肝試し
私が学生のころの話なので、かれこれ20年以上前になります。
友人と宅飲みをしている時でした。
大学の先輩から電話がかかってきて「今から肝試しに行こう」と誘われました。
何かとお世話になっている先輩だったし、友人も「おもしろそうじゃん」と乗り気だったので肝試しに出かけることにしました。
ほどなくして先輩が車で迎えに来たので友人と乗り込むと、車には先輩の彼女も乗っていました。
その彼女さんはいわゆる「見える」人で、「ほんとは嫌だったんだけど…」と苦笑いしていました。
30分ほど車を飛ばした山の中にその心霊スポットはありました。
そこは地元でも有名な廃墟で、もとは何かの病院だったそうです。
子供や看護婦の霊を見たとか、女の高笑いが聞こえたとか、肝試しにいった人がおかしくなったとか、怖い噂が尽きない場所でした。
少し離れた空き地に車を止めて先輩と彼女、私と友人とでペアになって肝試し開始となりました。
傾斜のある砂利道を登っていくと、バリケードで覆われたコンクリートの壁や柱が見えて来ました。
大きな門柱と錆びて変色している門、鎖でぐるぐる巻きにして通行を妨げるようになってはいるものの、人が通れるくらいの隙間は空いてしまっているので、そこから潜入していくとのことでした。
明かりは懐中電灯だけ。
濃い闇の中でより黒くうっそうとそびえ立つ病院廃墟。
雰囲気があります。
さあ、乗り込むぞという時でした。
前の方を歩いていた先輩の彼女さんが、早歩きで引き返して来ました。
「どうしたんですか?」
「戻りましょ」
険しい表情で端的に言い放っていきました。
前を見据えたままザッザッザッと急ぐ彼女さんの後を、怪訝な表情で先輩がついていきながら、私たちと目を合わせて無言で首を傾げました。
先輩も状況がよく分からないようです。
とにかく彼女さんの後ろについて行く形で車に戻りました。
車を走らせると落ち着きを取り戻し、理由を話してくれました。
錆びた門にさしかかり、鎖を分け入って入り込もうというときでした。
その少し奥にある病院入口の階段あたりに、誰かが立っているのが見えたそうです。
白髪で染まった灰色の髪。
スラッとした長身。
60代くらいのおじさんが
両手を広げて立っているのが見えたそうです。
まるで「ここから先へ行ってはいけない」と警告するかのように。
よく見ると口が動いていて、それは
「○○○、○○○(先輩の名前)」と先輩に対して呼びかけているように見えたので、急いで引き返して来たというのです。
うわー、そういうことって本当にあるんだなぁと、怖いながらもワクワクして話を聞いていましたが、その話を聞いていた先輩がぼそっと
「おじさんだな」と言ったんです。
「そうですね、彼女さんもそう言ってましたよ」と相槌を打つと先輩が
「いや、たぶん俺の叔父さんなんだ。もう死んだけど」と答えました。
続けて
「両手を広げてたのは通せんぼしてたんじゃなくて、『ようこそ』ってやってたんだと思う」と言うのです。
小さい頃その叔父さんの家に遊びに行くと、先輩の名前を呼びながら叔父さんがよくとるポーズだったそうです。
先輩も叔父さんのことが好きで、叔父さんが病気で入院されてからもよくお見舞いに行っていたそうですが、ある日、「あ〜、○○○が代わってくれたらなぁ」とつぶやいていたのを偶然聞いてしまったそうです。
それに気づいた叔父さんがすぐに「冗談だよ」と笑ったらしいのですが、そのつぶやきが先輩には冗談に聞こえなかった。
それからお見舞いに行くのがなんとなく怖くなってしまった。
だんだんと疎遠になるうちに叔父さんは亡くなってしまったと話してくれました。
「やっぱこういうことするもんじゃねぇな」と先輩は呟いたあと、少し悲しい目をしていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます