第4話 俺と幽霊娘たち2

 数分後、俺は2人の幽霊を正座させていた。

 あの後も必死に抵抗する貞代たちだったが、俺の念入りに心を込めたアイアンクローで分かりあえたようで今ではとても大人しい。

 まるで息も絶え絶えと言った様子で倒れ伏している。



「で? ホントなんなのお前ら?」



 俺は腕を組みながら2人に話しかける。


「わ、私達……、殺されて地縛霊になった幽霊なんです。たまり場であるこの部屋に人が来る度に追い払ってて……」



 貞代と名乗った女幽霊が答える。ちなみに佳代と呼ばれる幽霊はオドオドとした様子で俯いたままだ。どうやらかなりシャイな性格らしい。



「殺されたことに関しては同情するよ。でも何でここに集まるのさ? 貞代だっけ? お前さんはここに住んでたみたいだけど佳代って子は違うだろ」



 俺の記憶が正しければこの部屋で死んだのは女性が一人だけ。確か大量の血痕と切り落とされた肉片が見つかったんだったか?

 おそらくそれは貞代のことだろう。でも無関係そうな佳代までこの場所で地縛霊やってるんだ?



「えっと私達、殺されてこのマンションの地下に埋められてるんです。あ、私達お隣さんなんですよ」


「と、隣……私たちの死体……隣り合わせ……友達……」



 マジかよ。貞代のやつ、世間話でもする気楽さでとんでもない事実暴露しやがったな……。これって同一人物による連続殺人だろ。

 犯人捕まってないよね?  俺って殺人犯と同じ空間にいたってこと?

 いかん、急に不安になってきたぞ。警察呼ぼうかな……。



 そんな事を考えながら警察に電話しようとスマホに手を伸ばす。

 その瞬間、身に覚えのない着信音が鳴り響いた。もちろん発信源は俺のスマホだ。

 スマホ画面を見ると電話してきたのは『水沼奈々』? 

 知らない名前だ。誰だコイツ?そもそもこんな曲設定してないはずなんだが……。

 訝しむ俺の前で勝手にスマホが電話がつながってしまう。

 そして画面に映っていたのは―――。


「……おいおい、随分と悪趣味だな」


 そこには俺の写真が写されていた。しかも顔が切り取られている上に全身血まみれになっているというホラー写真だった。



『あー、やっと繋がったの~』


 スピーカーから舌っ足らずな声が聞こえてきた。

 おそらくは幼い女児の声だろう。



「おい、これはどういうことだ?」



 俺は不機嫌そうに尋ねた。正直言ってあまり気分は良くない。なにせ俺の写真を悪趣味に加工されたのだからな。


『それはプレゼントなの。お姉ちゃんたちをイジメた罰をこれから与えてやるから覚悟するの』


「お前がか? そいつは無理だね。お前からは大した力を感じない」



 この電話相手、水沼奈々という霊はさほど脅威ではないだろう。おそらくは貞代や佳代の方が遥かに強力な霊のはず。

 奈々の霊圧から察するに軽いイタズラ程度の霊現象しか起こせないはずだ。



『……お兄ちゃん、調子に乗ってるの?』


「いいや、別に。ただ思ったことを言っただけだ」


『奈々の真の力を知らないからそんなことが言えるの。確かに奈々は強くはないの。でも今のネット全盛な時代なら最強クラスなの』


「なんだと?」



 ネット全盛なら最強? 一体どういうことだ? 

 俺の疑問に答えるように、奈々が言葉を続ける。



「幽霊は生者と違って眠らないの。これからずっとお兄ちゃんに張り付いて、エッチなビデオを見て自慰してるお兄ちゃんの動画撮影して、それをモザイク無しの実名付きでネットに拡散してやるの」


「なんだとっ……!?」


 コイツマジか!? なんて恐ろしいことを考えるやがる! 

 そんなことされたら待っているのは社会的な死のみ。

 動画は拡散され、二度とまともな生活は送れないだろう。まぁ俺の地元に住む変態共ならご褒美と感じるかもしれんが、真っ当な俺にはとても耐えきれない。


 ……こいつ、俺が今まで倒してきた霊で最も手ごわいかもしれん。

 俺は戦慄しながら貞代たちに視線を向けると彼女達は青ざめた表情でブンブンと首を縦に振った。

 どうやら奈々は本気で言っているらしい。俺は予想外な強敵の登場にゴクリと唾を飲み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る