第14話 地ブリ美術館へ

「お前たち、急がば回れという言葉を知っているか?」

 稲荷いなり博士はゆっくりと椅子から立ち上がり四人の心を探るようにおもむろに問いかけた。

「知っています! 急いでいるときは回るべきだ、という意味です」

 キティ坊が咄嗟とっさに答えた。

「そのまんまだな。まあいい、そんなような意味だろう。たぶん。そう思う」

 博士は研究室の窓を開けながらそう答えた。

 突然の外気が研究室を冷やす。窓からは静かに眠っているように広がる大海原が見えた。

危急ききゅうに際して慌てる者は必ず失敗をする。この多摩の浦がそう教えているようじゃないか、先ずは落ち着くことだと。判るな」

「はい、先生!」

 キティ坊が元気に答えた。

「ここは少し頭を冷やして落ち着いて対策を考えよう」

 博士は、先を急ごうと空回りする四人をさとすように告げ、多摩の浦を指さした。


 三鷹、井の頭池の淡水を飲み込んで止まない多摩の浦はブリの漁場として東は吉祥寺から西は三鷹にいたるほぼ世界中で知られている。フランスとかブラジルとか遠方では驚くほどの高値が付く。しかし地元の魚屋では新鮮なブリが比較的安価に手に入る。

 郷土の誇りでもある地元のブリを記念し「地ブリ美術館」が建てられてもう数十年になる。まれに上がるマグロをモチーフにしたというかほぼマグロそのままのキャラクター「トロロ」も世界的な人気を博していた。

「ゆっくり絵画でも観ながら考えようじゃないか」

 博士は四人を促すように言った。

 モグラのはったんとフランキー・バオバオ、そしてアンパン兄ちゃんとキティ坊は変態物理学教授である稲荷博士に連れられ「地ブリ美術館」へと向かった。



(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球全体会議-もっこ25 しお部 @nishio240

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ