第4話、俺の知ってる鶏と違う
この世界には3つの種族が存在する。
1つ目は人間。俺が前世で生を受けてたそれだ。
次に魔族。どこかの大陸に鳴りを潜めているらしく、この世界では見たことがないが人類に仇為す邪悪な存在だ。
この2つの種族は前世にもいた。というより人間と魔族しか存在してなかったと言うべきか。
当たり前っちゃあ当たり前だが、言語を話す鶏なんてどこを探しても見つからない。家畜にされる運命なのさ。
だが第2の人生を歩むこととなったフェイドスという世界では食用だけではなかったのだ。
3つ目の種族、獣人族に該当する。
獣人族とは人間とそうでない生き物がミックスしたような見た目だったり、人間とも魔族とも全く違う姿形をしてるものの総称。
前世同様この世界にも魔物はいるが、ただ暴れるだけで理性の欠片もないそいつらとは比較にならないほど温厚で、他種族と同じく言語を話す。
国や地域によっては獣人差別が根付いているが、幸いにも俺のいる国では人間も獣人も平等に、がモットーで厳しく管理されてるのであまり見かけない。
俺が住んでるのはエルヴィン王国最南端に位置するウルティア領。人口が200人にも満たない小さな農村だ。
美味しい空気と豊かな緑に囲まれた土地で、魔物がほとんど出現しないのどかな村。
少しばかり日常に刺激が足りない気もするがとても平和である。
「それにしてもフィードが産まれたときはびっくりしたわー」
「卵がいきなりパーンッ!て割れたと思ったら殻が粉砕してるんだもんなぁ。何事かと思ったよ」
「でも転生者なら納得よね」
この世界でも転生ガチャの存在は密かに知られている。
なので別の世界からの転生者だと打ち明けても両親は然程驚かなかった。
「俺は鶏が喋ってることに驚いたぞ。前世では獣人なんていなかったしな」
本当に驚いた。転生して最初に目にしたのが8頭身の鶏だったからな。
独特の鶏冠でギリギリ鶏だと悟ったが、一瞬鳥の魔物かと身構えたし。鶏だと理解した後は頭が混乱したもんだ。
なんで鶏の全長が細長くなってるんだとか、なんで鶏が喋ってるんだとか。俺の知ってる鶏と大分違っててツッコミしかなかった。
通常の鶏は約4ヶ月で成鶏となるが獣人は人間と同じく15年で大人になるらしい。成長度合いがあまりに違いすぎて己の耳を疑ったが事実だ。
「獣人はイヤか?」
「全然。少し動きづらいだけだ」
「ははっ!そうか」
「弟妹達も可愛くて仕方ないしな」
「兄馬鹿全開だなぁ」
前世では兄弟がいなかったから余計に拍車がかかってるんだろう。自覚はしてる。
「貴方ー、お皿出してー」
「はいはーい」
母のご指名で席を立つ父。
8頭身の身体だが足は数センチ程度なので座席は低い。テーブルも低め。まだまだ子供の俺ら兄弟だと少し高く感じるけどな。
晩飯の匂いにつられて弟妹達が集まってくる。
「いーにおいー!」
「おなかすいたー!」
「あ、サラダもーらいっ」
「こら、つまみ食いするな。ちゃんと座っていい子にしてないとご飯抜きだぞ」
ご飯抜きという言葉に強く反応した弟妹達はおとなしく席に着く。欲に忠実なお年頃なのだ。
家族全員席に着いてから食べ始めるが、隣に座る弟一号が何気なく投げ掛けてきた問いに喉を詰まらせそうになった。
「なんでにいにはひよこさんのままなのー?」
「ん゛っ」
純粋な疑問の眼差しをぶつけてきた弟一号につられて「そういえば……」と思い出したように俺へと集中する視線。
両親には説明済みなので苦笑いされるだけだったが。
俺と同じレモン色の弟妹達。だが体格は俺より一回りか二回りほど大きい。もうひよこと呼べる身体つきではなく、少し成長して小びなになっている。
獣人鶏は産まれて1年はひよこ、2年目からは小びな、5年目からは中びな、10年目からは大びな、そして15才になると成鶏……獣人だから成人?という具合に成長する。
だが俺が転生したのは成長しないひよこ。
立派に育っていく弟妹達を指を咥えて見てることしかできない。
共に成長して大人になることができないのだ。
ありのままを話してもいいが、転生ガチャの存在を知らないこの子達に伝わるかどうか……
結局その場では誤魔化して終わった。
いつか話せるときが来たら話そう。
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