第12話 アンパン兄ちゃんとキティ坊

 空高く飛び上がった控室は真っぐ、実に真っ直ぐもの凄いスピードで井の頭公園に向かっていた。柱にしがみついたバオバオは遠くに、害しかないようなスモッグにかすむ高尾の山々とよどみに沈む八王子の街を眺めながら飛んでいた。

「新年の東京だ!」

 そう呟いた瞬間、控室は実に上手いこと井の頭公園にある本部のバラックにぶち当たった。

「なにするんだ!」

 控室の下敷したじきになりつぶれたバラックからはったんが顔を出した。

「いま戻りました」

 バオバオが他に言う言葉もなくそう言うと、木っ端微塵になったバラックからはったんが見知らぬ生き物を連つれてい出てきた。

「バオバオ、ご苦労だったな」

万事ばんじ、上手くいきました」

 元気にそう答えるが見知らぬ生き物が気になって仕方がない。

「彼らは我々の仲間だ。アンパン兄ちゃんとキティ坊だ。よろしくな」

 まさに彼らこそがかつて西は三鷹から東は吉祥寺まで、その名をとどろかせた世界を代表する兄妹きょうだい、アンパン兄ちゃんとキティ坊だったのである。


 アンパン兄ちゃんとキティ坊は言わずと知れたニッキーねずみの天敵である。犬猿の仲である。以前には何度か西東京ディズニーランドに襲撃をかけたが見事に返り討ちにあっていた。


 かつてこの兄妹が子どもたちの人気を独占していたことがあった。

 しかしアンパン兄ちゃんとキティ坊の人気独占に待ったをかけたのが他でもないニッキーたちだった。彼らは公正取引委員会に二人が「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」に違反していると訴えた。このままアンパン兄ちゃんたちの独占的な人気が続くと公正かつ自由な競争が阻害そがいされ、市場メカニズムが正しく機能しないと泣いて訴えたのだった。その涙にほだされて委員会のメンバーは公正さなど何処どこへやら情に流されるまま、アンパン兄ちゃんとキティ坊の本拠地、ピューロランドを叩き壊し更地さらちにしてニッキーたちに与えてしまったのだった。そこに建てられたのが西東京ディズニーランドだったことは周知の事実であろう。代わりにこの兄妹に与えられたのは多摩の山の中、何県に属すかも定かでない原っぱであった。そこにこの幼い兄妹はたった二人で重機もなくスコップだけで新しくランドらしきものを建設したが、如何いかんせんタヌキの親子が日に二度、三度通るだけの多摩の山奥である。人など来る分けがない。どだいたどり着けないのだ。何人かは向かったという話しは聞くが、帰ってきたという話しは一切聞いたことがない。そういうことだ。


 アンパン兄ちゃんとキティ坊は、なんとしてでも先祖代々受け継いできた西東京の土地を取り戻さなければ、死んでも死にきれない。そんなこんなで同じくニッキーたちと対立するはったんと手を組みいまここにいるのであった。




(つづく)


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