第17話、山の危険度アップ
どこからか視線を感じたので辺りを見回したらレアポーク男爵とウルティア男爵が揃ってこちらを凝視していた。
ウルティア男爵とは会ったことないが、何度か遠目で見たことくらいはあるので、上半身が人間で下半身が馬の獣人が領主なのは知っている。
あの二人、なんでここにいるんだろう。ウルティア男爵はここの領主だからまだ分かるけど、何故にレアポーク男爵まで?
息子の進捗具合を見に来たのか?
もしそうなら悪いことをしたな。正直全然上達してない。
根本的に魔力量が俺達兄弟よりずっと少ないから、できることが限られている。まずは魔力量の増加と魔力制御とは言ったものの、こいつが魔力云々より早く魔法教わりたいと駄々をこねたので現実を知らしめるために同じ内容の特訓を課したのだ。
案の定、理想とは程遠かったが。
「ご無沙汰してますレアポーク男爵。そして初めましてウルティア男爵。お二人共、何故こんなところに?」
弟妹とボールに自主練を課し、二人の元へ。
急に接近してきたヒヨコにびくっと肩を揺らし、あからさまに動揺している二人の男爵にはお構い無し。挨拶もそこそこに疑問をぶつけてみる。
「あ、ああ。会うのは初めてだな。改めて、ここの領主を務めているローガン・フォン・ウルティアだ。実はレアポーク男爵が息子の様子を見たいと言っててな。そこで初めて魔法の特訓のこと知ったんだが……あのノンバード族が教えてるってなもんだから俺も気になってよ」
突然接触してきた俺に動揺の色が濃くなるウルティア男爵だがすぐに気を取り直して返事した。
国の端っこにある辺境といえど、他領の主が好き勝手に動くわけにはいかず、ウルティア男爵に許可を取ったのか。
で、そこで俺の授業のことを聞いてウルティア男爵も一緒に確かめに来たと。
魔法の授業なんて見てるだけだとつまらないと思うんだが……いや、魔法が使える人が極端に少ないここら辺は例外か。
ボールが調子に乗って見せびらかしていた魔法もどきを褒めちぎるくらいだもんな……魔法に馴染みがないなら気にもなるか。
「ノンバード族は魔力を持たない種族のはずだが?」
「正しくは、魔力は体内にあるのに使えない種族です。魔力を体外に出せないように生まれつき蓋をしてしまって、そのせいで自他共に魔力なしと判断してしまうんでしょう。その蓋さえ取り除けば魔法は使えます」
「なんと……そのような仕組みが……」
「そんな種族がいたのか……聞いたことないな」
無理もない。かなり特殊な体質だからな。
前世ではその類の文献もあまり残っていなかったし、こちらの世界でも広くは知られていないのだろう。
「……ところで、フィード君。あれは何の特訓だ?」
「攻撃系の魔法の特訓です。もし強い魔物と遭遇しても自衛できるように」
「…………そうか。ここら辺ではせいぜいゴブリンくらいしか出ないんだがな……」
レアポーク男爵の問いかけに答えるとそんな言葉が呟かれた。
まさか否戦闘職でも難なく倒せるレベルの魔物しか出ないとは思わなかった。せめてオーガくらいは山奥に潜んでると踏んでいたのだが、期待が外れたようだ。
対魔物戦もこいつらに教えてやりたかったのに、残念だ。
「弟妹達はここに留まるにしろ、出ていくにしろ、自分の身を守れるくらい強くなってもらわないと俺が心配なので」
至極真面目な声色でそう口にすれば、ウルティア男爵はぽかんと呆けたあと笑いだした。
「あっはっはっは!ドラゴンにも引けを取らない力を身に付けさせた理由がそれか!」
「度を越えた兄弟想いの成せる技、か。……ふっ」
何故かレアポーク男爵まで薄く笑っている。
笑われるようなことをした覚えはないんだが……
俺だけ首を傾げていると、向こうが何やら騒がしくなっていることに気付き、男爵二人に断りを入れてから弟妹+αの元へ。
「どうした?」
「あっ、にいに!大変なの!」
「変な生き物がいるー!」
「変な生き物?」
あっという間に弟妹達に囲まれ、皆が指し示す方向にいたのはゴブリンだった。噂をすればなんとやらだな。
数は5体。刃が欠けた鉄剣や使い心地悪そうな弓などのボロボロな武器をこっちに向けて気味の悪い鳴き声を上げながら威嚇している。
まだ弟妹達には魔物のことを説明していなかった。だから変な生き物と言ったのだろう。
未知の生き物との遭遇に怯えた態度を見せる弟妹達。
ボールはスライムを見慣れてるからか魔物への怯えはない。ゴブリンを倒したことがあるのか余裕な顔だ。
「この程度の魔物、お前らレベルなら瞬殺だろうに……なんで怯えてるんだ?」
「ここら辺じゃそうそう出ないからって魔物の説明は後回ししてたんだ。……だが、ちょうどいい」
標的がのこのこやってきたんだ。練習台になってもらおう。
「いいか皆。あれはゴブリンという魔物で、倒さないといけない敵だ。こんなふうにきっちり首を落とすのが基本だぞ」
一番手前のボロい鉄剣を持ったゴブリンに向けて魔法を放つ。
最小限の魔力でつくった風の刃が緑色の皮膚を切り裂き、頭と胴体が分かれて転がった。
「弟1号。兄ちゃんと同じ魔法で倒してみろ」
「う、うん」
少し緊張しながら一歩前へ出た弟1号。
軽く頭を撫でてリラックスさせると緊張は掻き消えた。
いきなり先導者が殺されてあたふたしている隙に俺と同じ魔法をぶちこむ弟1号。
精度も威力も申し分なく、あっさりと2体目のゴブリンを倒した。
「今のお前達なら下位の竜種でも勝てる。こんな低級の魔物なんて一撃だ」
「わぁ!なんかこれ面白ーい!」
魔法で敵を倒すのが爽快な気分にさせたのか、弟1号のテンションが爆上がりだ。
きゃっきゃっとはしゃぎながら、敵わないと悟って逃げようとする残りのゴブリンを風魔法で次々と葬った。
瞳を輝かせ、嬉々として魔物を狩っている。
この子は将来戦闘職に就きそうだな。
「よくやったな」
「えへへー」
弟1号の頭を撫でて褒めてやったら照れた様子で、でもどこか嬉しそうな顔ですり寄って甘えてきた。可愛い。
「あーっ!1号兄ちゃんズルい!」
「わ、私も褒めてほしい……」
「ん?じゃあ、魔物を倒したら褒めてやる。体内に魔石という魔物の心臓があるからそれを取って来れば討伐完了だ」
「やったぁ!僕も魔物倒すぞー!」
俺に褒められたいがために魔物を狩り尽くさんとする弟妹達マジ可愛い。我が家の天使だ。
「やっぱり一撃だったし……てか、竜種にも勝てるって聞こえたけど、絵面がおかしいだろ……」
ボールが呆れ混じりの独り言を溢していたが天使達を愛でるのに忙しい俺には聞こえない。
「おかしいな。ゴブリンはもっと奥の方に生息してるはずなのに……」
「人里近くにまで降りては来ないはず。念のために調査した方がいいかもしれんな」
背後でウルティア男爵とレアポーク男爵がやや不穏な会話をしていたことも全く気付かなかった。
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