第10話、知らぬ間に魔改造される我が子達
魔法の訓練を始めてから3日が経った。
弟妹達の成長は早いもので、もうすっかり魔法を使うのが板についている。属性魔法も中級までは完璧だ。
筋がいいやつは上級魔法も少し覚えた。
俺ほどではないにしろ、魔法の習得も早い。
僅か1時間で山を両断できるようになり、更に粉砕できるのが当たり前になっていた。
属性魔法も初級程度なら難なくクリア。
中級になると習得スピードが落ちたが然程問題なくクリアした。
魔法には詠唱も魔法名も唱える必要はないのだが、最初は発動しやすいように魔法名を唱えての発動を推奨している。
魔法を使い慣れてないうちは魔法名を唱えた方が魔法をイメージしやすいからな。
どうしても非効率なので後々それもなくす予定だ。
訓練場所は最初に俺が衝撃波で吹っ飛ばした山だ。
ウルティア領の半分近くが山脈地帯だが、さすがに弟妹全員が衝撃波の特訓できる数はない。
さてどうしたものかと頭を悩ませたがその問題はすんなり解決した。
なに、至極簡単なことさ。
俺が魔法で山を再生すればいいだけだ。
山が破壊され、俺が再生させる。これの繰り返し。
ひとつの山だけを練習台にしてるのだ。
しかも再生魔法でその都度元通りにしてるので、環境破壊にもならない。
自分で壊して自分で直す。実にエコである。
「おーいお前達。もうすぐ飯の時間だぞ。その辺で切り上げろ」
夕闇に染まりつつある空を背に、弟妹達に声をかける。
育ち盛りの雛鳥達は飯と聞いて目を輝かせた。
「やったぁ!今日のおかず何だろう?」
「兎肉かなー?」
「昨日兎肉だったじゃん!熊肉食べたいー」
賑やかに集まってくる皆に微笑ましく思いながら、目の前に広がる魔法の痕跡を見上げる。
山の中腹辺りであるここには木と葉が所狭しと生い茂っていたのだが、今や変わり果てた姿となっていた。
ある所は根っこから木が薙ぎ倒され、またある所は綺麗な断面を残して両断され、地面が抉れてクレーターができている所もある。どこの戦争跡地だと言われそうな惨状だ。
初級を極める者、中級を復習する者、上級に挑戦する者とで別れたが……派手にやったな。
初級魔法で広範囲の木々を両断するとは、さすが妹7号。
それに中級魔法でクレーターを作った弟13号もなかなか筋がいい。
弟8号は惜しいことをしたな。上級魔法を使ったにも関わらず木を薙ぎ倒した程度か。
まぁアイツは風魔法が苦手だからな。向き不向きはあるさ。
最後に再生魔法で特訓を始める前のなんの変哲もない山に戻してから全員で帰宅した。
「おかえりー!今日も遊びに行ってたのか?本当に仲良しだな!」
揃って「ただいまー」と告げると夕飯の準備の手伝いをしてる父がにこやかに返した。
魔法の特訓のことは今でも両親に言ってない。
言おうとしたことはあるが、どこかに遊びに行ってると勘違いしてくれたもんだから結局言わず終いだ。
訂正するのも面倒だし。
「今日は何して遊んでたんだい?」
「スパッとしてー、スパッとしたー!」
「グオーッとしてー、シュバッとしたー!」
「う、うーん……?全然想像つかないな……」
おまけに弟妹達の語彙力のなさよ。
父に正しく伝わるのはいつになるやら。
毎度の如く全員で食卓を囲み、楽しく喋りながら料理に舌鼓を打っていたときのことだ。
「これは僕のだー!」
「ずるい!俺に寄越せ!」
弟14号と15号がおかずの最後の一口で取り合いになり、ケンカが勃発した。
「やめなさいあんた達!おかずひとつでムキにならないの!」
母が一喝するも収まる気配はない。
この二人がおかずの取り合いをするのはいつものことなのだが、今回は少し雲行きが怪しいな。
最近は弟15号が最後の一口を勝ち取ることが多かった。だから14号も苛立ちが最高潮なのだろう。
今も激しい攻防戦の末負けた。
悔しげに15号を睨んでいる。15号は涼しい顔をしている。
それが余計に14号の怒りの琴線に触れた。
食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだ。若いうちはそれが顕著に現れる。今のようにな。
「もう!あったまきた!ウィンドカッター!」
風の初級魔法を繰り出した14号。小さな風の刃が15号に真っ直ぐ向かう。
「うわっ!?シールド!魔法使うなんてひきょーだぞ!そっちがその気ならこっちだって!サンダーボルト!」
初級の結界魔法で防ぎ、雷の初級魔法で反撃する15号。15号の手から一筋の電流が流れる。
「なんのこれしき!ウィンドトルネード!」
風の中級魔法で竜巻を起こし、雷魔法を巻き込んで相殺した。
食卓にあった食器類などの物が壊れて散乱する。
巻き添えを食らわないようちゃっかり退避する他の面々。
「お前達、いい加減にしろ!家では魔法は使うなと言っただろう!ただでさえこの家脆いんだから!」
これ以上被害が出ないよう仲裁に入った。
土魔法で岩を作って両者の頭にゴツンッと落とす。これで少しは冷静になったろう。
人間の手だったら拳骨入れれたのにな。
「「ごめんなさーい……」」
「よし。もう家の中で魔法は使うなよ?あと最後の一口は公平にくじ引きで決めような?」
しゅんと項垂れる弟14号と15号にできるだけ優しく諭す。
じゃんけんでって言おうとしたが、鳥類にグーチョキパーなんて芸当できないんだったと思い直してくじ引きにすり替えた。
14号も15号も異論はなかった。
「父よ、母よ。すまん。しっかり言い聞かせておくから許してくれ……どうしたんだ二人とも?そんな間抜け面になって」
魔法で家の中を元に戻しながら両親に顔を向けると、兄弟達のように退避することはおろか、座ったまま氷の彫像よろしく固まっているではないか。
どうしたんだろう。調子でも悪いのか?
「……………………………………フィード」
長い沈黙の後、俺を呼んだのは父だった。
なんだ?と首を傾げれば、がっしと痛みを感じるくらい思いっきり両手で掴まれた。
何故かその顔は蒼白で、今にも魂が抜けそうだ。
ふるふると全身震わせている父は、色んな感情を押し殺すように声を絞り出した。
「どういうことか説明しなさい……!!」
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