第9話 『自己紹介』
九.
「アヤちんも霊視できるにー」
「いや知ってるけどな?」
しかしアヤは普通に学校に来てるし、一般人だと思ってたからいるとは思わなかった。
「とりあえず全員紹介しておこうか」
あ然としているぼくを置いて理事長がメンバーの紹介を始めてくれる。
「君と同じクラスで君とは幼なじみの冬木 あやめくんは知っているだろうね。霊視能力に予知能力、そして千里眼にテレパシーなどなど。ESPなどと称される部類のエキスパートだね」
「え、お前そんなにいろいろできるの!?」
「そういうことになってるにー。受信しかできないからあんまり使い道ないけどに」
「我々としては彼女のように多彩な能力を持つ若い才能が放って置かれるのはもったいないと言うことで勧誘させていただいた」
「アヤがそんなにすごいやつだったとはな」
「そんな凡俗などオレから見ればただの凡人だ。そいつの才能などオレと比べるまでもない」
不機嫌そうな声を上げたのは地毛っぽい金髪で整った顔立ちをした少年だった。
挨拶のときから思っていたがなんと言うか、失礼なやつだ。
人をバカにするのが好きなんだろうか。
なんか友達になれそうもないやつだなぁ。
「あぁ、紹介が遅れてすまないね」
「別にそんな凡俗にオレのことを知ってもらう必要などない」
そう言いつつアヤが先に紹介されたのが気に入らなくてしょうがないという態度だったが。
なんだ、素直じゃないやつなのか。
「彼は三島 晶くん。神明会にも古くから名を連ねている三島家の次期当主で彼もまた多才な方なのだよ。霊視は当然のことながら霊体感応、念写や読心術、様々な言語や学問に精通している上、幼少時から次期当主としての英才教育で身につけた三島流と呼ばれる古武術を会得している」
ぶっちゃけた話をしよう。
なんだそのハイスペック。
意味のわからん言葉もあったけどわかる範囲だけでも十分すぎる能力値だった。
言語や学問ができる上武術も習ってる?
やりすぎだろ。
いやはや、なんだか自信満々なようだが、なるほど確かにその自信に値する程度には才覚を持った人らしい。
ちなみにそこで説明を受けたので軽く紹介しておく。
まず霊体感応というのは霊体、つまり幽霊などがいるとどの辺にいるのか、たとえ隠れていたとしてもわかるらしい。
感じ取れる範囲は半径一〇〇mほどだとか。
それってものすごいことなんじゃないか?
近くにいなくてもわかるって。
霊感が多少ある人だと霊体がいるとなんとなくわかるらしいのだがそれの強化版みたいなものらしい。
ちなみにぼくは霊体と人の区別が出来ない。
それと霊体を自分の中に任意で憑依させることができるとのこと。
普段人間と言うのは意識のある状態では幽霊のような、精神のかたまりのようなものに対して拒否反応が出るため、まず幽霊などに精神を乗っ取られるような危険はない。
ついでに言うと寝ている状態であろうと人間は意識があるため普通人間の身体に霊が憑依するということはありえないのだ。
ここでひとつ精神についてわかりやすく説明すると、精神と言うのは液体だと考えるのがわかりやすい。
そして精神が入っているこの身体には入れ物となる器があると思えばいいのだ。
精神と言うのは絶えずその器の底から湧き出る液体。
器は基本的に満タンの状態を保たれており、湧き出た分外にこぼれていく。
こぼれた精神は普通世界へと還ってしまうのでそれが残ることは通常ありえない。
まぁ、こぼれた液体は蒸発して消えてしまうと思えばいいのだ。
そして幽霊などはそのこぼれた液体のかたまりが動いているような状態。
集まっているから蒸発のスピードは遅いがいつかは蒸発しきって消えてしまう。
そのため幽霊は生まれたとしてもいつまでも残っているなどと言うことはない。
幽霊自身は本能的にそれを知っているのか、器を求めて動くらしいのだ。
人間にはみな器があるわけだから、人の多く集まるところに幽霊は現れやすいと言う。
先ほども説明した通り、人間の器は満タンである。
幽霊がもぐりこんでしまったらヤバいじゃないかと思うかもしれないがそれはありえない。
と言うのも、精神の液体と言うのは生きている人間の液体の方が比重が大きいのだ。
物理を少しでも学んでいる人ならわかるだろうが比重の大きい物質の方が液体と言うのは下に行くものである。
つまり、比重の小さい幽霊の液体が入ろうとしても比重の大きい人間の液体の方が下に行ってしまうため、あふれ出してしまって中に入ることが出来ない。
水と油のような感じだ。
そしてここで話は戻る。
霊体感応体質であるアキラのような人は精神の入れ物を二つ持っているのだ。
しかも任意で操ることができる。
どういうことかと言うと、フタ付きの器をもうひとつ持っている、と言うわけだ。
フタを開いた状態にすれば幽霊の液体が自由に入ってこれるようになっていて、その状態なら幽霊の意志を顕現させることも出来る。
そしてその状態でフタをすると幽霊は閉じ込められ、眠った状態になってしまうらしい。
そうやって幽霊から話を聞いたりできるとのこと。
そして任意でその器をひっくり返して中身を出すこともできる。
さらに、フタをしてしまえば幽霊の液体は入ることができない。
そう言う使い方のできる体質とのことだった。
「次に島谷 霧くん。霊視があり、さらに学者だ。この年齢にしては非常に逸脱なほどの心霊現象や妖怪に関する知識がある。そして、探偵にふさわしいだけの判断能力と推理能力を持っているのだよ。物静かな子だが頼りになるのでよろしく頼むよ」
「キリでいい」
「あぁ、よろしくな、キリ」
特徴はないけどかなりの美形な顔をした彼だったが完全に無表情。
眠そうに見えないこともない。
だからと言って態度は悪いわけでもなく、握手を求めてくれたのでそれに応えた。
「次は天霧 花くん。霊視はもちろんのこと、家系的な関係で口寄せなどを得意としている。妖怪や神様を呼び寄せて手伝ってもらったりできるのだよ」
「は、ハナって言います!よろしくお願いしますっ」
「あぁ、よろしく。アンタもすごいんだな」
「い、いえ、そんなことはっ」
恐縮ですといわんばかりに腰の低い姿勢。
おびえすぎだろうこの子。
明るい色素で柔らかそうな髪やか弱くてかわいらしい顔を含めて実に女の子らしい女の子だった。
いまどきの女子高生って感じではないのだがマンガとかでヒロインやってそうな感じ。
「ボクがすごいって言うよりは家がすごいだけですよー」
てかボクっ子か!
この外見でボクっ子はなんかポイント高いな。
なんかかわいく聞こえる。
しかし、この態度に今の発言ってことはなんだ、家に対して、才能に対して負い目があるようだな。
口寄せ、つまりはRPGとかで言えば召喚術ってところだが、呼び出した妖怪などの力がすごければ呼び出した本人の能力も高い、と思われるのが嫌なんだろう。
気持ちはわかるがここまでへりくだらなくてもいいと思うのだが。
「そんなこと言ったらぼくなんて霊視しかないんだから口寄せ出来ない状態のアンタと一緒だ」
「そ、そうなんですか?」
目を輝かせてなんだか安心したような表情になったハナ。
なんかこうもうまく元気付けられてしまうとちょっと嬉しくなってしまうじゃないか。
「こーはそれだけじゃないにー」
「そうだね、紅夜くんはそれだけじゃない」
「え?」
「ガーン」
アヤと理事長に言われてきょとんとなるぼくとまた落ち込んでしまうハナ。
いや、ガーンて。
「紅夜くんには我々の想像だにしなかった不可思議な力がある」
「いや、理事長待ってください。ぼくには霊が見える以外にはなんもないですよ?」
少なくともぼくに自覚はない。
だとすれば、いったいなんなのだろうか?
「君の持っている力は『霊を一般の人間にも可視状態にしてしまう』という謎の力だ」
「なんだと!?凡俗にそんなことができるのか!?」
「そんなことがありえる?」
「な、なんてすごい力!?ボクなんかとは比べ物にならないくらいすごいじゃないですか!」
「にー」
え?
あれってそんなに不思議な力だったのか!?
てかさっきからそこのにーにー娘、マジで緊張感ねぇな!?
「コウヤにんな力があったとはナー。オレも知らなかったゼー」
「ぼくもよくわかってないんだよ」
「アヤちんも昨日初めて知ったにー」
理事長は仕事があるからあとは頼む、と立ち去っていった。
ぼくを送り届けるためだけに来てくれたようだ。
非常にありがたいことだった。
理事長の仕事はよく知らないけど、学園の生徒だって死人が出てるわけだしいろいろ対応が大変なんだろう。
「オイ凡俗」
「その呼び方なんとかならないのか、アキラ」
「キサマ、オレを呼び捨てにするな」
「凡俗とか言うやつに命令されたくねぇな」
「フン、キサマのような取るに足らないやつの名前を覚えることに時間を割いているほどオレは暇ではない。単刀直入に聞く」
めんどくさいやつだな、こいつ。
「キサマは本当に霊体を可視状態にできるのか?」
「あー、まぁ、昨日はみんなに見えていたようだが」
「凡俗どもでも触れられるほどに実体化したのか、視認できると言う程度の力なのか、どちらだ」
「視認できるだけ。触れることはできなかったな」
「フム。それはどの程度の範囲に有効だった?」
「あー、範囲?ぼくが触れている間は教室中の人に見えていたようだったが」
「触れている時だけ見える、か」
「そんなに不思議なのか?」
「あぁ、不可思議だな。ありえんとさえ言える」
はっきりと言い切られてしまい、なんだか自分でも自信がなくなる。
「どうもキサマは霊視能力をバカにしているようだから言っておくが、霊視というのは生まれつき霊を見るための器官が備わっていないと見ることができないのだ。後天的に見えるようになることなどありえない。霊感体質と言うのは後天的に授かることもある力だがな」
「そうだったのか?」
「霊感体質は一〇〇人に一人程度いるが霊視能力を持ったものは三億人に一人と言われている」
「三億!?日本中探しても一人いるかいないかなのか!?」
「統計であり、何故か日本には多く確認されている才能なのだがな。古くから日本は竜脈の集まる土地と言われているため、それが原因ではないかと言う説もあるが予測の域を出ない。霊視器官が備わる原因と言うのは判明していないのだ」
「まぁ、判明してたらもっといるよなぁ」
「そういうことだ。だからこそ、不可思議なのだ」
「あぁ、普通の人に見えるってのは、そりゃおかしいよな」
「竜脈の噴き出す土地、パワースポットなどでは心霊現象が発現しやすいと言われているがそれとなんらかの関係があるのだろうか?いやしかし、人間から発生する程度の微量なエネルギーで竜脈ほどのエネルギーが出るわけもない。ではいったいなんだと言うのか?」
すっかり自分の世界に入ってしまったようでぶつぶつとわけのわからない独り言を続けてしまう。
こちらに理解してもらおうと言う気はないらしく、もう用済みとばかりにまったくこちらを見ていない。
本当に失礼なやつだなぁ。
「コウ」
「あぁ、ハル、ごめん」
「ううん、いろいろ話もあるだろうししょうがないよ」
「大丈夫だったか?何もされてないか?」
「大丈夫だよ。理事長とは話をしていただけだし」
「そっか、なら、いいんだ」
「それよりね、コウ。話しておかなきゃいけないことがひとつあるんだ」
ドクン、と心臓が跳ね上がった。
何故かはわからない。
何か、嫌な予感がする。
ハルは、
「俺、あと今日を合わせて五日で消えちゃうんだって」
悲しそうな笑顔で、そんなことを言った。
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