10 ー萌衣ー
「clubA(エース)のナンバーワンは萌衣。
断トツだったよ。これからもちゃんと見てるからね」
半年に一回ある全体ミーティング。
代表の話と,売上とか色々話した後に,各店舗のナンバーに入ってる子の名前をナンバースリーから順に皆の前で発表する。
その順位によって,呼ばれた時差し出される封筒の中身は違うみたいだけど,あたしは興味無い。
とりあえず笑顔作って,席に戻る。
「またメイかぁ~悔しい…次は私が取るからっ!お互い頑張ろっ!」
それぞれの店に戻る時,たたたっと寄ってきて,意気込みと悔しさ,そして思いっ切り良い笑顔を見せていた桃花はもういない…。
(モモが努力してるの分かってたからあたしだってこうやって頑張って来れたんだから…)
気を緩めたら追い付かれ,並んでお互いの顔をさぐり合う事だってあった。それがあったからこそ充実して萌衣としていれたのに
今そこまでして必死で追い掛けてくる子は居ない。
桃花が居なくなってから暫く,あたし以外はころころ変わった。一度ナンバーに入っちゃえば満足なんだか分からないけど
うしろを振り返ったって,全力で向かって来る子はおろか,だいぶ遠くで仲良くたらたら走ってる子ばかり。
…あたしだけが一生懸命足が痛かろうが走り続けて馬鹿みたい。
(メイっ!今度こそ勝つからねっ!!)
表には出さない闘争心で,いつも一生懸命走ってたモモがいたからこそ…今まで頑張ってこれたのかもしれない。
ほとんど同じ時期に入って,何かと一緒の席に着く事が多く自然と仲良くなった。
「ねぇ,店長。最近桃花来てないけど,何かあったの?連絡取れないし」
あの時,一瞬空気が変わって重くなった
「あぁ……とんだよ」
それで察してくれと言わんばかりに短い言葉が返ってきた。
とぶ…簡単に言えば,何にも言わずにバックレる事
(は?!そんなんしたところでモモにプラスになる事あるの?ずっと長い間あたしだってヒヤヒヤする程努力して常に目標があったのになんで?!)
その言葉を一番ぶつけたい本人とは連絡どころかどこにいるのかさえ分からない。
…今でもあたしの中でその言葉が渦を巻いていて,もうそのやり場のない気持ちだけが原動力になってた。
暫くザワつく日が続いて
あたし達も何回も話し合いの場に呼ばれたし,店長とかボーイ達はもっと動き回らなくちゃならなくて,オープン前から疲れてソファーでぐだっとしてる姿を見てきた。
やり場の無いこの虚しさと悲しさはみんな同じなんだな…って感じた。
だから私は今まで以上に努力した。それを見てくれてる……と思って,女の子達の目標になれるように,視野も行動範囲も広げた。
変化が目でわかるようになるまで時間は掛かったけど…一部の子は頑張ってるのがこっちまで伝わる程変わった。
あたしはこの店しか知らないから,他の店ではどうやってるとか全く分からないけど
つまんない気持ちでいるのは違うと思ったから今もこれからいつまで続けられるか分かんないけど頑張るつもり。
何人も辞めたり変わっていった。この世界って入れ替わりが物凄く激しかったりする。
けど,十八からここまでこれたのも皆のおかげだし
「メイ,本当にありがとうな」
そんな風に店長にあらたまって言われたらさ…悔しいけど,やるしかないから。
頼まれた訳では無いけど,今まで以上にあたしはこの店を考えるようになったし,気持ちも強くなれた。
あの人……名前なんだったっけ?
この店にヘルプでよく来てた人。
雰囲気から勝手に歳上だと思ってたあの人
あの人とモモは全然似ても似つかないけど,どこか似たモノを感じてたんだよね。
一回も喋る事無かったけど…
そうそう!一人だけ黒のロングドレス着てたその人!!
…そう言えば,全く見なくなったなぁ
その人を見つけると,自然と(負けたくない)って思えた人……
タクシーを降りて店へ向かう。
「メイちゃんっ,おはよう」
「おはよー。明日同伴だからお願い」
「はい」
鉄の冷たい音が響く階段を上がる
(なんかユウキも感じ変わった…?
……まぁいっか。今日も頑張ろう)
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