第12話、感情豊かなスライムくん

 隣の領までの道程は案外短い。


 こちらから話しに行くなら当然自力で行かなきゃならないが、貴族からの呼び出しなら気前が良い人なら馬車を用意するし、案内人も寄越す。今回エマルスはそれだ。

 だがわざわざ馬車を使うほどの距離でもないので徒歩で隣の領へと向かっている。


 前世では大体馬車が用意されてたから新鮮だな。


 新鮮といえば今の俺の格好もだが。


「ワイデンさん。何故俺は抱っこされてるのですか?」


「もちろん私がそうしたいからです。あと私のことはお気軽にエマルスとお呼び下さい」


 掌サイズの俺を両腕で優しく包み込むエマルス。

 ……ひよこを愛でるのが好きな人なのかな?

 歩かずに済むなら楽でいいけど。


 俺を抱っこしたエマルスはレアポーク領への短い道程を歩く。

 あまり整備されていない道を足音ひとつ立てずに進むとは……こいつ隠密に向いてるな。


「……ん?」


 ふと視界に違和感のある緑が映る。


 レアポーク領へと続く道なき道から少し逸れた雑木林に緑色の物体がいくつも見えた。


「スライムか」


 この世界では初めてお目にかかる魔物だ。


「グリーンスライムですね。狂暴な一面もあるのでお気をつけ下さい」


「スライムって狂暴なんですか?」


 前世のスライムはほぼ何の害にもならない穏やかな魔物だったんだが……


「スライムは二種類あります。狂暴なグリーンスライムと無害なブルースライムです。グリーンスライムは討伐対象ですがブルースライムは使役するのが一般的ですね」


「ああ、そういうことですか。ゴミ処理に打ってつけですもんね」


 スライムは基本なんでも溶かす。

 焼却処分するよりずっと環境に優しい。


「で、その有益なスライムがリンチされてますけど」


 グリーンスライム集団の中心に一匹だけブルースライムが紛れこんでいる。グリーンスライムの何匹かが攻撃してるところを見るにリンチで間違いない。


 足を止めてうーんと唸るエマルス。


「レアポーク領ではブルースライムが多く見つかるので……正直、グリーンスライムを蹴散らしてまで手に入れようとは思いません。それに、これ以上スライムを家に入れたら溢れそうですし」


 溢れるほどスライムがいるのか……家の中に。


「じゃあ俺が貰っても良いですよね」


 言うが早いか、エマルスの腕の中から飛び出す。

 魔力を練りながら着地し、地に足がつくのと同時に風の刃でブルースライムの周辺にいるグリーンスライムを狩る。

 スライムは魔物の中では最弱だ。なので然程時間をかけずに殲滅できた。


「おい、生きてるか?」


 ブルースライムに声をかけると一瞬その丸いゼリーみたいな身体がぷるんっと震えた。

 そして言葉の意味がわかったのか、直ぐ様縦にぐるっと1回転した。まるで頷くように。


「そうか。ならいいが……お前、言葉がわかるのか?」


 またぐるっと1回転。図星のようだ。


「じゃあ話が早い。お前ウチに来ないか?」


 反応がない。これは拒否されたか?


「嫌なら別にいいが……」


 そう言った直後、ブルースライムが体当たりしてきた。

 攻撃されたかと魔力を練ろうとしたが、すりすりと頬擦りしだしたことによりそうじゃないなと考え直す。


「ついてくるか?」


 ぎゅるるるんっ!!と縦に何回も高速回転。


 どうやら仲間になってくれるようだ。

 助けたからかすぐに懐かれたのは嬉しい誤算だな。


 ぽよんっぽよんっと喜びを表すように俺の回りを跳び跳ねるブルースライム。


 やけに感情豊かなスライムが仲間になったな。

 スライムってこんなに感情を露にする生き物だっけ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る