第10話 鐘つき大会―さようなら2020イン深大寺
この状況では「地球全体会議―もっこ25」を延期、さらには最悪中止もやむを得なくなる。井の頭公園にある本部で、議長のはったんと副議長になったばかりのバオバオは、元々思いつくという能力すらない分けだが、思案を巡らせていた。しかし打つ手が浮かばない。またいつニッキーたちが襲ってくるか分からないのだ。
同時に地球最大の危機「もっこ」も迫っている。なんとしてでも会議を開催し対応を決めなければならない。
「まさか仙川の水を市民に飲ますとは思わなかったな」
「でも、どうして俺には毒が効かなかったんだろうね」
「宇宙にいたからだろう」
はったんは答えながらスケジュール調整をしていた。
「今日は大晦日だぞ、バオバオ。餅ついて
「そうだな。でも餅はもう遅いな」
「餅はどこかでパクればいいが、「鐘つき大会―さようなら2020イン深大寺」に呼ばれてるんだ。元旦には八幡様が呼んでいる。少し
モグラなので首がどこだか定かではないが、今日まで首がある
「こんどは、ちゃんとブレーキが
バオバオはNASAが高度に改良したハンドルを、セメダインと仙川の水とその他なんやかやで混ぜ合わせた強力接着剤でくっつけた最新式の自転車に乗り急いで深大寺に向った。
「賽銭もくすねなきゃ」
バオバオは風を切って走った。
深大寺にはすでに多くの参拝客が集っていた。
「みなさん、本日夜から毎年恒例の大晦日フェスティバルが行なわれます。今年はスペシャルゲストに、郷土が生んだお猿のなかのお猿、フランキー・バオバオさんが登場致します。シークレットゲストも登場致します」
境内にアナウンサーの声が響く。
「郷土といっても、深大寺は三鷹じゃなくてほとんど調布だぞ。まあいいか。似たようなもんだ」
バオバオは自転車を駐輪場に止め、しっかりと鍵を掛けて会場へと向った。
すでに鐘つきは始まっていた。除夜の鐘だ。
特設ステージには住職、副住職、近所のソバ屋やら、なんやら分けのわからない人たちがスタンバイしている。鐘は次々につかれてゆく。いよいよカウントダウンだ。今年はもちろんバオバオの役目である。
「3、2、1! おめでとうございまーす!」
バオバオが叫ぶ。参拝者の歓声が上がる。
「バオバオ、ありがとう」
「おめでとう、バオバオ」
大きく手を振ったため、来る途中でくすねた賽銭はビニール袋から飛び散ったが、バオバオは満面の笑顔だ。
「それではみなさんお待たせのシークレットゲストの登場です。紅白歌合戦の会場から駆けつけて参りました。東は吉祥寺から西は三鷹まで全国を旅して回る演歌サイボーグ、歌謡界の盗塁王、お馴染み
ステージに
「遠い故郷を思い作りました。夏の午後、母と歩いた
「グッバイ、思いで~ 春の田んぼの、しりこ~だ~まー
河童の村山く~ん、駅舎の落書き、しりこ~だ~まー
なつかし多摩の浦、アメンボ遊ぶ、し・・・」
地面三郎がステージで這って歌うなか、白と黒の服装に身を包んだねずみのような寺の小僧たちが、フェスティバルの出演者のみならず参拝者たちにも湯気の立つ温かい食事を配っている。
「やっぱりソバかな?」
バオバオはそう思いながらカップを受け取って聞いた。
「これはソバですか?」
小僧が答える。
「いいえ。ご当地で人気の「三鷹三番くそラーメン」です」
「ラーメンか。まあいいや」
バオバオは、今日何も口にしていなかったことを思い出しながら、ラーメンを一気に吸い込んだ。
「ふぅ、やはり寒いときには温かいラーメンが一番ですね」
バオバオは隣りにいるはずの住職に話しかけた。
「あっ、誰もいない!」
誰もいないのである。ラーメンを口にした途端、ロケットのように皆、大晦日の夜空に舞い上がり花火のように咲いていたのである。
もちろん一番大きくそして美しく咲いていたのは、新年の到来を祝う地面三郎であった。
(つづく)
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