第19話、派手にやってんなぁ……

 治癒魔法を使ったことに何か言いたげにしていたウルティア男爵だが、俺が治した奴らが意識を失っているのに気付き、直ぐ様周りの村人達に指示を出していた。

 俺を捕まえていた村人も俺を降ろすや否やその中に加わる。


 忙しなく動き回る村人達を横目に弟妹達に目配せしてちょいちょいと手招きした。

 怪我も治したし、新たな魔物も気になるし、さっさと山に行こうじゃないか。え?忠告?……さぁ?なんのことやら……


「ちょぉっと待とうかフィードくん?」


「うぐっ」


 ウルティア男爵に頭を鷲掴みされた。

 逃がす気はないようだ。チッ。



 ウルティア男爵に半ば強引に領主館に連れていかれた俺達メルティアス兄弟。

 なんで連行されるのかわかってない弟妹達は遊び場が変わったのかなー的な感覚でとことこ大人しくついていく。


 弟妹達は別室に残し、客室でウルティア男爵と向かい合わせに座る。


「単刀直入に聞く。どうして治癒魔法を使える?」


 うん、聞かれるよな。普通。


 治癒魔法は魔力の使い方が特殊で、尚且つ他系統の魔法より多くの魔力を消費する。

 その特殊な使い方を完璧にマスターして初めて治癒魔法が使えるのだが、それを完璧に覚えることができる魔法師が極端に少ない。


 理由は単純で、他の魔法の方が使いやすく、わざわざ治癒魔法を覚えるのに時間を割くならその分他の魔法を鍛えた方が有意義だからだ。俺も魔道具に自動回復の付与をする実験のためじゃなきゃ覚えようなんて思わなかったしな。

 それに、治癒魔法などなくとも錬金術師作の回復ポーションで大体事足りるのも治癒魔法師が少ない原因のひとつだ。


 あと消費する魔力が多すぎる。

 基礎の簡単な治癒魔法を一回使うのと上級の広範囲攻撃魔法を一回使うのがほぼ同じ量だからな。

 回復ポーションでも治りきらないほどの酷い怪我を治せるほどの治癒魔法師は必然的に他の魔法師よりもダントツで保有魔力が多い。

 それほど多くの魔力を保有するには相当鍛える必要があり、ある種、才能が備わってなければ辿り着けない境地でもある。


 それなりの才能と並々ならぬ努力と大量の魔力と治癒魔法に関する膨大な知識を持ってして、ようやく治癒魔法師を名乗れるのだ。

 そんなやつがそこら辺にゴロゴロいる訳がない。


 この見解はあくまで前世のものだが、ウルティア男爵のこの反応からするにこの世界でも似たり寄ったりだろう。


 で、そこで疑問となるのが、治癒魔法に関する資料も何もない田舎領地に住む一介のヒヨコが、何故治癒魔法を使えるのか。


 他の魔法は使ってるのを見られていたのでそれなりの魔力を保有してるのは察せられているだろうが、どれだけ魔力を保有していても治癒魔法の膨大な知識を持ち合わせていなければ治癒魔法は使えない。


 これに関しては正直に言うつもりだった。


「俺は前世の記憶があります。治癒魔法の知識はそのときに培ったものです」


「……なるほどな。噂に聞く転生ガチャとやらか」


 政府が公式で認めていないだけで、転生ガチャの存在はある程度知られている。平民である両親が普通に知っているのに領主が知らないなんてことはないだろう。

 前世の記憶持ちだと打ち明けたらすんなり納得してくれた。


「前世では治癒魔法師だったんだな」


「いえ。しがない研究家でした」


「研究家?」


「新しい魔法を開発したり、珍しい素材を使って面白い魔道具を開発したり、新たに発見された魔物の素材がどんな効果を発揮するか、なんの用途に使えるかを研究したり、色々やってましたよ」


「……それでなんで治癒魔法が使える?」


「研究に必要だったので」


 より多くの知識と技術を持っていれば、その分研究の幅は広がる。だから出来うる限り吸収していった。治癒魔法に関してもそうだ。

 覚えるのに苦労したが、その甲斐あって自動回復の付与を装飾品につけることができた。

 そういえばあの装飾品、貴族令嬢にすこぶる評判が良かったな。飛ぶように売れて結構稼いだ記憶がある。


 今世でも研究に没頭したい。そのためには研究に適した環境を作らなければいけない。そうするとまず資金が必要だ。

 どんなふうに貯金するにせよ、この田舎領地ではどう考えても稼げそうにないし……まずは領地を出るのが目標かな。

 家族のことは気掛かりだが、そうそう危険に出会さない平和な領地だし、まぁ心配いらないだろう。


 今後の身の振り方を考えている傍らで「研究のため……たったそれだけの理由で希少な高等技術を……」ってブツブツ言いながら肩を震わせているウルティア男爵。

 何かおかしなことを言っただろうか?と首を傾げていると扉をノックする音が聞こえた。

 入ってきたのは執事だった。なんか焦ってる?


「失礼致します!フィード様、少し目を離した隙にご兄弟様が何人か山へ向かってしまいました。申し訳ございません!至急連れ戻します!」


「ああ、その必要はありませんよ」


「で、ですが、危険な魔物が出たと村中で騒ぎになっていますし、もし襲われでもしたら……」


「放っておけ。あの子らなら問題ねぇ」


 己の世界から抜け出したウルティア男爵が擁護してくれる。


「しかし、子供だけでは……」


「大丈夫だって。魔法が使えるって話しただろ?ああ見えて山ひとつ軽く吹っ飛ばせる実力持ってるから」


「山を吹っ飛ばす!?」


「なんなら着いていってもいいぞ」


 あまりの光景に言葉失うだろうけどな、と呟かれた。

 確かに、デカイ山ひとつ吹っ飛ばせる雛鳥は珍しいよな。


 結局追いかけていった執事を見送る。


「……あ」


「どうした?」


「小ぶ……ボールと待ち合わせしてたの忘れてまして」


「今子豚って言おうとしたな。待ち合わせって昨日の山か?」


「はい。まだ全然鍛えられてないので、新たな魔物と出会したら太刀打ちできるかちょっと心配で……」



 どっごぉぉぉぉぉん!!!



 突如聞こえてきた轟音。


 ウルティア男爵と揃って窓の外に視線をやると、少し先にある山々の一角がごうごうと燃え盛り、黒煙が立ち上っていた。

 その後に大量の水が山を包み込んで消火されたため山火事には至らなかったが、次々と魔法と魔法がぶつかり合う音が響く。


 はぁ、全くあの子達は……


 音が聞こえない場所に行くか、防音の魔法を使えと言ったのに。

 長閑な村にいきなりこんな大音量の音が響いたら村の皆が混乱するだろうが。


 ちょっとあとで説教だな。


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