第7話 武器屋バスス
冒険者ギルドからの帰り道、自分のギルドカードを見ながらニヤニヤしてしまう。
控えめに言ってもショートケーキの海にダイブするくらい嬉しい。
僕は冒険者になれたんだ。ひゃっふ〜。
ショートケーキっていう食べ物は、伝説の勇者様が考えたデザートなんだって。贅沢な食材を惜しげも無く使うらしいけど、一度は食べてみたいと思っていたんだ。
勇者様は今も色んな食べ物を作り出していて、流行の最先端にいるんだってさ。
強くて物知りで凄い人。いつか会ってみたいけど、王宮に住んでるから普通の人じゃ会えないらしい。
前方不注意な程にカードに夢中になっちゃっているけど大丈夫! 気配察知スキルがあるから安心だ。カードを両手で掲げてクルクル回りながら人混みを楽に回避して行く。
これが冒険者になった証なんだもんね。帰ったら皆に自慢しようかな? でも、まだGランクだからやめとこう。せめてAランクくらいにならないと、父様と母様に笑われちゃうかもしれない。
よし。まずは地道にランク上げだね。
何事も積み重ねが大事。スキル習得に比べれば、ランクを上げるなんて簡単さ! きっとね!
「ふふふ〜♪ にゅんにゅ〜ん♪ ふふふのふ〜♪」
自分でも思う。ちょっとテンションがおかしい。沢山頑張ったんだから、今だけは許して下さい。
それに僕はあまり町中には来たことがない。今まで用がなかっただけなんだけど、来てみると露店が沢山出ていて楽しいな。
今日は冒険者ギルドに行くために、朝の訓練時間を少なくしていた。勿論分割思考に余裕がある限り、全て魔法のイメージ練習を続けているんだけどね。
ふと視界の隅に気になる文字が横切った。
「武器屋バスス?」
武器屋⋯⋯気になるよね。ちょっと見てみようかな。
武器屋バススの入口の横に、武器の飾られたショーウィンドウがあった。お金が1ゴールドも無いので、中に入るのは遠慮しておきましょう。
「うわあ。凄いな〜」
う〜ん。色んな意味で凄いよ。
そこに飾られてあったのは、装飾華美な武器であった。細かい細工が美しく、無駄に宝石があしらってある。
見た目重視なのかと思ったら、そうでもないのかな? 毎日剣を振っているからわかるけど、この装飾が邪魔になったりはしなさそうだ。
じっくりと剣を観察する。ショーウィンドウが綺麗で助かったよ。だって顔がガラスにへばりついちゃってるんだもの。汚しちゃってごめんなさい。
こんなに豪華な見た目だと、伝説の剣みたいで憧れる。かっこいい剣は男のロマンだからしょうがないよね。
値段は⋯⋯ゼロが沢山ある。数えるのも面倒なくらい⋯⋯そんなロマンいらない。
ショーウィンドウの奥に見える店内に、この店の主人と思われる人物が僕を見下ろしていた。
その顔は苦笑いだ。剣に夢中で全然気がつかなかったよ。
張りついた顔を引き剥がし、慌てて居住まいを正す。
恥ずかしいところを見られちゃったね。ちょっと頭を下げておこう。
──ゴツン。
痛い! ガラスあるの忘れてた!
ぶつけたおデコをさすっていると、店主がウィンドウ越しに手招きしてきた。
呼ばれたなら行くしかないよね? 恐縮ながらもお店の扉を開く。好奇心は沢山あるのに、お金が無いのが申し訳ない。
店内に入ると、天井がとても高いことに驚いた。二階建てだと思っていたら、中は吹き抜けになっていたらしい。
剣の他にも様々な武器が所狭しと並んでいる。馬鹿みたいに大きな両手斧や、兵士さんが使う対人用の銃剣などもあるようだ。
「らっしゃい」
「こ、こんにちは。僕はアークって言います」
「ほほぅ。ちゃんと挨拶が出来るんじゃな。バススだ。よろしくな」
挨拶はしっかりするのは当たり前だよ。でも褒められたら少し嬉しい。
「ありゃあ貴族のボンクラに売るような剣でよ、お前さんが見るようなもんじゃねぇよ」
「えと⋯⋯でも、しっかりとした造りの剣に見えました! 装飾も邪魔にならないところについてるし、刀身も頑丈そうで綺麗です!」
「わ、わかるのか!?」
バススさんは目を見開いて僕を見た。とても驚いてるように見えたけど、僕だって剣術の心得くらいあるのだ。
「これでも冒険者ですから!」
「はっはっは! 冗談はよせ。こんな子供が冒険者だなんて誰も信じちゃくれねえよ」
じょ、冗談じゃないんだけど?
僕は大事な大事な超大事な冒険者カードを取り出した。それをバススさんに見せると、笑顔だった顔が驚愕のものに変わる。
「は!? うぇ! これ、本物じゃねえか!」
「そうですよ?」
「どういうこった! 試験はどうしたんだ!?」
「ちゃんと合格しましたよ?」
「ま、マジか〜⋯⋯信じらんねえ⋯⋯でもこのカードは偽装できんしな」
「偽装なんてしませんよ〜。冒険者は僕の夢ですから!」
「はぁ⋯⋯驚いた。学校入学前に冒険者になるだけでも凄い事なのに、しかも四歳って⋯⋯アホ試験管が油断して負けたんかねぇ」
ギルドカードには個人情報が書いてある。ステータスや魂魄レベルは非公開に出来るので、普段は見えないようにしろってキジャさんから言われたのだ。
「勝ってはいません。油断も手加減もされていました。ナイフを当てることは出来ましたが、それも偶然の重なった奇跡みたいなものです」
「まぐれ当たりも実力よ。油断してたとは言えな! 相手はどんなアホだったんだ?」
「キジャさんです」
「ギルドマスターじゃねーか!!!」
バススさんが何故か頭を抱えて蹲る。そして小さな声で「俺⋯⋯疲れてるんかな?」とか、「夢なら覚めろ」とか聞こえてきた。
バススさんが現実逃避している間に、店内をちょっと見させてもらいますね!
メイン武器は今のところ片手直剣だから、一応その相場だけでも知っておかなきゃだよね。
んー、普通の鉄の剣は200〜800ゴールド、鋼鉄の剣が3000ゴールド前後⋯⋯ミスリル合金の剣が8000ゴールド!?
ここまではまだいい。でもここから一気に値段が跳ね上がった。それに盗難防止のために、結界魔術が使われているようだ。
「純ミスリル片手直剣⋯⋯50万ゴールド⋯⋯ハイミスリルの剣は在庫無し⋯⋯C級魔剣“デビルイーター”が60万ゴールド⋯⋯B級魔剣“ストームグラディウス”、130万ゴールド⋯⋯」
これは現実? 夢なら覚めて。
流石にこれ以上の剣は取り扱っていないっぽい。S級の魔剣とか売りに出したら幾らくらいするんだろうね。笑っちゃうよね。
「す、すまねえな。ちょっと意識が遥か高みへ登っていたようだ」
「そこへ行くのは早いですよ! 人のこと言えませんが⋯⋯」
「まったく呆れるぜ。キジャにナイフを当てたとか意味わからねえよ」
バススさんは頭をガリガリと掻く。そしてニヤリと笑った。
「お前さんはいつか上客になりそうだな」
「お金稼げるようになったらまた来ますね」
「ああ、それなんだがよ⋯⋯」
バススさんが片膝をついて耳元に寄ってくる。
内緒話かな? わくわくしちゃうね。
「息子の友達になってくれねえか?」
「ぅえ? 友達ですか?」
「ああ、とても可哀想なやつなんだ。同年代の友達が一人もいなくてよ⋯⋯」
あれ? なんだろう。僕の胸にも今の言葉が突き刺さったぞ?
「俺はドワーフと人間のハーフなんだが、妻が巨人と人間のハーフでよ⋯⋯息子はまだ四歳なんだが、既に身長が180超えてんだ。だから公園で友達を作ろうと思っても、不審者と間違われちまうことが何度かあった⋯⋯傷つきやすいやつでな、色々あってすっかり引きこもっちまったんだよ」
むむ⋯⋯それは可哀想だ。
バススさんも困ってるみたいだし、僕に何かが出来るなら手伝ってあげたいかな。
「わかりました! 僕が息子さんを立派な戦士にしましょう!」
「いや、友達になってくれればいいんじゃが⋯⋯」
よし! そうと決まれば⋯⋯って、今日は予定があるんだった。
「今日はちょっと忙しいのでまた明日来ます」
「ああ、ありがとうよ。気をつけて帰んな」
「はい。ではまた来ます」
さあ、早く帰らないと昼食に遅れちゃううぅ!
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