第19話 特別招待
まずは町の案内所へと赴くと、そこで色々な情報を手に入れることができる。シオンがニケに外で待つように伝えたのは、あまりにもそこがごった返していたからだ。
その理由は後々分かったのだが、〈
魔力を使って何かを生み出したり、その力を武術とかけ合わせたり、いわば魔力を応用することを
そして、それを生業にする人のことを
かなり人が多いことに驚いていたシオンは、その理由に納得した。〈魔導競技大会〉はイグニス特有の文化であり、その頂点に立つ者はイグニスへの永住権が与えられるという。
イグニスは鉄鋼産業においては大陸随一と言われていることもあり、潤沢な資金源を持つこの国に憧れを持つ者は多い。永住権が得られるとなれば、参加者が続々と集まるのもうなずけることだった。
「遅いなあ、シオン」
そんなことはつゆ知らず、外で待てと言われたニケは全然戻ってくる様子のないシオンを待つのに疲れて、ちょっとだけならと周辺を散策していた。
「ずいぶんと、人が多いのね」
辺りを歩きながらニケは、行きかう多くの人々と、ごった返すような市場を遠目に見ていた。様々な服装の人間が入り乱れ、中には
物珍しい町並みにきょろきょろしていると、地面に出ていた何かにつまずいて思いっきりこけた。
「いたたた……あ、あれ、精霊? ごめん、私あなたを踏んじゃった? 大丈夫、怪我はない?」
ニケが慌てて近寄ると、辺りにいた大人たちが怪訝そうな顔をしてニケを見つめる。
その目には覚えがある。精霊が、見えていないのだ。
ニケは地面から顔を出していた大きなウサギに似た耳を持つモグラとネズミを掛け合わせたような形の精霊をじっと見つめたが、大丈夫とでもいうように首を傾げられただけだった。
手を伸ばすと、長い鼻先をニケに寄せてくる。小刻みに振るわせて匂いを嗅いでいるようだった。その鼻先から、ちりちりと火の粉が一瞬舞った。
「ふふふ、かわいい。あなたはこの町の精霊? 名前はなんていうの?」
『……ついて来い』
「え?」
急にその精霊が話し出して、ニケは驚く。驚いている間にも、精霊は土に半分潜った。そして、地面を盛り上がらせながら進むと、ぴょこんと鼻先を出してニケがついてきているかどうかを確かめた。
「だめだよ、私、人を待ってて」
『いいから来い』
ニケは精霊と、いまだにごった返している案内所を交互に見てから「すぐ戻れる?」と聞いた。それに精霊は答えなかったが、ちょっとだけならと思い、ニケはついていった。
地面を盛り上がらせながら精霊が道筋を示す。その後を追ってしばらく歩いていると、ものすごい歓声が聞こえた。その声につられて地面から顔を上げると、目の前には鉄の外壁でできた見たこともないほど大きな競技場があった。
「なに、ここ。すごい声」
ニケが呆然としてその場に立っていると、制服を着た競技場の見回り警備員がニケを見つけた。
「あ、君が特別枠の出場者かな? こっちだよ、来て。始まっちゃうよ」
「私違います……あのモグラみたいな精霊についてきたら」
「精霊に連れられてきたんなら間違いないよ。今さっき指示が来て、精霊が連れてくる子を案内するように言われているんだ。――さあ早く」
手を掴まれて、それにニケはしどろもどろになる。いつの間にかモグラのような精霊は消えていて、ニケはこっちこっちと引っ張られるままに競技場内へと入ってしまった。
「ここで待機していて。今準備を早急に整えているから…あ、子ども部門で優勝すると、この町の魔導士マグナさまが書いた、金の精霊に関する魔術書がもらえるから頑張って」
肩をポンポンと叩かれてしまい、制服の警備員は立ち去ってしまう。
「え、ちょっと。どうしよう……シオン」
ニケがふと気がつくと、そこには同い年か、もっと小さい子まで、数人の子どもたちが部屋の中で待機していた。その寡黙な子どもたちをニケはきょろきょろしながら見る。
とつじょ現れたニケに、じろりと視線を向けてくる子もいれば、完全に無視して精神統一している子もいる。ニケだけがその場で浮いていた。
「あ、あの。これは一体……?」
隣にいた何かぶつぶつとつぶやいている同い年くらいの子に話しかけると、ものすごく迷惑そうな顔をしながら、壁にある張り紙を指さされる。
「〈魔導競技大会〉だよ。知らないで来たの?」
「なにそれ。どうしよう、精霊がついて来いっていうから来たのに」
ニケのつぶやきは周りが静かだったためにやけにその場で大きく響いてしまい、そのせいでみんなが一瞬にしてニケのことを注視した。
先ほどまで迷惑そうな顔をしていた男の子まで、あんぐりと口を開けてニケを見た。
「あんた、精霊に導かれて来たのか? じゃあそれは、マグナさま直々の招待じゃないか。あんた、何の魔力を持っているんだ? どんな魔導を使うんだ?」
急に饒舌になった男の子が身を乗り出してニケに詰め寄ってきたのだが、ニケは訳がわからない。何を答えていいのかも、状況も理解できないまま、まともに会話さえできずにどうしようかと思っていると、扉が開いて誘導の係員が顔を出す。
部屋の中を見渡してから、そこできょとんとしているニケを見つける。そして、手に持った資料に何やら書き込みを始めた。
「そこの
早く、と急かされてニケは飛び上がってそちらへと向かった。振り返ると、子どもたちの畏怖の念と、興味と、そして嫉妬の目線が追いかけてくる。
「どうしよう」
とんでもないことに巻き込まれたのだけは、ニケにも理解できていた。
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