第11話、領主の呼び出し

 あの後両親に三時間も説教された。もし人間だったなら確実に正座させられたであろう剣幕で。


『魔法の練習を止めさせるつもりはないけどな、せめて俺達に一言くらい言ってくれ』


 最終的にそう締め括られた。


 何故叱られたのかイマイチ分からなかったが最後の言葉でピンときた。


 そうか。家の耐久性が心許ないのが分かってるから、事前に知らせてくれないと魔法合戦に発展したとき家から締め出せないって言いたいんだな?


 安心してくれ。次からは我が家が吹っ飛ばないよう強固な結界を張っておくから。


 一先ずそれで住む場所が更地になったり家の中の物が物理的に紛失したりということはなくなるぞ。


 これで問題解決だ。良かった良かった。


 そう思ったのも束の間。


 領主から呼び出しをくらった。


「お初にお目にかかります。私はレアポーク領領主補佐のエマルス・ワイデンと申します。突然の訪問で困惑されてるやもしれませぬが、何卒ご容赦を」


「は、はぁ……」


 領主といってもウルティア領のではない。隣の領だ。

 はて。隣の領の領主に呼び出されるようなことをしただろうか。


 突撃訪問してきた領主の使いに、いかにも困惑してます!という顔で気の抜けた返事をする父。


 それも無理からぬことだ。

 家族全員で日課の畑仕事に精を出してるときに、このド田舎にしては妙に身綺麗な格好をした人間が訪ねてきたと思ったらいきなり予想の範疇外な紹介をされたのだから。


 ウルティア領では人間はおらず、住人は総じて獣人族だ。

 人間が訪ねてきたことで微かに警戒を滲ませていた父だが、隣の領の領主補佐というまず一生関わることのない役職の人だと知るや否やその警戒心はすっ飛び、代わりに困惑に眉を寄せたのが現状。

 父の今の心情を言葉にするなら「お偉いさんがウチに何の用?」だろう。


 仕事を中断して茶を用意しに台所に行ってた母も戻ってきて、両親、俺、エマルスの四人でテーブルを囲む。

 弟妹達には引き続き畑仕事の手伝いを頼んでおいたのでここにはいない。大人同士の会話に子供達を同席させる訳にはいかん。

 鏡で自分の姿見てみろよって?中身は大人なんだよ。中身は。


 それにどうやら彼方さんは俺に用があるみたいだし。


「フィード様。先日は我が主スリム・フォン・レアポーク男爵のご子息ボール様がお世話になりました」


「ボール様……あっ!あのときの!」


「父よ。あのときとは何だ?」


「あれだよ、お前が初めて魔法使ったときの!お前忘れたの!?」


 ああ、あの豚か。思い出した。


「左様でございます。つきましてはその件でスリム様よりお話があります。急で申し訳ありませんが、今すぐ領主館へ足をお運び頂いて宜しいでしょうか?フィード様」


 本当に急だな。

 まぁ貴族なんてどこも優雅で上品で華美な外面とは裏腹に誰よりも仕事に追われる生き物だ。これ前世の貴族の知り合い談な。

 俺達田舎の平民より忙しいのは明らか。そんな人が一平民のために貴重な時間を割くのに、わざわざこちらに合わせられる訳がない。


 そんな多忙のお偉いさんが何故平民、しかも他領の者を呼び出すのか。ここの領主に何も言われなかったのか?


「分かりました。すぐ準備します」


 疑問は尽きないが、他領のとはいえ領主の呼び出しだ。一介のひよこに否を唱えられるはずもない。


 外出の準備をささっと済ませてエマルスについていった。


「ヤバイよ……ヤバイよ……!レアポーク様怒ってるよ……!そりゃ息子がコテンパンにされたら怒るに決まってるよ……!どうしよう俺も一緒に行くべき?でも呼ばれたのフィードだけだし俺がしゃしゃり出るのは……いやでも息子を一人戦場に放り出すのも……」


「貴方、落ち着いて!」


 父のうるさい独り言は軽く無視した。


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