第11話 初詣ーいらっしゃい2021イン八幡様

「玉やー!」

 無数に咲き乱れる花火を見上げ歓声を張り上げるバオバオに近づきながらはったんが言った。

「火薬だ。ぜんぶ火薬だ」

「火薬? ラーメンじゃないのか」

「火薬だ。そんなもん喰ったら飛ぶに決まっているだろう。違う意味でも跳ぶだろ。またニッキーねずみたちの仕業だ。なんとかして地球全体会議を阻止しようとたくらんでいるようだな」

「またニッキーたちか!」

 バオバオは一瞬青ざめたがすぐに血の気を取り戻し、カップに残ったラーメンのスープを飲み干した。

「その汁、仙川の水だぞ。温めただけだ。ザリガニ一匹いないだろ」

「でも、どうして俺には毒が効かな・・・」

「宇宙にいたからだ」

 間髪入れずはったんは答え、ステージに散らばった賽銭さいせんを集めた。


 そのとき夜空に大きく咲いた地面三郎じめんさぶろうが燃えカスになって落ちてきたが、枯れてしなびた花なんぞに用はないと、はったんは三郎をステージから蹴落として、次の予定を話し始めた。

「夜が明けるまでに八幡様に行ってくれ。時間がない。自転車で急いでくれ」

「分かった」

 駐輪場に向い駆け出すバオバオに向ってはったんが言う。

「今度は気をつけろよ。また必ずニッキーたちが現われるだろう」

「大丈夫だ。捕まえてやる!」

 バオバオは落ちてきた花火の燃えカスがくすぶる会場を、火傷しないように、地ベタに倒れ込む住職等を上手いこと踏みながら、駐輪場に向った。



 元旦の八幡様に、一体何を求めて寒いなか列を作ってまで、神殿に賽銭を投げつけに多くのひとが来るのかバオバオにはさっぱり理解できないが、そんなことはどうでもいい。主賓しゅひんである。


「あっ、バオバオだ。宇宙から帰還した副議長のバオバオだ」

 バオバオの姿を見つけると参拝者はこぞって歓迎の声をあげた。

「いらっしゃい。バオバオです」

 それはそれは誇らしげに神殿に向い境内を闊歩かっぽした。段取りが分かっていないがあっちがステージだろうとそっちに向って進んだ。少しは知恵もついていたのでどこかにニッキーたちが隠れてはいないかとまわりの様子も抜かりなく窺いながら歩いた。

「さすが八幡様だ、人がたくさんいるな」

 バオバオはご満悦である。

「本日の「初詣―いらっしゃい2021イン八幡様」にご出演のフランキーさまでしょうか?」

 白と黒の衣裳に身を包んだねずみのような巫女みこさんが声を掛ける。

「仰るとおり、フランキー・バオバオで御座います。お世話になります」

 見よう見まねで手を不思議な形に合わせて深々と頭を下げる。

「こちらへどうぞ。ここが出演者控室になります」

「はい、分かりました」とバオバオは胸を張り控室に入った。


 控室には共演予定であるさすらいの演歌歌手、ロック界のスイッチヒッター、歌謡界の盗塁王こと地面三郎じめんさぶろうさんがすでに到着し椅子に倒れないようくくり付けられていた。

「地面先生、またお会いしましたね」

 バオバオがそう声を掛けた瞬間であった。轟音ごうおんが響き控室ごと空高く飛んだ。境内を歩く際に参拝者からくすねた財布とかあれとかは散らばったが、バオバオは、必死に柱にしがみつく地面を張り倒して蹴落とし、空いた隙間にしがみつき無事難を逃れた。

 控室は真っ直ぐに井の頭公園に向って飛んでいった。





(つづく)


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