第4話 四歳児、冒険者登録をします。




 訓練を開始してから1年半が過ぎました。あっという間だったけど、毎日本当に辛かったなぁ⋯⋯四歳半になり、僕もそろそろ動かなくちゃって思っています。


 四歳といえば、父様が騎士にならないか? と、国王様から直接声をかけられた年齢です。母様は四歳の頃には町一番の魔法使いだったらしいんだ。

 僕も結構頑張ってるとは思うんだけど、正直まだまだ平凡だね⋯⋯父様と母様に追いつくためにも、もっともっと頑張らなくちゃ!


 最近では訓練も辛いと思わなくなってきたんだ。辛くても、やればやるだけ力になっていると感じる事が出来るからね。


 そうです! 僕はスキルを授かりました!


 最初に覚えたスキルは“初級体術”でした。これは訓練するのに道具も要らず、何時でも何処でも気軽に練習出来たからだと思う。


 今の僕のスキルは⋯⋯


 武術系スキル


 初級剣術レベル2

 剣技“パワースラッシュ”

 初級短剣術レベル2

 短剣技“クイックシャドウ”

 初級体術レベル3

 体技“二段跳び”、“岩砕脚”

 初級弓術レベル1



 魔法系スキル


 生活魔法レベル1

 “クリーンウォッシュ”

 火魔法レベル1

 “ファイアバレット”

 水魔法レベル1

 “バブルボム”


 補助スキル


 魔力感知レベル3、魔力操作レベル3、魔力消費軽減レベル2、探索レベル2、気配察知レベル2、尾行レベル2、隠密レベル2、悪路走行レベル2、荷運びレベル2、忍耐レベル3、苦痛耐性レベル1、礼儀作法レベル3、暗視レベル1、自然回復力向上レベル3、敏捷強化レベル3、筋力増強レベル2、分割思考レベル3、投擲レベル2、料理レベル1


 ユニークスキル


 恩恵の手引書


 称号


 猫の天敵



 やっとここまできた⋯⋯かな? でもやっぱりまだまだだね⋯⋯父様が五歳の時には、だいたいの魔獣が指先一つでイチコロだったらしいし、母様が五歳の頃には火炎魔法を欠伸をするように放ってたらしいからね。

 あと半年で僕も五歳なんだけど、二人のように本当に強くなれるのかな?


 そのうち父様と母様のお話を紙にまとめておこうと思います。


 スキルの解説をさせてもらうと、パワースラッシュは剣術の技です。見た目は普通の袈裟斬りなんだけど、威力が全然違う不思議。


 クイックシャドウは短剣技で、高度な幻のフェイントを見せる技なんだ。上手く使えばかなり強いと思う。


 二段跳びは体術スキル。空中でもう一度ジャンプが出来るんだ。


 岩砕脚は岩を砕くような胴回し蹴りを放てる技なんだけど、地力が低過ぎて木も倒せない。でも足形が残せるくらいの威力はあるよ。


 弓術はまだ技を覚えていません。要練習です!


 ファイアバレットは火魔法レベル1の魔法なんだ。指先から弾丸のような火を放つ事が出来るの。

 でも使い勝手は良いのに威力は弱い。僕の魔力が弱いせいなのかもしれないけど、今は木の表面が少し焦げる程度なんだ。


 バブルボムは水魔法レベル1。泡の球体を飛ばすんだけど、その飛翔速度は走るよりも遅い。正面から放たれれば、簡単に避ける事が出来ちゃうんだよね。

 威力はそこそこあるみたいで、指で触ってみたら爆発して痛かった。しばらく手が麻痺するくらいの衝撃だったよ。


 いつも効率を重視して訓練をしていました。何かをしながら何かをする⋯⋯そんな毎日を過ごしていたら、偶然にも分割思考のスキルを手に入れちゃったんだ。


 これにより、魔力感知をしながら魔力操作をして、ついでに火の魔法をイメージしたりしながら体術を練習したりなど。訓練スピードが劇的に上がった。


 魔力操作の裏技的な使い方も出来るようになって、本当に分割思考のスキルには助けられています。


 これからは今までの訓練も継続しつつ、実戦で学んでいかなければならないと思うんだ。回避スキルとか、危機感知スキルとかも覚えたいんだよね。それは一人じゃ出来ないんだよ。


 初級のスキルは一般人でも持っている人が多いです。取得難易度も低いから、普通に戦ったんじゃ通用しないんだ。でもそれをカバーするように、広く浅くだけど全体的に鍛えました。


 中級クラスのスキルを覚えれば、そこそこ通用するようにはなるよね。でもそんなに直ぐ成長するわけじゃない⋯⋯はぁ。目標が遠いです⋯⋯父様、母様。


 デブ猫のクレアちゃんはしっかり痩せました。その代わりに変な称号がついちゃったよ⋯⋯僕、猫大好きなのに。





 と言うわけで、やって来ました冒険者ギルド。父様や母様みたいになれるように、そろそろ僕も大人? の仲間入りです。

 父様は三歳の時に、冒険者ギルドを肩で風を切るように歩いていたんだって。僕、ちょっと出遅れちゃったよね⋯⋯弱いから仕方ないんだけどさ。


 冒険者ギルドは二階建ての大きな建物だった。敷地面積がとても広くて、中がどうなっているのか気になるところ。


 領主様の治めるこの町は、治安が良くて住みやすい。田舎で何も無いけどね。名産品も何も無いけれど、貧富の差も激しくはない。

 この町にとって、この冒険者ギルドは大きいほうの建物だと思う。


「初! 冒険者ギルド! ワクワクする!」


 ニコニコしながらギルドの扉に手をかけると、人が出てくる気配を察知してすぐに脇へ避けた。

 長身でガタイのいいお兄さんや、威厳のある顔のお爺さん魔法使いにスラッとした綺麗なエルフの女性が出てくる。

 皆とっても強そうだね。三人パーティーなのかな? でも、父様の指先には敵わないだろうけど。


 ふんすっ! と気合いを入れて、入れ替わるように冒険者ギルドの扉を押した。


 中は少し薄暗くて、タバコの煙が目に染みる。

 咳き込むのを我慢しながらギルドの中を見渡すと、右に木のテーブルがいくつもあり、その奥には依頼書の貼ってある掲示板があった。

 正面には受け付けの窓口が並んでいて、左には二階へ続く階段と大きな扉が一つある。


 キョロキョロと中を見回していたら、何故か僕に視線が集中している事に気がついた。何でそんなに見てくるのかわからないけど、注目されると落ち着かないよ? 少しソワソワしちゃうな。


 とりあえず受け付けの人に声をかけてみよう。


「すいません」


 声をかけながら手を上げてみたんだけど、何故か一瞥された後に無視をされた。

 僕の声が小さかったのかな? 首を傾げていると、後ろから笑い声が聞こえてくる。


「がはははは! ここは保育所じゃねーぞ」

「子連れの冒険者でもいたのか? 面白ぇな!」

「餓鬼はミルクでも飲んでろよ! ハッハッハッハ!」


 あの人達は、僕の先輩になる冒険者さん達だ。とてもニコニコして楽しそうにしている。

 話しかけてくれた御礼は言わなければいけないよ。


「ありがとうございます!」


 僕がそう言うと、何故か冒険者さん達はキョトンとした顔になった。御礼が出来ない子供じゃないんですよ。ふふふ。

 すぐに受け付けへ向き直り、大きく右手を上げる。


「ミルク下さい!」


「⋯⋯ねぇよ。ここは酒場のカウンターだ」


 あれ? おかしいな。でも無いんじゃ仕方ないよね。冒険者さん達に向き直り、ミルクを奢ってくれようとした人を見上げた。


「ミルク無いみたいです。また次の機会に奢って下さい」


 頭を下げると、ミルクのおじさんは呆けた顔で口を半開きにする。


 さてと、ここは酒場のカウンターらしいから、冒険者登録の受け付けはどこだろう?


「お、おい、子供過ぎて皮肉が通じなかったぞ!」

「まじで、なんであんなのがいるんだ?」

「迷子かなんかか?」


 小さな声でコソコソ話す冒険者さん達。僕も訓練で忙しいから、早く受け付けで冒険者登録しないとね。


 違う受け付けに行くと、そこには綺麗なお姉さんが立っていた。何故か苦笑いしながら僕を見つめている。


「すいません。冒険者登録したいのですが」


「えっ! こんなに小さくて冒険者登録出来るわけないでしょ? 坊やは何歳なのかな〜?」


 それは初耳だ! 父様は三歳より前から冒険者だったのに!


 あ、もしかしたら? 僕は二歳くらいに間違われているのかもしれない。確かに二歳は子供だもんね。でも僕はその倍は生きてきてるんだ。二歳から見れば立派な大人だよ?

 もし勘違いしているのだとすれば、四歳って聞いてびっくりするかもしれない。でもここはしっかり真実を伝えるべきだ。


 右手の指を四本立ててお姉さんに見せる。ちょっとドヤ顔しちゃったのは秘密だからね。


「うん! そうよね! 四歳くらいよね! 長命種には見えないもの」


 あれ? じゃあ何が駄目なのかな?


 首を傾げていると、お姉さんが眉根に皺を作る。もしかして怒ってるのかなぁ? 怖いなぁ。


「冒険者ギルドはね、学校を卒業してから入る子が殆(ほとん)どなのよ。だいたい十六歳くらいからね。十二歳以下での冒険者登録は、孤児を除き保護者の許可書が必要になるわ。それに試験もあるから無理よ? 十五歳でも試験に落ちる子はいっぱいいるんだから」


 そう言いながら許可書の紙を手渡してくれた。今聞いた説明だと、これに保護者からのサインをもらってくれば良いんだね。

 一応しっかりと対応はしてくれるみたいだ。


「僕は冒険者になりたいんです」


「まず親が許可しないと思うけど、やめておきなさい。試験は模擬戦なのよ? 刃引きの武器を使うけど、当たり所が悪ければ死ぬ事もあるのよ」




 その言葉に僕は衝撃を受けた⋯⋯


 死ぬかもしれない?


 死んじゃうって? わからない⋯⋯何でいきなりそんなこと言うの? 怖いよ⋯⋯父様や母様にも会えなくなっちゃうの? わけがわからないよ⋯⋯


「怪我じゃ済まないんだから。試験は真剣勝負なのよ。わかったら帰りなさい」



 体が震えるのがわかる。死を考えたのは初めてだったから⋯⋯イメージしたのは暗い海の底。誰も居ない何も見えない暗闇の冷たい空間だった。


 死ぬかもしれないって言われて、僕は身動き一つ取れなくなっちゃったんだ。


 なんで? 僕はやっぱり父様みたいになれないのかな? こんなに⋯⋯こんなに頑張ってるのに⋯⋯悔しい⋯⋯悔しいよ⋯⋯やだよ、嫌だよ⋯⋯


「うぅ⋯⋯」


 怖くて、悔しくて、涙が出てきて、それはすぐに溢れ出した。受け付けのお姉さんは、ギョッとした顔で僕を見つめてくる。


「い、嫌だ⋯⋯死にたくない⋯⋯ヒグ⋯⋯でも冒険者になりたいよー⋯⋯ヒック⋯⋯毎日⋯⋯頑張ってるのに⋯⋯うわああ゛〜⋯⋯」


「え? え?」


 泣いた。もう盛大に泣いた。今の僕は周りも何も見えていないんだ。


 悔しかったんだ⋯⋯想像しただけで怖くて動けなくなった。衝撃的だった。死ぬ想像なんかした事なかったんだ。僕は何のために頑張ってたんだろう。僕じゃ父様や母様のようになれないんだと思ったら、悔しくて情けなかった。


「ちょ、ちょっと! 泣かないでよ! 確かにちょっと脅したけど、それは君のためであって! あぁん! もう。どうしよう」


 お姉さんが困っている。困らせてるのは僕だ。泣き止まなきゃいけないのはわかっているのに、次から次へと溢れてくる。


「よっと」


 その時、後ろからひょいっと抱き上げられたらしい。僕の目の前に髭モジャの顔があった。


「男がそんなに泣くもんじゃねぇぞ、ボウズ」


 頭を撫でて、強制的に落ち着かせようとしてくれてるみたいだ。僕も泣きやみたいので、本当に助かる⋯⋯安心するよ⋯⋯


 目を服の袖で擦り、何とか笑顔を作ろうとしてみた。お姉さんはホッと息を吐き出している。


「ふむ。良い子だな」


「ごべんなさい⋯⋯ヒック⋯⋯止まらなくて⋯⋯」


「良い良い。まだ子供なんだからな。はっはっは」


 僕の頭を撫でながら、髭モジャのおじさんは受け付けのお姉さんに顔を向ける。


「それで? 何がどうしてこうなったんだ?」


「は、はい! 実は⋯⋯」


 お姉さんが先程のやり取りを説明した。髭モジャのおじさんは少し難しい顔で話を聞いている。


「そうかそうか。ボウズはどうしても冒険者になりたいのか?」


「な゛りたい! どうしても、冒険者に⋯⋯なり⋯⋯たい」


「どうしてもなりてーか〜。そうだな⋯⋯まいったな」


 髭モジャのおじさんは、片手で髭をさすりながら考え始めた。僕もやっと涙が落ち着いて、少し周りが見えてくる。


 僕は今、この場にいた全員から視線を集めてしまっていた。

 困らせて迷惑かけて、僕は何をやってるんだろう。急に申し訳なくなって、僕は顔を俯(うつむ)ける。


「じゃあこうしよう。俺が試験官をやってやる」


 その言葉を聞いた全員が、何故か驚愕の表情をしていた。どよめきも聞こえてくるし、プルプルと震えている人までいるみたいだよ。


 僕もわけがわからない。さっきまで危ないから駄目だって言われてたのに⋯⋯何で試験してくれる事になったの?


「でも、死んじゃうかもって⋯⋯聞いたよ?」


「大丈夫だ。怪我すらさせん。俺くらいになればな! はっはっはっは」


 髭モジャのおじさんが歩き出した。その後ろをその場にいた多くの人がついて来る。

 階段脇にあった大きな扉を押し開くと、そこは大きな訓練場になっていた。

 固めた土の地面が平たくならしてあって、使いやすそうな広いグラウンドにも見える。

 屋根がちゃんとあるので、体育館とでも呼んだ方が良いのかなぁ。


「おーい。ちょっと試験に使うから散れ、お前ら」


「「「「はい! 直ぐに!!」」」」


 訓練場の中には、ここを利用している冒険者さん達がいた。だけど、髭モジャおじさんの一声で、全員が脇に避けてくれる。


 僕も将来髭を生やしたら、この人みたいに偉くなれるのかな?





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