第3話、フィード・メルティアス
「フィード!草むしり手伝ってくれ!」
「父よ。それは雑草ではない。母が植えたハーブだ」
「はっはっは!雑草とハーブは見分けがつかんな!」
「父よ。至極簡単に見分けれるのにその言い草はないぞ」
「はっはっは!わが息子は手厳しい!」
俺はフィード・メルティアス。
転生者だ。
農家を営む家に生まれ、祖父母と両親と沢山の兄弟に囲まれながら育ってきた健全な男児である。
弟妹達にもみくちゃにされることも多々あれど、両親や祖父母にちょっとした頼み事を任されることも多々あれど、それなりに慎ましやかに生きている。
白い胴体にワインレッドの鶏冠とさかが特徴的な両親と、老いを感じるくすんだ赤茶色の鶏冠を持つ祖父母。
そして俺と同じ全体的にレモン色の目に入れても痛くないほど可愛い弟妹達。
前世では家族なんていなかったからとても賑やかだ。
ただし、普通の農家とは違う。
前世なら白髪混じりの爺さん婆さんがしわくちゃの顔で優しく笑って農作業に勤しんでいるのが通例だった。腰をトントン叩いてるのもちらほら見かけたのでさぞ腰を痛めていたことだろう。
だが今目の前で繰り広げられているのは鶏が小さな嘴を使って雑草を引っこ抜いている光景だ。危うくハーブを引っこ抜きそうになってたが。
「フィード!ハーブ引っこ抜きそうになったこと、母さんには内緒な?」
草むしりをしていた父鶏がこちらを振り返る。
別に構わないが、内緒にするまでもなく手遅れだぞ。
「あ、な、た~?」
すぐそこで飛べない羽根てを使って器用に洗濯物を持った母がワインレッドの鶏冠で怒りを表してるからな。
ちなみに洗濯物を干す場所はこの農地のすぐ近くにある。
今は朝だ。母が洗濯しててもおかしくない時間だ。
バレるのも致し方なし。
「何度言ったら分かるのよー!ハーブと雑草間違えないで!次間違えたらご飯抜きですからねっ!」
案の定母の雷が落ちた。
「そ、そんなっ……!?元はと言えばお前が農地にハーブを植えたのが悪いんだろ!?」
「植える予定だった菜園に花壇と間違えて花をしこたま植えたのは誰だったかしら?」
「うぐっ……それは……」
母、強し。
家庭内の最大権力者はどこの世界でもどんな種族でも変わらないようだ。
とはいえ、父も悪気があった訳ではない。何度目か分からないほどしょっちゅう同じ失敗を繰り返すが、決して悪気がある訳ではないのだ。
「母よ。洗濯物は干しておくから弟妹達の勉強を見てやってくれ。父よ。友人と約束があったのではなかったか?」
ここはひとつ助け船を出そう。
母はころっと表情を変えて「ありがとねフィード。じゃあお願いするわー」と洗濯物を俺に渡して家の中に入っていき、父は約束なんてあったっけ?と首を傾げた。
「父よ。これに懲りたらもう間違えないようにしてくれ」
「……!分かった。恩に着る!」
俺の助け船だと分かるや否や、羽根を思いっきり広げて抱き着いてきた。苦しい。
「にいにー!」
「兄貴ーっ」
「に、兄さんっ……」
父の抱擁から抜け出した直後、家から複数の声が聞こえてきてそちらに顔を向ける。
小さくて丸っこいレモン色の天使達が俺の元にとてててっと駆け寄ってきた。
「にいにー遊ぼ!遊ぼ!」
「勉強飽きた!遊ぼうよー兄貴!」
「母さん厳しいからやだよぉ……兄さんが勉強教えてよぉ」
「すまん。今手が離せないから後でな。母の地獄トレーニングを耐えたら沢山遊んでやる」
「「「やったぁー!」」」
きゃっきゃとはしゃいでくるくる踊るひよこ達。マジ天使。
母の天誅が下らないうちにと家へと戻らせ、母への詫びの品を買いに行く父を見送り、洗濯物を干しに行った。
転生してから早2年。
このように賑やかな生活が続いている。
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