第5話、馬鹿をぶっ飛ばすのは常識だろ?

 転生してから3年。


 そろそろこの不便な肉体にも慣れてきた。


 不便なりに有効活用して両親が営む農業を手伝ったり弟妹達と遊んでやったりと毎日それなりに忙しい日々を送っている。


「今回は沢山収穫できたな!」


「持っていくのも一苦労だな」


 この時期にとれる野菜を収穫し終わり、税として3割領主に納めるべく父と共に領主の屋敷へと足を運んでいた。


 農作業を手伝ってるおかげか身体も鍛えられてるし、魔法を使うのに良い頃合いかな。


 産まれて間もない未熟すぎる身体で魔法を使おうとすると体内を巡る魔力が筋肉組織を破壊してしまい、最悪あの世だ。

 ある程度筋肉をつければ肉体と魔力が調和されて魔法が使えるようになるという寸法だ。


 未熟な身体でも魔力をそのまま体外に放出するだけならば然程問題はないが、複雑な術式を組み上げて魔力を注いで放つ魔法は肉体に負担がかかるからな。あまりオススメはしない。


 生まれながらに多い魔力を保有してる赤子だと何らかの条件が揃って無意識に魔法を放つこともあり、それで死亡するケースも稀にあったし。


 だがこの身体の感じなら魔法を使っても負担がかかることもないだろう。時間のあるときに試し打ちするか。


「なぁフィード。あっち、何か騒がしくないか?」


 取れたての野菜が目一杯入った籠を抱え直したとき、父が足を止めて少し先にある民家に目を向けた。


 同じ方向に顔を覗かせると、村人と何者かが相対して何かを言い合ってる雰囲気だったので二人揃ってそちらに足を運ぶ。


「またレアポーク男爵の馬鹿息子か……」


 思わず吹き出しそうになった。


 名は体を表すとはよく言ったものだ。

 村人と相対してるのは豚だった。


 人間に豚耳と尻尾が生えた獣人だが、なんとも丸いフォルム。球体に手足が生えた生き物だと言えば分かりやすいか。


 普段は温厚な父が嫌そうに顔を歪めている。珍しい。

 誰かを嫌うなんて絶対なさそうな父がこんな顔をするなんて、あの豚いったい何をやらかした?


「ギャハハッ!なんだそのちっぽけな魔法は?長ったらしい詠唱してその程度か!」


 豚が下品に笑い、村人を指差して馬鹿にする。村人は悔しげに歯を食い縛って羞恥心を押し殺してるようだ。

 村人が魔法を披露して豚がそれを笑ったといったところか。


 村人が見せたのは水魔法。

 小さな水球だが魔力が綺麗に流れている。緊張して力んだのか魔力を少し多く使ってしまったようだが、そこを削れば水魔法のお手本のような水球になるだろう。


 豚が馬鹿にする意味が分からない。


「見ろ、俺様の魔法を!ウォーター!」


 両手を突き出して出現させた魔法は村人と同じ水球。村人のよりも倍近く大きい、のだが。


「なんだあの粗悪な魔法は……」


 魔力の流れがおかしい。

 本来流さなくてはいけないところがスッカスカだし、流さなくていいところに無駄に魔力が注がれている。そのせいで水球の形が楕円だ。

 何より、村人より遥かに魔力を込めすぎている。

 あれじゃ暴発しても不思議じゃない。


「はぁ、また魔法自慢が始まったよ」


「自慢……だと?父よ、あの豚の魔法は自慢できるほど凄いのか?」


 信じられん。あんな見かけ倒しの魔法のどこに自信が持てるんだ。


「豚じゃなくてボール・フォン・レアポーク様ね。隣の領地の領主様の息子なんだけど、ここらじゃ名の知れた魔法使いだよ。今の水魔法見ただろ?あんな大きさの水球滅多に見れるもんじゃない。王都とかならもっとすごい魔法使いが沢山いるそうだけど、こんな田舎じゃまともに魔法を使える人はいないからね」


「なるほど。それで自慢がてら他の領地の人をいびってるって訳か」


 確かに村人とは多少なりとも交流はあったが、一度も魔法を使ったところは見ていない。

 我がメルティアス家でも魔法の話はしたことないし、辺鄙な土地じゃそれが当たり前なのかもしれん。


 なら魔法の知識がほとんどないのも頷ける。

 だからあんな大きいだけで魔力コントロールが全くできていない暴発寸前の魔法でも感心されてしまうのか。


「レアポーク男爵はとても厳しい方だからね。日頃の鬱憤を晴らすためだけにわざわざ父親の目の届かないところまで来てはああして自慢してるんだよ……って、フィード?」


 突然野菜の入った籠を地面に下ろし、偉そうにふんぞり返ってお粗末な魔法の自慢話をしている豚に近付く俺に父が慌てる。

 関わらせまいと嘴くちばしで俺を捕まえようとするより早く豚に気付かれた。


「お?何かと思えばノンバード族のひよこじゃないか。魔法を使えないのはおろか、飛べもしない底辺種族が俺様に近付くな」


 何かほざいてるが聞いてやるつもりは毛頭ない。


 しっしっとまるで野良猫でも追っ払う仕草をする豚に俺は迷いなど一切なく駆け出し、そして……


「ぶごぉぉっ!?」


 奴の横っ面に跳び蹴りしてやった。

 自分より何倍も大きな肉塊が数十メートルぶっ飛ぶ。


 ひよこが豚をぶっ飛ばした。


 豚にボロクソ言われていた村人と我が父は口をあんぐりしてるがそんなものは視界に入らない。


 あの豚が魔法使いだと名乗るのは我慢ならない。

 俺が本当の魔法ってもんを教えてやる。



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