのはもう一人の門番だった。
トカゲの獣人で、捲し立てるようにグレイルに詰め寄る。
「オーク200体?オークキング?どこに現れたんですか!?至急討伐隊を編成しますので……」
「もう倒したよ」
「……は?」
トカゲの獣人がぽかーんと呆ける。
黒豹の獣人は変わらぬ無表情。だが背後に雷が落ちたような衝撃を受けている。
「この子が全て討伐してくれたんだよ。オーク200体なんて後処理するのも大変だからそのままにしちゃってね、片付けてくれるかい?」
「はい、それは構いませんが……」
受け答えしている黒豹の獣人がちらっと俺を見る。
何を考えているのか分からない顔でじっと見つめられている。
多分、こんなヒヨコが倒せる訳ねぇだろとかそんな感じの心情かな。トカゲの獣人も半信半疑だし。
そんな二人を見て悪戯っぽく目を細めるグレイル。
「言っておくが、今回護衛はDランクを雇ったからオーク200体とオークキングなんて到底倒せないよ。信じられないなら現場を見てみるといい。凄いことになってるから」
グレイルが言い終わると慌ててどこかに走り去ったトカゲの獣人。あとはどうにかしてくれるだろう。
「後処理はお任せ下さい。では身分証の提示をお願いします。身分証がない場合は通行料として銅貨2枚の支払いが義務付けられています」
おそらく俺のために補足してくれたのだろう。
俺らが抜けた森の先にはレアポーク領とウルティア領しかない。両方とも身分証を作る概念がないほどのド田舎なので俺が身分証を持ってないことを見越して説明してくれたんだな。
表情は読めないが、親切な人だ。
グレイルと護衛は身分証を見せ、俺は銅貨2枚を渡す。
「身分証は冒険者ギルドで発行できます。身分証なしで門の外へ出ると再度訪れたときに銅貨2枚支払い義務が発生しますのでご注意下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
「中央の領主館から北に向かうと焦げ茶色の大きな建物があり、そこが冒険者ギルドです。南にも似たような色の建物がありますが、そちらは商業ギルドです。よく間違える人がいるので気をつけて下さい」
「……はい、分かりました」
親切すぎやしないか。
感情が全く読み取れないから相手に怖い印象を植え付けそうだが、その実、真面目で親切な人というのが黒豹の獣人の門番に対する第一印象だった。
色々と説明を受けたあとでようやくアネスタの門を潜る。
夕暮れの柔らかな光に照らされてややオレンジがかった街並みに様々な種族がごった返している。ウルティア領とは大違いだ。
色んな建物が所狭しと並び、人の出入りも多い。
アネスタもどちらかと言ったら田舎寄りなので王都に比べればまだまだ序の口だろうが、田舎暮らしに慣れきった自分にとっては十分都会に感じた。
「早朝に出発したのに、こんなに早く帰ってくるとは思わなかったなー」
「今日はもう休みたい……」
「グレイル様、今日の護衛依頼は未達成になりますよね?本来ならウルティア領まで往復で護衛でしたし」
「いや、今日の分はカウントしないよ。その代わり異常事態に巻き込んでしまったお詫びとして別報酬を出そう」
「えっ!?いや、でも、俺ら役に立たなかったのに……」
「そんなことはないさ。ほれ、仲良く分配しなさい。近々もう一度ウルティア領に行商に行くから、今回の依頼はそのときに消化してくれればいいよ」
「あ、ありがとうございます……!」
護衛を務めた冒険者達に駄賃を渡すグレイル。気前がいいな。
グレイルがまた連絡する旨を伝え、宿屋に行く冒険者達。俺とグレイルの二人だけになった。
「フィード君はこれからどうするんだい?」
「先に宿屋を予約して冒険者ギルドに行こうかと。今の時間ならそれほど混んでないでしょうし」
「ふむ、そうか……」
何やら考え込んでいる様子。
だがそれも数秒のこと。
「良かったらウチに泊まらないかい?助けてくれたお礼もしたいし」
朗らかな笑みを浮かべて提案するグレイル。
有り難い申し出だが、大丈夫なのだろうか。家族の都合とか。
「私は独り身でね。部下が二人泊まり込みで仕事を請け負ってくれているが生活空間は離してるし、身内もいないから、誰も文句は言わないよ。それに、ちょうど話し相手がほしかったんだ。なに、老人の暇潰しとでも思っとくれ」
「まぁ、そういうことなら……」
正直助かった。
所持金が少ししかないから宿屋で部屋を借りれるかどうか微妙なところだったんだ。
オークキングの剣を売れればいいんだが、店仕舞いしてるとこがちらほらと……時間的に無理っぽい。
商業ギルドでも売れるだろうけど、素材じゃないから武器屋で売るより安くなる。それはちょっとな……
冒険者ギルドか適当な商会に売るか?
いや、冒険者ギルドは素材と薬しか買い取ってくれない。武器は専門外である。
商会は論外だ。
商会ごとに買い取り価格がピンキリなのだが、ああいうのはまともなとこじゃなきゃ種族や性別で格差が生まれる。差別対象であるノンバード族がのこのこ売りに行ったところでまともに交渉なんぞできないだろう。
あれ?でもグレイルも商人って言ってたし、買い取ってくれるかな?正当な価格で。
まぁ、そこんとこは後で聞こう。
「あとで冒険者ギルドに使いを寄越すから、のんびり身分証作っておいで」
「はい。何から何までありがとうございます」
グレイルと別れ、冒険者ギルドへと向かった。
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