カウントダウン

それからは大した変化もない日々を過ごした。

表に出さないだけで,心は強弱を付けながら何かを訴え続けてた


どちらかと言えば感受性が強く

言葉や表情…

あるいは五感で。

目に映るもの

耳から聞こえるもの

鼻で感じる様々なにおい

舌であらゆる味を

手や体,肌が感じる空気の変化や刺激…


…なのに

そんな自分の心が発することを無視し続けた。

なんとなく分かっていたから

なんとなく甘さより苦さと痛みを感じていたから

「なんとなく」で生きてきたくせに,その「なんとなく」が今はムカつく程おれを追い詰める



「何度も何度も思い出すから憎ったらしい程に消えてくれない」



マユの言った通りだ。

一度考え込んでしまうと,人生のあらゆる場面が憎らしいくらい鮮やかに映像として流れてくる。無理矢理断ち切っても,いっくらでも湧いてきては溜まるだけで消えはしない…

ただそれから逃れる為に,自分の心から逃げ続けた。


その途端に全てが少しずつズレてゆき

笑ってるはずなのに「怖い」と言われたり「なんか変わった」と言われるようになった。



余裕なんてなかった…


そして

おれだけでなく,周りも良くない方へ動いていた。


桃花がとんだ。

それと同じタイミングでクレアの店長のカズが,主任と相談していたらしく店から去った。

これだけでも騒ぎになりミーティングを何度も開き,女の子の間で憶測や噂が流れ続けたが,桃花と連絡も取れず行き先も知る事が出来ず,特にナンバーワンを狙える位置にいた子が抜けることは大きすぎた。


それでも残って一生懸命現状を良くしようとする店長やボーイ,女の子は大変なはずなのに,力をくれた



マユは以前より頻繁にヘルプで来る回数が増え

「マユちゃんっ」

と笑い掛けるのは続け,マユも頑張っていたが

仕事中以外は口数は更に減り…一切笑顔を見せなくなり,いつもの場所に送り届けるまで目を閉じて何を考えてるのかさえ分からない事も増えた




マユと出会ってから約半年が経つ頃

静かに…,そして二度とおれの前に現れることはなかった

自分から目を背け,逃げ続けていた自分だけが気付くことが出来なかった

きっと,この中では一番近くにいたハズのおれだけが……






ふっ…

また思い出してしまった


腰を上げ,再び夜の街におれは出た。

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