第8話 『裏側へ』

八.


「ナルホドナー。まぁ納得できねーことはネーナ」


 家に帰ってランに話してみるとそんな反応が返ってきた。




「電車が横転なんて普通はありえないもんな」


「そーダナ。ケドどんな力を持ってたらあんなモンタオせんダヨ?」


「それがわからないから調査しようって言うんじゃないか?」


「つーてもナ?コウヤはよく知らんかもしれねーけど心霊現象ってのは結局のとこエネルギー現象だから直接何かできるっつーワケじゃネーんダゼ?」


「あ?でもポルターガイストとかって物動かしたりするじゃん」


 ポルターガイスト、騒霊などとも呼ばれる心霊現象で、誰も触れていないのに物が突然動き出したり騒音を発生させたりすると言われている。


直接何かできるわけではないと言うならそれはどう説明するというんだろう?




「なんつーのカネ。振動とか光を発生させたりするコトはできんダヨ。感情がタカブったレイはエネルギーとして物質に影響をアタエることがあるからナ。モトモト、レイってのは感情のカタマリみたいなモンだしナ」


「それがポルターガイストとかそういうものってことか」


「そゆコト。ケドソコが限界なんダヨ。レイが生きてるヒトにフレらんねーのは知ってるよナ?結局はソコまでしかレイにはできネー。レイってのは生き物じゃネーんだからナ」


「肉体を持っていないからある程度以上の干渉はもうできないって感じなのか」


「だから、アレを心霊現象ってコトで調べんのはソーケイだと思うゼ」


「ソーケイ、早計か。じゃあランはなんだと思うんだ?」


「サァ?」


「なんだよ、思い当たる何かがあるってわけじゃないのかよ」


「ネーコトはネーけど、確証のネーコトは話さネーシュギなんダヨ」


「そっか。いやまぁ、でも参考になった。サンキュ」


「まぁ、本格的に調べんならオレもツレテけヨ」




 そんな感じの話を昨日してしまい、まぁしかしランの知識はありがたいので本日、ランを学校に連れてきてしまっていた。


 部外者を連れ込むのはまずいかなーとも思ったけど、役に立つなら許してもらえないかな。


私立だしあんまヤバいことすると補導されそうだけど。


その辺ランにはよーく言い含めてある。




 今向かっている特別教室はぼくらの教室から結構離れた位置にあった。


そもそも棟が違う。


 学生棟と言われる教室の集まりの棟から職員棟を越えて特別教科棟、部活棟などを越えて一番端の研究棟と呼ばれる、一般の生徒は立ち入り禁止となっている棟だった。


 私立なので棟が多いのはわかるのだが生徒立ち入り禁止があるってどうなのかと思うが。


しかもその入り口はオートロックで厳重なセキュリティで硬く閉じられている。




 そんな研究棟のカードキーを昨日理事長からもらっていた。


なんと言うか、知ってはならないことを知ってしまうような気がして少し怖い。


ちなみにハルは理事長に連れられて学園に残ることになっていた。


心配ではあったがハル自身が決めてしまったのでぼくも従わざるをえない。


 事故について理事長から詳しい説明などを聞きたいのだそうだ。


ぼくよりははるかに詳しいだろうし仕方がない。


それよりハルが調査に関してそこまで乗り気だったのは少し意外だった。




 やっぱり怖いだろうと思っていたのだ。


自分自身の死、なんて普通耐えられない。


心の整理をしたほうがいいと思っていたのだが思っていたよりハルは強いのかもしれなかった。


 他の誰かがまた犠牲になってほしくない、そういう気持ちがとても強いのだとハル自身は言っていたが。


本当のところどうなのかはよくわからない。


無理とか、してないといいけど。






 カードキーでロックを解除して研究棟に入る。


『認証、反応二個体。承認できません』


「あ?」


 中には人が一人くらいしか入れないような個室があって一瞬光ったと思ったらそんな声が聞こえた。


人の声というよりはなんか機械の声っぽい。


 そして次の瞬間、アラートが鳴り出した。




「え、ちょ!?」


「なんかヤバくネ?」


「ヤバそうだけどなんでだ!?」


「オレのせいダロ」


「なんでそうなる!?」






『彼が妖怪だからだよ』






 聞き覚えがある声。


昨日の夕方聞いた声だ。


個室の天井の方からスピーカーを通した声が響く。




「どういうことですか、理事長?」


 スピーカーから聞こえたのは理事長の声だった。


声のトーンは特に低くもなくて、なんだかやさしげな響きすら感じる。


どういうことなんだろう?




「オメーカヨ」


『そういうことだよ、ラン。よく来てくれた。二人とも入ってきてくれて構わない』


「え?ちょっと、ラン、どういうことだ?」


「とっととイクゼ」


「なんだよ、なんなんだよ?」


 わけがわからないままランにせかされて理事長の声と共に開いた前方の扉を通り抜けた先には玄関ホール。


新しい建物なのか全体的にとても清潔な気がする。


とても綺麗で時間による汚れや損傷などをまったく感じさせない。


すべてがピカピカに磨かれているようでさえあった。




「おはよう、二人とも」


「あ、理事長おはようございます!」


「おぅ」


「おい、ラン?」


「構わないよ」


 横柄な態度で片手を上げて前に出るラン。


とがめようとにらむと理事長は笑って首を振る。




「どういうことなんです?」


「この建物は神明会の日本支部の中心と言ってもいい研究所でね。妖怪や幽霊といった、一般の人間では判別することのできない存在を判別することができるようなシステムも開発している。さっきのはそういうシステムなんだ」


「あぁ、なるほど」


 だから、ランに反応したわけか。




 実はランは妖怪なのだ。


普通の人から見たらただの猫に見えるようなのだが。


ぼくやアヤ、そしてアズなんかから見ると羽の生えたしゃべる黒猫だった。


 種族としては『名無き』と呼ばれる猫の妖怪らしい。


家族に憑き、その家族を幸せにする妖怪だという。


しかし、まぁそういった妖怪にはありがちなのだが去ったのちはその家族は没落し、不幸になる。


だからこそランはうちの『家族』にはならないのだろう。


 本人は認めないのだろうが結構やさしくて思いやりのあるやつだった。


もうすでにかなり長いこと生きているためかなりの知識を持っている、とのこと。




「だから空飛ぶ猫でも驚かないわけですか」


「それだけではないのだけどね」


「え?」


「そこのリジチョーとやらはオレの悪友になんダヨ」


「はぁ!?」


「そういうことなんだよ。昨日私が言った妖怪の友人は彼だよ」


「本当に知り合い、なんですか?」


 いや、確かめるまでもなくそうだろう。


なんたってまずランの名前を知っていたのだ。


今日学園に入ってから一度も名前を呼んでいなかったのに。




「シンレイタンテーなんてやってる学園とかキョーミあったんだが、そーか、オメーがやってんのか、レイ」


「そうだよ。久しぶりだね、ラン。また会えるとは思ってもみなかった」


「できればアイタクなかったゼ。コウヤが関わんのも反対してーナ」


「悪いようにはしないさ」


「ダローナ。それはわかってるサ。オメーならドコのダレに任せるより安心だ。ケドな、レイ。コウヤをアソコにイレルのダケは反対だ」


「拒否されれば強制なんてしないよ。けれど、それを決めるのは彼自身だ」


「フン」


 話の内容はよくわからないが本当に仲がいいのは確かなようだった。


なんのことなのかいまいち把握できないがぼくについてランが心配している。


神明会のことなんだろうか?


 つまりランも神明会を知ってる?


けどなんで反対するんだろうか?


何か嫌な思い出とかあるということ?


よくわからないがまぁ、またあとで話を聞いてみよう。




 それよりも今は、


「ハルはどこです?」


「あぁ、もう教室に行っているよ。今から案内しよう」


「よろしくお願いします」


 ランと知り合いなら心配ないとは思うのだがそれでもやはりハルの顔を見ないとなんだか安心できない。


それにもうそばにいられる時間も少ないだろうし。




 特別教室はその建物の二階にあった。


たくさんの部屋があるようだがどこも扉が閉まっている上窓すらないので中がどうなっているかがわからない。


しかしその教室だけはまさに教室、と言う普通の教室だった。


学園の教室よりははるかに綺麗ではあったが。






「みんな、今日からの調査に参加することになる仲間を紹介しよう。秋月 紅夜くんだ」


「おはようございます、コウヤです。よろしくお願いします」


「おぁにー」


「ふん、また凡人そうなやつが来たな」


「おはよう。よろしく」


「よ、よろしくおねがいしますっ」


 四者四様の反応をいただく。




 って待て、明らかに聞き覚えのある声がいなかったか?


「やっぱりこーも入るにー?」


「やっぱりお前の声だよな!?なんでここにいるんだ、アヤ!?」


 ということで、おなじみのにーにー娘のアヤも心霊探偵倶楽部のメンバーだったとさ。


 マジかよ!?

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